リュックを盗られた

やったわ。ほんまにやった。今日はワンオペやのにミシンの購入があって、手続き一人でやるの初めてやってもうほんまに1時間くらい慌てふためいて、そのお客さんに後出しでこうしてもらうのが良かったのにねえ…と嫌味を言われ、その次に会計をえらい長いこと待ってたお客さんに、待たせた挙句に割引き忘れをしてしまい叱責のため口を聞かれてる間、バックヤードの鍵を開けっぱなしにしていたからだ。3連休の初日ということもあって人も多くなかなか鍵を閉めに行けなかった、そのすきに盗られてしまったのだろう。ああ、キャッシュカードを止めて、それから保険証って再発行できるのだろうか、月初で病院行っててよかった…。…5千円くらい入ってた気がするな…。
レジを締めてから1段階薄暗くなったデパートで一人、ロッカーの前で「ん!?!?!?!?!?」と最大の鼻音を発すると私は自らの過ちを憂い、それからの対処や感想を3秒ではじき出した。あがあ、ほなら自転車出されへんやんけ、スマホにSuica入ってるからもう電車で帰るしかないな。しかし、バックヤードに入ってまず最初に鍵のついた金庫があるのに、わざわざリュックを狙うとは如何に。いやでも、その時は金庫の中のカバンに売上金などは入っていなかったし、しっかり物色してリュックに行きついたのかもしれない。はー、リュックリュック。携帯を盗られていないのが不幸中の幸いだ。
脳内臨時会議が一通り終わろうとしたころ、一人の私が勇気を振り絞って言い放った。

「持ってきてないてことは無いでしょうか?」

場が騒然とし、吹き出す者もいた。「君、何言うてんねん。そんな訳ないやろ。あれか?小学生のときランドセル持っていくの忘れたことあるとかいうやつか?擦られたエピソードトークやのお!今日芸人でもそんな話せんわ」私は耳を熱くして俯くと、何も言い返せずにいた。確かにそういった話を当時から嘘だと思っていたし、第一私のカバンは常にパワーアンクルのように重く(これは何故なのか判明していない)、忘れてきた場合、必ず気付くはずなのだから。「よく思い返してみろ」また一人私が、俯いたままの私の右斜め後ろから言う。「バイトに来る前、違うカバンを持っていこうとしてやめたよな。それはどうしてだった?」「…バイト先で停めた自転車を出すときにお金が要って、最初に選んだカバンに財布が入ってなくて…。もう時間も無かったからリュックにした。」「…自転車を漕いでたから、デパートの中に入ると暑かったよな。どうしてバイト先に完全に着くまで上着を脱がなかったんだ?」「それは…」「重いリュックをいったん下すのが煩わしかったから、だよな。」私は希望を持った私に、罪悪感を抱きながらも絶望がこれ以上大きくならないよう、諭すようにそう言った。私は何も言えなかった。それぞれが散ってゆく中強い足取りで駅へ向かった。

「おい万葉!」ふり!ふり!!とおしりを振りながら豪速で競歩していた私を小走りで並走した私が言う。「お前カッコよかったで正味。最後まで諦めへん姿勢ちゅうのはいつでも大事や。ただなあ、諦めなあかんこともある。もう無理やと思ったら退くことも大事なんちゃうか?後悔すんのはお前自身やろう。」「…なんやそれ」「え?」「そんなんやから中途半端な人生なんちゃうんか。あんた。なんや皆してリュックを盗られたことに反省もせず、どうやったら自分が落ち込まんか逃げて逃げて。財布盗られてんねんぞ!」「か、万葉…」「私はそうは思いませんね。こうやって自分のやってしまったミスのアフターケアだけしてまたこういうことを繰り返すなら、後悔したいくらいです。」私はそういうと私を振り切ってまたおしりを右に左に駅まで振った。電車に乗ると、乗客がカバンを持っているのをみては先ほど自分が告げた言葉が、自分の中でより濃く、強くなった。手汗で柔らかくなった切符をうにと改札に通し、家まで走った。(いつもはできない!なんでかとゆうと、リュックが重い。)息の絶え絶えになるころ、燃えている私の体と冷え切った空気とで白く凍結する。私はデカいゴールデンレトリバーの横を通って、えー!?かわいいね♪と思うと履いていたローファーを手に持ち裸足で駆けた。柔らかい私の足にアスファルトのめり込む感触。もう寒くてつま先には痛覚が上手く届いておらず麻痺していて、足裏を傷つけているという事実だけがそこにある。「がはああがあ、げえ、げえ、おえ」私は吐きそうになりながらも完走した。なんだか清々しい気持ちだった。
何よりも聞きなじみのあるガチャ、という鍵の開く音も今夜は重々しく感じられた。玄関の電気をつけ、靴下を脱いでから少しひりひりとする足をフローリングに一歩、二歩。すべてがスローモーションに見える。ああ、部屋の電気が、つく―――



えー!リュックあった( *´艸`)/////(オイw←/少しにやけながら、 



はりつめた〜♪ 弓の〜♪ ふるえる弦よ〜♪ 月の光に〜♪ ざわ〜め〜く〜♪ おまえのこ~こ~ろ~♪と はいはい、はいはいはい。ね。


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