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【サマリー】スマートモビリティチャレンジ2023

令和元年(2019年度)から始まったスマートモビリティチャレンジも今年で5年目。6月30日に令和5年度(2023年)の採択案件が発表されたので、まとめてみた。

日本版MaaS 推進・支援事業

経産省の補助事業である日本版MaaS推進・支援事業は継続案件中心に採択されている。注目は関西・九州の広域MaaSが含まれている点。
概要と簡単なコメントを記載していく。

1.GunMaaS

市民の移動データを活用したMaaS高度化事業
地域公共交通の利便性を向上させるために、これまでから継続して「MaaS推進」と「交通網の最適化」の両輪で取り組む。本事業ではパーソントリ ップ調査の結果等を基に市民の移動実態を明らかにし、真のニーズに合った交通網を検討する。また、昨年度より実施している交通データ分析につ いて、 GunMaaSにより取得できるデータ等が分析可能となるよう高度化を行う。

国交省資料より

前橋市を中心に実施していたMaeMaaSを県下に拡大。
令和元年から5年連続で補助事業に採択されている唯一の案件。

マイナンバー連携を行っている点もユニーク。

2.Universal MaaS

Universal MaaS~誰もが移動をあきらめない世界へ~
移動躊躇層(※)が抱えている課題を、Universal MaaSのコンセプトに従って利用者および自治体、地域、事業者の視点から解決し、行動変容 を促すことにより新たな移動需要を喚起する。 これまでの実証実験結果、社会実装状況を踏まえ、更に対象を広げる。 ※障がいや高齢など、何らかの理由により移動を躊躇している方々。

国交省資料より

ANAが幹事を務め、エリアをまたいで自由な移動の実現を目指す取り組み。
この案件も4年連続で補助事業に採択されている。

公表資料からは新しい取り組みがあまり見えてこないが、どういった方向へ発展していくのだろうか。

3.菰野町MaaS「おでかけこもの」

おでかけをもっと快適に!菰野町MaaS「おでかけこもの」の 機能高度化による公共交通の利用促進
もっと快適に移動できる公共交通を目指して、AIオンデマンド乗合交通(以下、のりあいタクシー)の配車時間の短縮につながるコミュニティバスとの「乗 り継ぎ案内機能」と公共交通(近鉄・コミュニティバス・のりあいタクシー)の動的な運行情報(発着時刻・遅延情報等)の確認機能を菰野町MaaS 「おでかけこもの」に追加導入し、公共交通の運行の効率化・利便性向上を図る。

国交省資料より

菰野町を幹事に、地域の公共交通の効率化・利便性向上を図る取り組み。
昨年に続き2年連続。初年度から数えて4回目の採択。

乗り継ぎを促進する経路検索の仕組みはちょっと気になる。

4.「CentX」・「move!かすがい」

MaaSアプリと交通結節点の連携による「気軽におでかけできるまち」の実現
春日井市版MaaSアプリ「CentX/move!かすがい」およびエリア版MaaSアプリ「CentX」と、過年度に高蔵寺ニュータウンで試験的に設置したスマ ートな交通結節点「モビリティポート」を連携させることにより、高蔵寺ニュータウン内で展開する多様な交通サービスを1つのデバイスで利用可能とし、 ニュータウン住民や来訪者が「気軽におでかけできるまち」の実現を目指す。

国交省資料より

モビリティポートを使って、スマホを持たない人でもオンデマンド交通を使えるようにするところが特徴的。NFCタグを使う点も興味深い。どういうふうに使うんだろう。

5.関西MaaS

「関西MaaS」機能高度化事業
2023年夏にローンチを予定している、関西鉄道事業者の連携によるMaaSである「関西MaaS」について、万博との機能連携も見据え、2025年 大阪・関西万博に向けた観光需要促進機能の高度化を推進する。

国交省資料より

今夏にリリースが予定される関西MaaSアプリを国の補助金で高度化する案件。2025年の万博で使われるアプリのため、実証できるのは今年度、来年度しかない中で、どこにターゲットを絞って高度化するのかに注目したい。

6.九州MaaS

九州における広域MaaS推進事業
九州全域および沖縄に展開したMaaSアプリ“my route”について、さらなる展開エリアの深耕を行うとともに、県域を超えた広域サービスの提供や、 地域で運営されている他分野サービスとの連携・共創に取り組み、地域交通ネットワークの持続性向上や九州観光の魅力・競争力の更なる向上に 貢献する。

国交省資料より

5月に九経連から「九州MaaSグランドデザイン」が出されている。グランドデザイン上は『my route』を活用するとは書かれていないけど、この補助案件とどう歩みを合わせていくのかに注目したい。


地域新MaaS創出推進事業

経産省の補助事業である無人自動運転等のCASE対応に向けた実証・支援事業(地域新MaaS創出推進事業)は国交省の採択案件に比べると初見のものも散見される。概要と簡単なコメントを記載していく。

1.凸版印刷株式会社(千葉県館山市、南房総市)

テーマ①:移動サービスの最適化
マイナンバーカードやWEBアプリを活用した運用課題やノウハウの検証

・様々な生活基盤を共有している館山市、南房総市の2市における交通課題の解決に向けて、地元の交通事業者と連携し、実証エリアを走行するバスにマイナンバーカード用のリーダー端末を設置する。その上で、マイナンバーカードを活用した認証・決済システムの検討を行う。
・ 最新の交通情報やエリア情報をデジタルマップ上に表示(WEBアプリ:情報プラットフォーム)する仕組み等を活用し、公共交通の利便性の向上を図る。

経産省資料より

初見の案件。マイナンバーとの連携とあるが、GunMaaSでも使われるJR東日本のプラットフォームを活用するのだろうか。

2.合同会社うさぎ企画(静岡県焼津市)

テーマ②:移動サービスと異業種・移動先の連携
移動×交流の連鎖による地域活性化の評価・検証

・市内中心部を走るグリーンスローモビリティにより、市外ビジネス客の移動需要を喚起し、地元プレイヤーとの交流を促進。
・移動×交流の連鎖が、市外ビジネス客の焼津再訪率や事業拠点設置など行動変容をもたらすか、地元プレイヤーとの交流による協業等のイノベーション効果を検証。
・上記の検証を通じて、以下3点を評価する
 ①移動需要×交流・経済効果の行政・地元評価
 ②市外ビジネス客の行動変容に関する行政・地元評価
 ③市外ビジネス客と地元客による一連のサービス評価

経産省資料より

スマモビに採択されたのは初めてだけど、『つなモビ』の継続取り組みだと思われる。

3.BIPLOGY株式会社(新潟県新潟市)

テーマ③:地域や業種をまたがるモビリティデータ利活用
クローズドデータ連携基盤を通じた データ利活用ユースケースの実証

・新潟市都心軸および周辺(にいがた2km)地域において、 ①まちなかへの移動・活動を促す地域アプリを提供、アプリ上でアプリデータその他パーソナルデータ提供同意を取得する。②クローズドデータ(事業者保有ビッグデータ、利用者が提供 同意したパーソナルデータ)連携基盤を通じ、官民両面で付加価値の高い(稼ぐ)データ利活用ユースケースを実証する。③「地域共創事業体設立準備委員会」にて社会実装とモデル の横展開を図る。

経産資料より

会社名だけで気づかなかったけど、旧・日本ユニシスか。「りゅーとなび」を活用した実証実験の発展形になるのかな。
プレスリリースも出てた(PDF

4.MRT株式会社(三重県多気町、大台町、明和町、度会町、大紀町、紀北町)

テーマ②:移動サービスと異業種・移動先の連携
医療MaaSの省人化・効率化及び中山間地での地域拠点形成の検証

・大台町報徳診療所を中心に、医療MaaSの実証実験を行い、実装に向け、人的・運行コストを下げる省人化・効率化手法の検討と、実装に必要な機器の選定を行う。
・度会町内の複数拠点に各種サービス機能を備えた車両等を集めて、一時的なサービス拠点を形成する。また、拠点までのボランティア輸送も同時に実施する。

経産省資料より

昨年度はMonetも関わっていた医療MaaSの取り組み。これまでと枠組みは大きくは変わらないのかな。

5.中央復建コンサルタンツ株式会社(奈良県川西町)

テーマ②:移動サービスと異業種・移動先の連携
「交通・健康・拠点」の共創によるウェルビーイング向上への挑戦

・外出したくなる“お楽しみごと(健康増進事業・小さな拠点事業)”とそれに必要と考えられる交通サービス(デマンド型乗合タクシー)を提供することで、高齢者の外出機会・社会参加の増加と、介護予防・健康増進効果を図る。 
・町内に立地する工業団地の企業が抱える課題(通勤や業務移動)に対してもデマンド型乗合タクシーを導⼊することで、 効率的かつ効果的なモビリティのあり方を模索するともに、サービス提供のための共同運行の可能性を模索し、その事業可能性を検証する。

経産省資料より

昨年も同補助事業に採択されていた案件。昨年度よりも乗車対象を広げた取り組みに発展していく形と思われる。

6.株式会社システムズナカシマ(岡山県吉備中央町)

テーマ①:移動サービスの最適化
公共交通のAIコンシェルジュの構築に向けた検証・分析

・公共交通の利便性向上や商業振興を図るため、地域の移動実態や移動ニーズ、町内の公共交通データ(デマンド、へそ8バス) 、一般車両のセンサー等を把握する。
・各種データをもとに、高齢者と学生など利用者別の移動プロファイルを作り移動の最適化モデルを立案、施策評価を実施。
・従来のコンシェルジュは、受付と案内を行うのみであったが、上記のデータを活用し、最適な移動モデルの構築(AI化)を見据えた、MaaSコントロールセンターを新設する。

経産省資料より

たぶん初見の案件。「MaaSコントロールセンターの新設」というのが気になるポイント。

7.株式会社日立製作所(福岡県)

テーマ③:地域や業種をまたがるモビリティデータ利活用
モビリティデータの連携・協調による 移動サービスの全体最適・調和の検証

・複数の交通事業者が持つモビリティデータを連携・協調することで、エリア内の主体間連携を促進し、各交通事業者の移動リソースの最適化を目指したデータ利活用方法とその有効性を検証する。
商業施設事業の販促イベントを対象として、企画立案・実行・効果検証に本分析データを活用、マーケティング業務適用効果を評価する。
・公共施設の利用状況をユースケースとして可視化し、行政・自治体へのヒアリングや検証を通じて行政業務への適用可能性を検証する。

経産省資料より

MaaS Tech Japanの「TraISARE」「See MaaS」が採択されたこの件と同じなのか違うのか、連携する形なのか。西鉄と日立が運行計画システムで連携していることを踏まえると無関係ではなさそう。

8.株式会社オリエンタルコンサルタンツ(沖縄県八重山諸島)

テーマ①:移動サービスの最適化
フリーパス型観光MaaSの構築とMaaSシステムの開発・推進

・地域で自走可能なMaaSの仕組みと体制を確立し、地域の全公共交通機関、複数事業者・交通モードがパッケージされたフリーパス型観光MaaSのモデルケースの完成を目指す。
・あわせて観光アクティビティ予約や⼊域コントロール(自然環境保全エリアの指定日時予約や専用パスポート等)と連携したMaaSシステムを開発・推進することで、持続可能な観光振興への寄与を図る。

経産省資料より

おそらくジョルダンのプラットフォームでデジタルチケットを販売している案件の発展形を目指す取り組みと思われる。関連してそうなプレスリリースはこちら(PDF


個々のとりくみはもう少し時間を使いながら、ゆっくりまとめていこうかな。令和元年に50以上のプロジェクトが採択されていたことを考えると、しっかり継続して残っている取り組みが採択されたとも言えるし、補助に頼らない事業も増えてきているということだと思う。

こういう新しい取り組みが徐々に社会実装されていくのはワクワクする。いろんな案件から学ばせてもらいたい。

以上

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