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法務採用成功のために私がやったこと(各論編)

前回のnoteでは、法務採用を成功させるために行ったことの全体像や心構え的なことについてお話ししました。テクニック論的なことよりも、それらの方が大切だと考えているからです。

なので、今回の記事に先に辿り着いた方は、できれば上記の記事を読んだ上で今回の記事を読んでいただけると嬉しいです。

それを踏まえて、今回は、私が実際に行った採用活動の具体的な内容について書きます。私は採用マーケットについてはそれなりに詳しいですが、採用業務自体に熟達しているわけではないので、私のやり方がベストだとは思いません。それほど高度なことも行っていません。でもだからこそ、皆さんもその気になれば絶対にマネできるはずです。

採用ターゲットを定義する

色んな方がおっしゃっていますが、採用は、端的に言うとマーケティングと同じです(詳細興味ある方は、下記記事など参照)。顧客(=採用したい人)を定義し、顧客のニーズ(=なぜ転職したいか)を理解し、顧客のニーズに沿ったメッセージを正しく伝える(=求人票、スカウト、面談等)。荒っぽく言えば、これだけです。

そうだとするならば、まず最初にやらないといけないことは、「どういう人を採用したいのか?」を定義すること、なはずです。人事部にも、「どういう人を採用したいんですか?」と聞かれました。当然ですよね。

でもこれ、端的に答えられますか?結構難しいですよね。特に、採用活動を始めたばかりの方にとっては、この採用ターゲットを定義するというのは、かなりの至難の業となります。

そこで私が取った戦法は、あえて採用ターゲットをあまり明確化せず、自分たちがもっている魅力を発信し、それに興味を持ってくれる方々に片っ端からお会いする、というやり方でした。色んな方々とお会いしていく中で、段々と、「こういう人と一緒に働きたいな」というのは見えてくるもの。それを後から言語化していく、というやり方が自分にはフィットしていました。難しく考えずに、とにかく会いまくる。行動が最終的に質に転化します。

なお、採用ターゲットがはじめから明確な場合(例:ある程度成熟した企業におけるピンポイントの欠員補充など)には、一般的なアプローチとして以下の方法で対応します。

・そのターゲットが、どういう企業で働いているどういう属性の人なのか、というペルソナを設定する。
・その人が何に悩んでいて、どういう理由で転職を考えているのか、などのインサイトを類似ターゲット(同じような属性の人)にヒアリングするなどして考察する。

自社・自組織の魅力を理解する

次に、発信するメッセージを考える前提として、自社・自組織の魅力を理解しなければなりません。

「魅力」は、言い換えれば、「当社で働きたいと思う理由」。さらに言い換えれば、「当社が従業員に提供できる価値=Employee Value Proposition (EVP)」です。EVPについては、下記記事など参照。

EVPを言語化するのは案外難しいものです。何が求職者にとって魅力に映るのかを直接理解するのは大変なので、まずは自分や自組織の仲間に聞いてみましょう。「なんで入社したの?」「なんで他の会社に転職しないの?」と。ただこれは、自組織で働いている仲間と同じようなタイプの人を採用したいという場合にのみ有効な方法です。

もし新しいタイプの方を採用したいのであれば、「この人と一緒に働きたいな」という社外の方に、「うちの会社に転職することを想像したら、何を魅力に感じると思うか?」と聞いてみましょう。

この際気を付けたいことは、その魅力がどれだけ希少性が高いものであるか、ということです。「福利厚生が充実している」とか「立ち上げフェーズ」とか、よくある誘い文句は、それ単体ではあまり差別化にならないことが多いです。掛け算でもよいので、なるべく自社固有の価値を見つけたい。

私が今回の採用で定義した当社の法務組織の魅力は、以下です。1点目と2点目だけではやや希少性は低いのですが、私という人間のパーソナリティを全面的に押し出すことによって、それを魅力と思っていただける方には訴求しやすくなったように思います。

・完成された法務組織ではないことから、逆に法務組織をゼロベースで構築していくことが可能である(デザインに自分が関わることができる)こと
・単一事業ではないことから、事業会社にいながら多くの事業に関わることができること(かつ、その事業に社会的意義を感じやすい)
・事業現場での経験があり、社会に対する熱い思いを持った小田という人間と一緒に働くことができること

なお、仮に魅力として打ち出せるものが少ないという場合には、EVPを逆算的に作っていく、というのも組織長の大切な仕事だと思います。どういう法務組織になっていたら、自分が理想とするような人たちが惹きつけられるのかをイメージしながら、半期・通期の目標に落としていく。そうしていけば、短期的には採用できない人材を中長期的に採用できる確率は高まるでしょうし、現在のメンバーのリテンションにもつながるでしょう。

求人票を書く

ここまでいくと、あとは、EVPとして定義した要素を軸として、求人票の文面に落とすだけです。それほど深く考えなくていいです。思いの丈をバーッと書けばいいのです。どうせ法務の求人なんて金太郎飴みたいな、社名を隠したらどこの会社だか分からない求人ばっかりなのです(口が悪くてすみません)。せめて自社の求人くらいは、ちゃんと書いた人の思いが伝わる、パーソナルな求人票にしましょう。そうしたら、求職者の方には、「その会社」で働くイメージが湧きやすくなり、興味を持ってくれる可能性は高まるはずです。

下記は、実際に私が書き上げた求人票の文面です。特にこだわったのが太字下線部分です。EVPを軸に、とにかく正直にありのままを書いています。

当社法務室は、主に当社が立ち上げる様々な領域・ビジネスモデルのサービス運用における各種場面において、コンプライアンス等の事業価値を守る「ガーディアン」としての役割に加えて、まだ答えの存在しない領域において事業の筋道を示す「ナビゲーター」や「クリエーター」としての機能を果たすことが求められています。法務メンバーそれぞれが専門性を有し、事業が実現する価値に共感し、共に事業を創るメンバーとして貢献しあう組織をつくりたいと考えています。

当社法務室の特徴は、以下の3点です。
①多数存在する事業に関連する「事業法務」が業務の中心であること
②社会課題を解決する事業にかかわれること
③完成された法務組織ではなく、組織自体をこれから構築するフェーズであること

当然のことながら、全ての方にとってメリットを提供できるわけではなく、人によっては「自分の求めるものとは違う」という方もいらっしゃると思います。なので、上記の特徴を理解していただき、自分が求めているものと近いな、と思う方と一緒に働きたいと思います。ただ、上記を見てイメージが湧かない方は、まずはざっくばらんにお話ししましょう。

【業務内容紹介】
法務の求人というとどの会社も同じような内容になりがちですが、当社法務室の特徴は、上記のとおり「事業法務」が中心である点です。
従って、中心となるのは、
・各種事業における事業スキームの検討、規約等の作成、その他契約書の作成・審査・交渉等
・事業運営上のリスク事象への対応
といった業務となります。

色々なお客様とお仕事のできる法律事務所と異なり、事業会社の法務というと、通常は携わることのできる事業の数が限られ、すなわちそれは触れられる法律の幅や論点の数が限られることに直結します。その点当社は、一つの法人に所属しながら多数の事業に携わることができるため、事業法務にどっぷりつかりたい方にはおすすめできる環境です。

他方で、すでに法務組織として完成された組織ではありませんので、「あれが整っていない」「これが整っていない」ということにストレスを感じる方には、多分厳しい環境ではないかと思います。むしろ自分たちで環境を整えていくことに楽しみを見出していただける方の方が合っています。具体的には、法務組織の今後の拡大に備えた仕組みづくり(ひな型整備、法務相談フローの再構築など)についても推進していく予定ですので、その点についても意欲がある方にはお任せしたいと思っています。

スカウト送信対象を探す

求人票が出来上がったら、次に、各種スカウトサービス上で、スカウトメッセージを送信する対象を検索することになります。私の場合、ターゲットをあまり絞らずに多くの方にお会いする方針だったので、それほど細かい条件は設定しませんでした。

ここでのポイントは一つで、「自分でレジュメを見る」ということです。自分でレジュメを見て、どういう人かをイメージして、実際に自分が最初に会って確かめる。このPDCAを自分の中だけで完結させることで、スカウト送信対象者の見極めの精度がかなり上がります。人事の方に任せっきりにしてはいけません。私はこれから先も絶対に自分でレジュメを見てスカウト送信対象とするかどうかを決め続けると思いますし、当社グループの経営層のメンバーもだいたい同じようにやっています。

参考情報として、私自身は今回の採用活動を通じて、ビズリーチ上だけで2000名弱、他のサービスも合わせると3000名以上の方のレジュメに目を通しました。ありとあらゆる法務人材の方をこの目で見ることで、マーケットの全体像が見えて、「これ以上の人はいないな」などと肌感を的確に持つことができました。

スカウト文面を作成する

誰に送るかが決まったら、最後に、何を伝えるか、です。

私は、スカウト文面というのは、手紙のようなものだと思っています。時候の挨拶のようなテンプレ文面と、魂込めて書いた熱い文面と、どちらが人の心を動かすでしょうか?細かいテクニックなどは気にしなくていいのです。とにかく、思いをストレートに表現してください。なぜあなたが今の会社に入り、なぜ今も情熱を持って働き続けているのか。手作りの不格好な文章でもいいので、正直に、自分の言葉で。

下記は、私が実際に多くの方にお送りしたスカウトメッセージの文面です。個別にカスタマイズしていることもありますが、概ねこの内容でお送りしています。

初めまして。
株式会社ビズリーチ 法務室 室長の小田と申します。
ご経歴を拝見し、ぜひ一度お会いできればとご連絡を差し上げました。

まずは私の自己紹介から。
大学卒業後、西村あさひ法律事務所にてM&Aを中心とした国内外の企業法務を6年、三菱商事の法務部への出向を1年、英国ケンブリッジ大学大学院への留学を1年(MBA)、といった経験を経て、2016年10月にビズリーチにジョインしました。
ビズリーチ入社後は、約3年間にわたり、営業・企画部門など事業側での経験を積み、満を持して昨年9月から法務の仕事に携わっています。

「日本再生」が私の人生のテーマです。一度きりの人生、自分を育んでくれたこの日本という国がもう一度強さを取り戻すために、ビジネスという関わりにおいて貢献をしたい。
そんな思いを持っていたところ、「社会に大きなインパクトを残すために事業を創り続ける」と熱っぽく語ってくれた、弊社代表の南に出会い、ビズリーチの門を叩きました。

当時の思いはこちらに綴られていますので、ご笑覧ください。
https://reachone.bizreach.co.jp/entry/2019/12/26/170126

入社してから毎日が発見と成長の連続で、この会社に入って心からよかったと思っています。社会の課題を解決したいという仲間が集う、とても素敵な会社です。

ただ、ビズリーチは、事業・組織は急成長しているものの、まだベンチャーの名残が強く残り、管理部門にはたくさんの課題が転がっています。
法務に関しては、毎年のように生まれる新規事業の数だけ法的論点が増え続けている反面、その全てについて、プロアクティブな対処ができているとは言い難いのが正直なところです。
今後会社として大人の階段を登っていくときに、大きな脱皮が必要なフェーズにいると強く感じています。

ベンチャーの法務は、事業の成長を加速させるものでなくてはなりません。
そのためには、高度な専門性は当然のこととして、ビジネスモデルやテクノロジーに対する深い理解、事業部や他の管理部門を動かす人間力など、非常に高いレベルのスキルが求められると考えています。
私は、そういう精鋭が揃うプロフェッショナル集団を創り上げる覚悟を持ち、同じような熱量で一緒に働ける仲間を探しています。

すでに法務組織として完成された組織ではありませんので、「あれが整っていない」「これが整っていない」ということにストレスを感じる方には、多分厳しい環境ではないかと思いますが、むしろ自分たちで一つ一つ課題をクリアし、環境を整えていくことに楽しみを見出していただける方にとっては、大きなやりがいを持ち会社全体に貢献しながら自分自身のさらなる成長を実感できるポジションだと、私自身感じています。

もし、少しでも話しを聞いてみたいなと思っていただけたら、ぜひ一度お会いしませんか?お互いの人生観や実現したいことなど、ざっくばらんに語らえたらと思っています。

ご返信を心よりお待ち致しております。

この文章を読んで、「ビズリーチのことは全然知らなかったけど、とりあえず熱量を感じて、小田さんに会ってみたくて来ました」と言ってくださる方がとても多くいらっしゃいました。そうした方々は、普通のメッセージをお送りしていたら絶対にお会いできなかった方々です。言葉は人の心を動かすのです。言葉を商売道具にしている法務の皆さんなら、きっと素晴らしい文章が書けるはずです。

なお、上記のスカウト文面で、ビズリーチ上での返信率は約11%でした。法務求人のスカウト返信率としてはなかなか高い部類ではないかと思います。

面談・面接の実施

スカウトメッセージにお返事をいただいた方とは、面談・面接を実施することになります。

私が気を付けていたのは一点だけ。前回の記事でも書きましたとおり、とにかくフラットに・正直に、ということ。

私がよくする質問は、
「あなたの人生にとって一番大切なことは何ですか?」
「あなたは人生を通じて何を成し遂げたいのですか?」
です。

その人の一番大切にしている価値観と、それに基づいて設定されるゴールがあり、そのゴールに向かう道筋と、当社という船が向かっている道筋が大枠において一致していれば、きっとその方はとてもやりがいを持って働けるはずです(何より、私自身がそう感じているのです)。だから私は、細かい話は抜きにして、とにかく上記の点を理解しにいきます。

その上で、法務組織をともに創り上げる仲間として価値観が合うかどうかを確かめるために、
「あなたが法務パーソンとして最も大切にしている価値観は何ですか?」
という質問もして、お互いの法務としての働き方が根底の部分で通じ合っているのかを確かめます。

これらを通じて、確かにこの人と一緒に働いてみたい、と心から思えるか。その判断に一切の妥協はしない、と決めていました。少しでも迷ったら採用しない、と決めていました。欠員補充の採用をしていると、どうしても目先の業務の苦しさから、このマインド面の相性で妥協をしてしまいたくなりました。でも、ここで妥協をしないことが、絶対に組織の将来のためになる、と信じて、やせ我慢しました。

実際に仲間に加わることを決めてくれた方々とは、お互いに率直に価値観をぶつけ合い、相思相愛で、当社の関係者も満場一致での採用でした。

採用広報活動を併行して行う

以上の採用活動と並行して、以下の2つの施策を行いました。結果的に、効果は大きかったと思います。

・社内ブログの記事作成
・Twitterの開始

スカウトメッセージを送り始めた当初、以前Business Lawyersさんに書いていただいた下記の記事を載せていました。

しかし、この記事は、僕が営業をやっていたときの記事だったので、法務の求人に載せるものとしてはあまりふさわしくなかったですし、当時から私自身も心境の変化が大きくあったので、それを表現したかった。そんな経緯もあり、社内のメンバーにお願いをして、取材してもらい、社内ブログに記事として掲載してもらうことにしました。

そうして出来上がったのが下記の記事です。Facebook等での反響も大きく、多くの方にご覧いただくことができました。この記事を、スカウトメッセージの中に埋め込み、さらに私の思いを具体的に伝えていくことになりました。

実際に面談にお越しいただく方からは、「記事を見て興味を持った」と言っていただくことも多かったですし、社内の別部署の方が、この記事を知人の方に送っていただいて、そこから面談につながったこともありました。

そして最後に行ったのが、Twitterです。正直言ってTwitterは、2013年くらいに登録してから全く使っていませんでした。140字の制限というのも気に入らなかったし、Facebookをメインにやっていた中でSNSを増やすことにもかなり抵抗がありました。

それでも、Twitterをやっている法務の方が多いという噂を聞き、採用を実現するためにはなりふり構わずできることは何でもやりたいと思い、上記の記事をなるべく多くの方に届けるべく、2020年1月からTwitterを開始することにしました。

すると、Twitter上で誰かが上記記事をリツイートしたのを見た方が応募してくる、とか、ビズリーチ上でスカウトメッセージを受け取った方が一旦返事を保留していたが私のTwitterを読んで興味を持って返信をしてくれる、といったことが起きるようになりました(面談の冒頭で、「なんで興味持って下さったんですか?」と必ず聞くようにしていて、そのときにこの話しになります)。明確に、変化を感じました。

実際に採用した方の一人もこうした経緯で興味を持って下さった方でした。人事・採用広報・法務のすべての観点での施策と努力が結合した瞬間。関係者で喜びを分かち合いました。

最後に

以上が、私が今回行った採用活動のすべてです。お分かりのとおり、小難しいことはしておらず、簡単に言えば「色んな方法で熱い思いを伝え続けた」ということに尽きます。本気で思いを伝え続ければ、伝わる人には必ず伝わる。そう信じて、活動し続けました。

・・・思い返すと、採用活動をはじめて2カ月くらい経った頃、あまりに採用ができず、自分には魅力がないのかなと落ち込んでみたり、現場業務の忙しさもあって、心折れそうになる時期もありました。Google検索で、「採用 できない なぜ」とか入れて色んな記事を読み漁ったりしていました。そんなときに出会ったのがこちら。身近に最高の教師がいました。

「採用は確率論」。自分は結局、まだまだ行動量が足りてないだけなのだと確信し、迷いが消えました。そして、正しく行動し続けていれば必ず成果は出ると信じ、100%納得いくまで採用はしない、と心に決めました。

そうして、採用活動をはじめて4カ月ほど経った2020年3月頃、一気に3名の仲間と握手することができました。

採用は、あくまでスタートラインに過ぎません。この3名の仲間が、当社で活躍し、「入社して本当によかった」と言ってくれるようには最低限する必要があります。そして、事業の成長に大きく貢献する組織を創っていかなければなりません。新たなフェーズに突入した、当社の法務組織。まだまだ挑戦は続きます。

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