本の匂いに包まれて
本屋の匂いが好きだった。
立ち並ぶ本の一つ一つに込められた想いがあって、
その一つ一つが空間に染み渡ったような独特の匂い。
新しい漫画を開く瞬間、漂う匂いにわくわくしていた。
本を閉じたあとの匂いには充実感と少しの切なさが詰まっていた。
中学生くらいの私は、本屋で何時間もそんなわくわくを感じながら、本の匂いに包まれていたような気がする。
その頃の私は紙の漫画を集めるのが楽しみだった。
ジャンプも紙で読んでいた。
いつからだろう、本屋に何時間もいられなくなったのは。
いつからだろう、紙の漫画を読まなくなったのは。
時代が流れ、高校生の頃には私もスマートフォンを持つようになった。
本屋に行かなくても、漫画の新刊の情報が分かるようになった。
本屋に行かなくても無料で漫画を読めるようになった。
かさばる雑誌を集めなくても、ジャンプを読めるようになった。
漫画の他にも興味も増えた。
服に興味がなくてアウトレットパークに行っても本屋でずっと時間を潰していた頃とずいぶん違った。
時代が流れるにつれて、良かったものが不便な物に変わっていく。
大人になるにつれて、好きだったものが変わっていく。
大人になるにつれて忘れていったものに、大人になった今、気づいた。
また本屋を好きだと言える私に戻れるだろうか。
便利な時代だからこそ、忘れかけていたものを大事に生きたいと想った。
土曜の夕暮れの大事な気持ち。
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