日記(3/27〜4/2)

月曜日
歯医者へ。小学生の頃から行っていたせいか、大学生になろうとしている今も小学生のような扱いを受ける。虫歯あった。「泣くか?お?泣くか?」とか言われながら治療される。「なんで最近検診来なかったんだよ〜、受験と歯どっちが大事なんだよ〜、歯だろ〜?」とかなり重めの彼氏みたいなことを言われる。この手の質問ってそれぞれ別の大事さのベクトルがあるような気がして真面目に返事に窮してしまう。

火曜日
カバンの掃除をする。こまめに整理整頓するという基本的習慣が欠落していることに加え、道に落ちているものをなんとなく拾ってしまうという困った癖があり、カバンを開けるとそこにはだいぶ前にもらったお菓子やらいつ拾ったのかも判然としない葉っぱやらが入っていたりする。これは入学したばかりのときの書類、これは学校の行事のときにお友達と交換した飴、これは入試のときに先生が珍しく励ましながら渡してくれたチョコ、これは放課後寄った本屋のレシート、これはよく分からない葉っぱ、これは謎の石、みたいな下手すると卒業アルバム以上に思い出がつまっているかもしれない代物である。青春とも言える。母上には二度とこのようなことがないようにとの厳重注意を受けた。

水曜日
お友達の家でぐだぐだゲームする。みんなおんなじ高校行ってたのにみんなそれぞれちがう大学行くんだね、おれ文学部でおまえ工学部、薬学部......そもそも興味関心のぜんぜんちがう人間が接点もってること自体奇跡だね......みたいな感じでしみじみするかと思ったけど結局ぷよテトやってあっさり家に帰った。LINEとかあるからそんなにお別れ感ない。

木曜日
近所のスーパーの「お客様のお叱りの言葉」みたいな、要は客のクレームが貼ってあるコーナー(お客様のご要望とお褒めの言葉のコーナーは横に別にある)があって、ときどき読んでしまう。「夜仕事帰りに寄ったスーパーですれ違った店員に挨拶されなかったオレの気持ちを考えろ」「レジ担当の○○の愛想がない、辞めさせろ」という趣旨の(実際はもっとねちっこい長文の)走り書きの下に店長が謝罪文を長々綴って判子まで押している。文体と筆跡が一致するクレームが複数貼ってあって割と怖い。「ご要望」と「お叱り」と「お褒め」が貼られるスペースが2:2:1くらいの配分で、それがいっそう怖いと思う。そのスペースを作るように指示した人々は実際その言葉たちを読み対応する人々ではないだろう。日常のストレスなのかなんなのかは知らないが、それを「お叱り」として他者にぶつけることで解消しようとする誰かと、従業員への罵詈雑言を「お叱り」とオブラートにくるもうとする「お客様第一」の誰か、どちらがよりモンスターなのだろう。暴力じゃないのか、と思ってしまう。その構造を許す社会自体が狂っているのかもしれないし、そんなことを考えてしまう私が狂っているのかもしれなかった。じっさいにそういったことごとを説得力ある言葉で語る力を持たない自分がいる。なにより自分が正しいという自信もない。私の知らない仕組みでものごとが動いているのかもしれない。もう少しだけ呼吸しやすいところにいたいと思うだけなのだけど。

金曜日
お友達の将来の夢を聞くと色とりどりで楽しい。医者になって儲ける、弁護士になっていばる、建築士になって変な家建てる、ゲーム開発に携わるエンジニアになる、妖精の研究者になる、軍事侵攻をする某国の指導者が許せないので言語を習得して説教しに行く、ヴィーガンになって世界中の植物を食らい尽くす、茨城県を活性化させる、茨城県をさらなる魔境にする、茨城県を独立国家にして最高指導者になるなど。よく分からんがとりあえず彼ら彼女らが夢を叶えたとき茨城県は今の姿ではないかもしれない。魅力度ランキングとかやってる場合じゃない。
理論上今日で高校生じゃなくなる訳だが、大学の学生証が交付されていないので明日から自分の身分は何になるのだろう。

土曜日
金曜の夕方にいきなり担任の先生から電話が来て「合格体験記書け」と言われる。うちのクラスだけ人数が足りず先生たちのグループLINE(そんなのあるんか)で「誰に書かせる?」「割と珍しい受かり方してるから浅浦でいいんじゃね?」というやり取りがあって私が引き受けないとまずいらしい。いつのまにか外堀から埋められていた感がなくもない。母校で言う合格体験記とは先生の言うことを真面目に聞き、三年間部活動や委員会に積極的に参加し真面目に勉強して国公立大学に受かった人が書くものだと(慣例的に)定まっている。授業は真面目に聞いていたようで実際はほぼほぼ別のことを考えてぼんやりしていたし、激緩部活でなかば幽霊部員だった私に御鉢が回るとは思わなかった。今年の合格者数はよほど酷いんだなと思った。「私そんな勉強してないですよ」と言うと「そう思って私も反対したんですけどね」と言われた。担任も一緒に外堀を埋められたようだ。締切は一週間後とかでA4を4ページである。正気か。担任が電話口でめっちゃ困ってたし、なんやかんや文章を書くのが好きなので安請け合いしてしまった。ろくでもないことしか書けない。まじで。オレは三年間そんな勉強しなかったぞ。ほんとに。
でも後輩にゆとりを与えられるものを書いてやれたら、という気持ちもある。勉強で潰れた友人がいるので。かけがえのない経験をさせてもらったけど、母校にはもう少し柔軟であってほしい。母校というより母校を取り巻く人々かな。親子代々この高校卒業です、みたいな謎家庭もけっこういるし。

日曜日
大学のある土地まで移動する。必要そうなものは先に段ボールに詰めて送ったつもりだったが、朝になって机の上を見るとそこには中也全集が積んである。しまった。本を送るという発想がなかった。手荷物に詰めようとしたら「あんたキリがないでしょ」と母上に怒られ、後で送ってもらうことにした。
「大学で親切なヤツは全員カルトかマルチの手先」という友人のアドバイスを真に受けると今日出会った全員カルトかマルチの手先ということになる。あいつのアドバイスもここまで来るともはや呪いめいてくる。怪しい人もいるんだろうけど。

(こうして見ると週に2500字ほど文章を書いている...合格体験記、あっさり書けてしまうかもしれない。希望が見えた)

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