見出し画像

大学院という場所と、愉快な仲間たち

「大学院の魅力ってなんですか」

そう、大学院進学に悩む学部生に聞かれた。ひとしきり真面目に答えたところで、思い出したように付け加える。

「あとね、いい意味で動物園的な面白さがあるよ」

「動物園?」

「うん。面白い人たちがいっぱいいる。っていうか、面白い人・変な人しかいない」

***

私の通う大学の、この研究科だけの話かもしれないけれど、学生も先生方もみんなどこか変わっている。ただし、私は例外的に、普通の人間だと思っている。(逆に普通すぎて大学院の中では一番の変わり者だ、と、周りから言われている)


例をあげたらキリがない。

だいたいの人(特に学生)に共通しているのが、世間話があまりできないところ。初対面の人とうまく話せない、は人見知りだから良いとして、ふんわりとした非論理的な会話ができない。
しばしば、同じ研究科の友人たちから、「どうやったら研究以外の話を人と話せるの」と聞かれる。そのたびに声を大にして言っている。

「お前ら、他人に興味ねーだろ」と。「研究以外に興味ねーだろ」と。

「そうなんだよね〜〜」と返されるので、大きなため息をつきながらも笑ってしまう。共通の話題を探すとか、そういうtipsを与えたところで、コストをかけてまでその行動をとって他人のことを知りたいとも思わない人たちなので、結局だんまりになるのが目に見えている。

だんまりになるのはまだマシな方で、日常会話のふんわりさに嫌気がさして、怪訝な顔をしちゃう人もいる。てきとーに話を合わせることができないのだ。「え、だって論理飛躍してるじゃないですか」ーーいや、そうなんだよ、そうなんだけど、そうじゃないんだよ。

「沈黙がきまずい」ということはまず理解されない。こっちがきまずい沈黙をなんとか破ろうとしている一方で、「やっと静かになった」と、全然関係ない考え事をしはじめたりしている。私の努力を返せ。

修士号をとって就職していった後輩は、会社ですっかり天然キャラになってしまったそう。けれど、本人はいたって真面目に、いろいろ考えて行動しているだけなのだ。「俺、天然なんかじゃないっすよ」久しぶりに研究室にやってきて嘆く彼は、やっぱりどこか面白い。


ほかにもいろいろ紹介したいことはあるのだけれど、ネット上というオープンな場で記すことはためらわれることばかりなので、やめておく。(誰も法律にふれるようなことはしてませんよ)
(なぜか野菜と魚の皮しか食べない、ひょろっひょろの先生がいて、その先生の活動量が尋常じゃなく多くてパワフルで、一体どこからエネルギーを得ているのか皆不思議に思っている、というのだけ記しておこう)

***

「大学院の魅力って何ですか」と聞いてきた子が、少し引いている。

あちゃあ、変な人の変なエピソードをニコニコしながら長々と話されたら、ちょっとびっくりしちゃうか。そうだよね。私も変な人だよね、ごめんごめん。

アスペルガー、ADHD、発達障害、躁鬱病、スキゾイドーー


私の周りの人たちに、ネットで検索をかけて出てくるこうした名前を当てはめることはできるのかもしれないね。

でも、そんなものは本当にどうでもいい。

私は、ここにいる人たちが大好きなんだ。

コミュニケーションがうまく取れなくても、空気が読めなくても、他人に興味がなくても、EQ(心の知能指数)がびっくりするくらい低くても、ここにいる人たちはね、自分の目指すものにむかってひたむきに生きているんだ。その姿勢が私にはまぶしくて、尊い。

日常会話がうまくできなくたって、研究の話はとっても楽しそうにしているんだ。時にはなぐさめ合い、時にはそれは違うと批判しながら、切磋琢磨し合ってる。
先生方は、ちょっとクレイジーだけど的確に指導してくれて、生徒を一人前の研究者に育てようとしてくれてる。もちろん、自身の研究を深めていくことにも余念がないんだ。見た目はただのおじさんだけど(失礼)、そうした姿はかっこいいよ。

こうやってね、ときには”病人”ともみなされうる人たちが、”個性ゆたかな人たち”としてわいわいと楽しそうにしているんだ。いい世界だと思わない?めっちゃ厳しいコメントばかり飛んできて負傷するから、決してお花畑的な平和さはないけれどね。傷の痛さを分かち合ってくれる仲間は、きっとできるよ。

私は、ここではいくらか”普通”よりな人間だから。こうした人たちの苦手なことがいくらか得意な人間だから。私には容易いことでみんなが困っていることがあったら、その力になりたい。

君がもし、”普通”に馴染めなくて研究が本当に好きなら、大学院という場所は救いになるかもしれない。君が”普通”よりの人で、周りのクレイジーさに嫌気がさしたら、私のところへおいで。普通であるが故の苦悩は、他の人には無理だろうけどきっと私なら共感してあげられるから。

***

進路に悩む彼は、この大学院という場所をどう思ったのだろうか。よくわからないモンスターのいるところ?面白そうな人たちと過ごせる場所?自分とあっていて居心地のよさそうな場所?
いずれにせよ、「よくわからないけどちょっと面白そうなところ」と良く思ってもらえていたら、いいな。


もしも、サポートしたいと思っていただけたなら。「サポートする」のボタンを押す指を引っ込めて、一番大切な人や、身の回りでしんどそうにしている人の顔を思い浮かべてください。 そして、私へのサポートのお金の分、その人たちに些細なプレゼントをしてあげてください。