【この本を読んで考えた】博士の愛した数式
数論専門の元大学教師だった博士は交通事故に遭ったせいで記憶を80分しか保つことが出来ない。
この博士の元に家政婦として通うことになった主人公と、彼女の10歳の息子は博士を通し、数字や数式の面白さ、美しさを知っていくのだが、博士の数式を愛おしむ気持ち、そして大切なもののように博士と親子の間を数字が行き来する様子が伝わってくる。
博士は忘れてはならない事柄はメモし、背広のあちらこちらにクリップで留めている。
「ぼくの記憶は80分しかもたない」というメモもそのうちの一つであるが、このメモを見て現実と向き合う度にどんな思いがするのだろうか。
自分が将来の事を考えたときにいつも漠然とだけれど上がってくる不安の中に「認知症」がある。
事業を起こして運営してきた曽祖父。教師として慕われていた祖母。
何を尋ねても的確な答えを返してくれていた母。
それぞれしっかり者だったはずなのに、歳を重ね、だんだんいろんな事がわからなくなっていったのを知っているだけに、遺伝的なものが大きいのであれば、いつか自分もそうなるのではと。
ただ、自分の場合は元から優秀なわけでもなく、しっかり者でもないし、ちょっとした物忘れは今に始まったことではなく、子どもの頃からのことなので、今のところ歳のせいとは全く思っておらず、もしかしたら一生ボーッとした感じで終わるのではというところに期待していたりもするわけだけれど。
そんな期待を残していてもなお、起こるかどうかわからないことに不安があるのに、定期的にメモを目にしてその都度自分は80分しか記憶を保つ事が出来ないと知るのはどれほど辛く絶望感に苛まれることだろう。
認知症と、博士の記憶を留めることが出来ないのとは違うけれど、80分後には今現在の出来事が頭の中から必ず消えてしまうという不自由さがわかっているというのは、かなり恐怖だと思う。
そんな中、主人公である母親と息子は博士を傷つけないようにと気遣う。
母親が言うからとかではなく、息子は息子でちゃんと考えて、自分の心で博士に接してるというのが感じとれるのもさすが小川洋子氏だと思った。
本の終わり近くに夫がアイスを買ってきてくれたのだが、食べながら読むのは無理として、読んでしまってアイスを食べようか?いや、それだと早くアイスが食べたいからと雑に読んでしまうのが勿体ないし。
アイスを先に食べるには、小説の続きが気になりすぎる。
迷った結果先に雑にアイスを食べ、最後に大きな一口を頬張って小説と一緒にゆっくり楽しんだ。
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