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コパカバーナを聴きながら



根は出不精な私だが、行ってみたい場所がある。
コパカバーナという所だ。
コパカバーナは、リオデジャネイロにあるビーチの事だ。
敢えて写真は載せないので、ぜひ想像のコパカバーナを思い浮かべながら、聞いて欲しい。


『コパカバーナ』が私の記憶に爪痕を残したのは、今から約5年前。
当時の私は、ごく普通の大学1年生だった。
サークル選びに困っていた折に、古びた部室棟からほんのり漏れてる『コパカバーナ』という吹奏楽曲を耳にした。『コパカバーナ』と私は〝再会〟した。

吹奏楽は、中学生の時に出会った。
クラスメートと部活見学に行った際に、サックスを吹いてる先輩の姿がカッコよく見えたからだ。
だから私はサックスを希望した。
私の代はサックスパートが人気だった為抽選になってしまったが、私は運良くサックスパートに当選・所属できた。
こんな調子で何の気なしに入部したものの、
小学校からサックスを吹いている同期と己の演奏技術をつい比べては自信を失くし、事ある毎に顧問や同期や先輩後輩など多方面の部活関係者とぶつかり、コンクールでは毎年不甲斐ない結果に終わるetc...
サックスを吹いてる先輩を初めて見た時のあの時のキラキラした気持ちは、ホコリを深く被ってしまっていた。

やがて時は流れ、
部活を全うし、大学受験を終え、私は大学生になった。
『大学生活を謳歌するなら、絶対サークルに入るべきだと思うんだよね』と仲のいい高校同期が言っていた。
初めて親元を離れて上京して心細かったのも手伝って、私はサークル探しに奔走した。
サークル探しは疲れるものだった。というのも、勧誘してくるどのサークルの先輩達も必ず『部活は何かしていたの?』と聞いてきたからだ。私は痛い所を突かれたように『吹奏楽を中高やってました。』と答えていた。大した結果も残せていないのに経験年数だけ重ねていた吹奏楽なんて、口にしたくもなかった。
こんな調子で、吹奏楽に対する想いはまさに強風の前の塵のような程度だった。言うまでもなく、再開しようという気持ちは微塵もなかった。

結局ビビっとくるサークルは見つからないまま、新歓シーズンが終わろうとしていた。
焦ってないと言えば嘘になるが、無理に合わないサークルに入って精神衛生状態を損ねるのも嫌だったので、このまま無所属でも良いかなと思い始めていた。
そんな時だった、『コパカバーナ』が聴こえてきたのは。
『コパカバーナ』は、実は私が高校一年生の時に演奏した事のある曲だった。打楽器から始まって、フルートが繊細で可愛らしく序盤を飾って、低音が勇ましく刻んで、やがて特徴的なあのフレーズに入る。そして憧れてた才色兼備な先輩が吹きこなしていたトロンボーンソロ………。
そういえばコンミス(指揮者)が『コパカバーナは実在するビーチなんですよ』って合奏中言っていたな…。
在りし日の誰かの言葉や音色が脳内で蘇った。
『コパカバーナ』の旋律が、がむしゃらに演奏していた5年間とホコリを深く被ってしまったキラキラした気持ちにスポットライトを当ててくれた。
中高の放課後全部を捧げた部活の日々、嫌だったら途中で辞めても良かったはずなのに。それでも最後までやり遂げたのは、苦楽を共にした仲間と創る演奏がたまらなく心地よかったからなんだ。
ひとりでは出せないあの一体感、お客様から拍手喝采を頂いた時に周りの同期と顔を見合わせて笑い合うあの瞬間…最高だったよな。

気がつくと、私は涙をひと粒流していた。
聞こえてくる『コパカバーナ』が、あの時の自分に労いの言葉を語りかけてくれている様にすら感じた。
〝また吹奏楽、やりたいな〟
私は部室棟へ駆け足で赴き、そのまますぐ吹奏楽サークルへ入った。
最後の学生生活となるであろう4年間を、私はまた吹奏楽に捧げる事を誓った。今度はキラキラした気持ちにスポットライトを当て続けて、ホコリを被らせないようにしよう。
そして、自分の本当の気持ちを思い起こさせてくれた『コパカバーナ』、ありがとう。
バイトで頑張ってお金を貯めたんだ。あと少しで社会人だし、そうなったら今よりお金を沢山貰える。コロナが落ち着いたら、『コパカバーナ』を聴きながら、コパカバーナへ向かうよ。

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