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小説

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2023年6月の記事一覧

飴色の街(3)

「僕のメインの仕事はね、ああやってバスに乗り込む人の見送りなんだ」
 大きい通り沿いに佇むカフェ。客は僕と先生だけ。外は霧が晴れているものの、相変わらずの曇天だった。古ぼけた灯りが店内を一生懸命に照らしているが、その努力も実らず、薄暗い。
 薄暗いが、店主の女性は明るかった。店に入った時は、「あらいらっしゃい、先生!」と気さくな挨拶をしてきた。先生は、この店にはよく来るらしい。
「昨日の朝焼けから

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飴色の街(2)

 駅を出ると、道を挟んだ向こうに小学校があり、その校舎裏に人だかりができていた。何の気なしにそこに行くと、小さな子供たちや大人から「先生」と呼ばれている、眼鏡をかけた男がいた。年齢的にはまだ若く、30代前半といった印象だ。案外簡単に見つかった。
 そこには大きなバスが停車しており、先生は子供や大人と話をして、話が済んだ人がひとり、またひとりとバスに乗り込んでいく。先生は真摯に相手の話を聞いて、うん

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飴色の街(1)

 車輪の軋む音が耳をつんざき、目が覚めた。僕はトロッコの上にいた。急なカーブに差し掛かっていたからか、その音はひどくうるさかった。起き上がって外の風景を見渡すと、民家のひとつも目に入らないような樹海が広がっており、木々にまとわりついた霧が不気味さを醸し出している。
 僕がいつから眠りについていたのか、そもそもいつ、僕がこのトロッコに乗っていたのか、皆目見当がつかない。僕は方向感覚が良いようで、東の

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