前立腺レクチャー8:経過観察
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前立腺レクチャー8:経過観察

早期前立腺がんの治療方法の中で昔から経過観察という手法があります。現在ではPSA監視療法と呼ぶことが多いです。要はがんと診断されたのにも拘らず、手術、放射線、内分泌治療などをせずに、定期的にPSA血液検査をしたり、MRI検査をしたり、またできたら1年ごと、2年ごとに前立腺生検を実施したりして前立腺がんの状況を見ながら行こうというやり方です。なぜ、こういうやり方が昔からあったかというと、基本的に前立腺がんの成長はゆっくりである、前立腺がんそのものは極めて頻度の高いがんですが、中には生活や命を脅かさないがんが存在します。過去の解剖の研究で、種々の原因で亡くなった50歳以上の日本人男性の前立腺の中に約20%も前立腺がんがあることがわかっています(欧米ですと30%)。50歳以上の日本人男性が2000万人いるとすると、その20%、400万人もが前立腺がんを持っている計算になります。膨大な数です。しかし、これからさらに20%、80万人が「問題のある」前立腺がんを持っている可能性があります(これは過去の病理研究の結果によります)。毎年泌尿器科医が診断するのは約10万人ですの8分の1程度しか発見していません。一方で80%にあたる320万人はとても小さい問題のない前立腺がんを持っていますが、この小さいがんを発見してしまう可能性もあります。こういう背景もあり、発見された時に問題のないがんではないかという疑問もあり、とりあえず経過観察しようということにもつながります。過去に多くの研究がなされ、血液のPSA値、生検のがん陽性本数、生検のがんの長さ、グリソンスコアなどから、こういう人は経過観察で良いのではないか?というガイドラインもあります。後は患者さんの年齢、好みなどにより決定されます。経過観察の良い点は、治療をしませんから、生活の変化は起きないという点です。一方で、がんがあると言われたのに何もしない不安はあります。実際、診断され、経過観察を選択をした患者さんの50%は5年後までに手術や放射線を実施します。これはPSAの上昇、MRIでのがんの大きさの変化、生検の悪化などがありますが、背景には「不安」があります。
過去に経過観察後に手術をした方を多く経験しましたが、全摘した前立腺の分析では予想以上に大きな、悪いがんも多く、個人的には経過観察は若い方にはあまりお勧めしていませんし、慎重になるべきと思っています。一方で80歳、85歳でPSAも低く生検の内容かとても小さいがんが予想される場合は経過観察も大切な選択肢と感じます。

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医療法人社団實理会理事長、東京国際大堀病院 院長・医学博士 大堀 理(Makoto Ohori)前立腺がんの診断と治療・手術支援ロボットda Vinci  日本泌尿器科学会認定専門医,指導医,日本がん治療認定医機構専門医, ロボット外科学会国内A級認定,国際A級認定