『黒牢城』感想
読みました。
昨年6月に刊行されてからというもの、とにかくミステリーに限らない名だたる賞を総ナメしている小説なので、読まねばならぬと思いました。
主人公が有岡城に籠城中の荒木村重っていうところがまずひとつ面白いですよね。
この時代、名だたる戦国武将が群雄割拠している状態で、もはや題材には事欠かないわけですが、あえての主人公は村重というチョイス。そもそも彼に別にヒーローらしいイメージがとくにないので、「なんで村重?」というところがまず気になりました。どう見ても本書の彼はすでに進退窮まっていましたし。
ただ、黒田官兵衛が探偵役というところだけは前もって聞いていたので、村重が土牢にとらえた官兵衛を頼り、官兵衛が安楽椅子探偵よろしく城内で起きた事件の真相を突き止めてくれるというミステリーなのかなと思っていました。
そのイメージはけして間違いではなかったのですが、村重の人間的な心の揺らぎ、弱さなども確かに本書の面白さで、やはり彼は官兵衛とともに本書の主人公であったと思います。
ふたを開けてみると、村重が官兵衛に知恵を借りに行っても、官兵衛は答えそのものを提示してくれるわけではなく、問答して村重自身に気づかせるという役回りでした。
本書のなかで彼らは4つの事件を解明していきますが、その4つの事件を通じて、官兵衛が何をしようとしていたかというところが最終的には肝要であります。
その後の村重を見てもまったくもって武士らしくはないふるまいをしていて、そういう意味では彼自身が本書の中で語っているとおり、織田信長の真逆をいったように思いました。
謎のなかにも、顕教の念仏ならともかく密教の真言を客間で唱える僧なんている? みたいなエピソードや、茶道具の名物がキーアイテムになるなど、いかにも戦国時代というような文化を感じられる要素がたくさんちりばめられていて、時代ものの面白さを感じました。
ミステリーと時代ものをかけあわせているという時点で面白いのですが、そのふたつが分離することなく絡み合って相乗的に読者を引き込んでいくというのが本書の魅力と感じました。待ち受ける有岡城籠城の末路、そして土牢にとらわれた官兵衛が仕掛ける企みとは……。
村重の顛末は自滅にも見えるのですが、では何をどうしたらよかったというのかを思うと、戦国武将の負うものの重さというか、生きる時代の難しさを感じずにいられません。
一方で官兵衛に訪れた最後の救いは、この難しい時代に一片の人情のようなものが感じられたものでした。
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