間とテンポのいい作品は、それだけではなまるだ ーー映画すみっコぐらし感想
(この記事は、ネタバレを含みません。安心してご覧ください)
「すみっコぐらしが、映画化!?」
ちょっとちょっとSan-xさんよ、最近ちいと商魂たくましすぎませんかね?
すみっコぐらしが売れてきたのをいいことに、すみっコぐらし検定だの、ファンクラブだの……そして今回は映画化ですか。しかもナレーションがV6のイノッチこと井ノ原快彦さんとな?
私は騙されませんぞ。どうせキャラクターの可愛さとイノッチ人気で押し切ろうとしてるんでしょう??
すみっコぐらしが誕生して以来ずっと応援してきた私は、そんな斜に構えた気持ちでTwitterの告知を見ていた。
どう考えたって、無理がある。
すみっコぐらしのキャラクターたちは、しゃべらないのだ。
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高校・大学と演劇をやっていた私は、演劇も映画も映像作品も、小説も漫画もエッセイも詩も、ようは表現物はなんでも「間とテンポ」だと思っている。
緩急、とも言えるだろう。自然に作られた物語の波は、それだけで心地いい。
単調一辺倒でもなく、ジェットコースターに乗っているような目まぐるしさがずっと続くわけでもなく、ちょうどいいところで加速したり、一息ついたり、いい塩梅の波を伴っている作品は、それだけではなまるをつけたくなってしまう。(もちろん、これはあくまで私の好みだ)
そうした「間とテンポ」を重視する私からすると、映画すみっコぐらしへの期待度は、ものすごく低かった。
キャラクターとしてのすみっコぐらしは大好きだ。可愛いくて、ほっこりする世界観が愛らしい。
でも、だ。キャラクターたちの”しゃべり”というものが失われた状態で、音楽とナレーションとキャラクターの動き(とちょっとの字幕)だけでストーリーを描くって、どういうことよ。なんだか全体的にだれそう、と思ったのだ。
一体全体、どういう作りになっているのだろう。すみっコ好きだからだけじゃなく、単純に映像制作に対する興味も相まって、劇場を訪れたのだった。
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まさかこんなに泣かされるとは、思ってもみなかった。
ストーリーは、ストレートで単純で、ひねりも何もない。
けれど、だからこそ、芸の細かさが際立つ。飽きさせない工夫が、だれさせない工夫が、本当にたくさん詰まっている。
「わざとらしそうだな」と観る前に思っていたナレーションも、すみっコたちの世界観に溶け込んでいる。イノッチの声の温度感が非常にちょうどよく、すみっコたちの冒険に優しく暖かく、微笑みを持って寄り添っている。ナレーションがしゃべりすぎないのもいい。ツッコミをいれるところは的確な間でいれ、黙っているところは黙って、ちっとも邪魔をしていない。
キャラの動きも、ひょうきんで愛らしい。思わずふふふと頬がゆるんでしまう。
全体的にはほのぼのとした間合いでありながら、随所随所で迫力だったり、ハラハラドキドキだったりを自然に入れてくる。ちょっとのひょうきんさを残しながら。
そうして、ラストに一気に持っていく。ほろりと、泣かせる演出をみせてくれる。見どころの演出が、本当に憎い。ベタではあるけれど、仕事が丁寧なのだ。
本当に、見事な75分だった。
これは、キャラの可愛さやイノッチにだけ頼った映画ではない。作り込まれ、練りあげられた立派な映画だ。
「間とテンポ」も、はなまるだった。こんなゆるい世界観で、キャラクターたちがしゃべらないのに、音とナレーションと絵だけで、こんなに綺麗な緩急がつけられるのか。こんなに自然で鮮やかな波がつけられるのか。
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”表現”と言うものに対しての視野が、広がった心地だ。当たり前だけど、まだまだ知らない表現の仕方があって。表現というものにはまだまだ未知の可能性があって。
そうしたものにたくさん触れたいし、私自身もそうしたものを探っていきたいと思う。私は表現者でも芸術家でもないけれど、そんな肩書きがなくったって、探り続けたいものなのだ。
そんな意識を改めて強く呼び起こすような、衝撃的な作品だった。
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表現に携わる全ての人へ。
『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』公開中です。
『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』
ある日すみっコたちは、お気に入りのおみせ「喫茶すみっコ」の地下室で、
古くなった一冊のとびだす絵本をみつける。 絵本を眺めていると、突然しかけが動き出し、絵本に吸い込まれてしまうすみっコたち。 絵本の世界で出会ったのは、どこからきたのか、自分がだれなのかもわからない、ひとりぼっちのひよこ・・・?
「このコのおうちをさがそう!」新しいなかまのために、すみっコたちはひとはだ脱ぐことに。 絵本の世界をめぐる旅の、はじまりはじまり。
(公式サイト「ストーリー」より引用)
追記(11/15)
ヘッダー画像に、しろくまが、いない!といまさら気づいたので、変更しました。
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