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23-24プレミアリーグ ブレントフォードの変化

主力の退団と補強

昨シーズンと比べて選手の大きな変化は賭博で出場停止中のトニーを除けばゴールキーパーくらいでしょう。やはりラジャのアーセナルへ移籍はチームにとって痛いかと思いきや、昨シーズンにブンデスで最多リーンシートのマルク・フレッケンをフライブルグから獲得。同じくフライブルグから昨シーズンチームにレンタルされていたシャーデを買い取り、ウルヴスからはセンターバックのコリンズを獲得。大きな補強はないものの、抜けた穴はきちんと補っている印象。


加入:シャーデ(フライブルグ)
   フレッケン(フライブルグ)
   コリンズ(ウルヴス)

退団:ヤンソン →(マルモ)
   ラジャ →(アーセナル)
   カノス →(バレンシア)

おそらくは今シーズンも昨シーズン同様、システムは引き続き4-3-3を基本とし、ビッグ6や格上相手になると5-3-2と相手によってシステムを変えるやり方は変わらないでしょう。

4-3-3(基本システム)


5-3-2(格上相手のシステム)

なぜブレントフォードは強いのか

昨季、ブレントフォードは9位でシーズンを終え、格上相手に好成績を残し、充実したシーズンを過ごしました。マンチェスターユナイテッド、リヴァプール、チェルシー、トッテナムにそれぞれ1勝ずつ、優勝したマンチェスターシティ相手には2戦2勝のシーズンダブルを達成。中堅や格下に負けることも少なく、引き分けで勝ち点1を分け合うケースが多いです。ブレントフォードはなぜ強豪を相手に健闘できるか、なぜ簡単には負けないのか。それは監督トーマス・フランクが拘る効率主義のサッカーにあると考えました。

セットプレー

まず彼らのサッカーを語るうえで欠かせないのが、セットプレーです。チームの得点のほとんどがセットプレーによるもので、その形も様々。昨シーズン(22-23)ではシーズン通してセットプレーで19ゴール。これは昨シーズンのプレミアリーグ全体のセットプレー得点数ランキング1位に当たります。昨シーズンの彼らの総ゴール数が59点なので、彼らの得点の約30パーセントがセットプレーということになります。コーナーキックはもちろん、相手陣地で得たファールはセンターライン付近であろうとすべて両センターバックが参加するフリーキックを行います。その強度は他に類を見ないものでボールの精度、空中戦勝率ともにリーグでも上位です。そして彼らの最大の武器はロングスローです。ブレントフォードを相手に自陣まで押し込まれ、タッチラインを割るとほとんどの確率でロングスローをペナルティエリアに放り込まれます。この場合でも、両センターバックは攻撃参加はマストで、ピノック、ベン・ミーらはニアゾーン構えます。彼らのセットプレーを紹介したいのですが、基本的な形はなくパターンが多すぎて紹介しきれません。というのも彼らはセットプレー専門コーチ、ベルナルド・クエヴァを中心に相手のセットプレーの守り方の弱点を事前に把握し、それに合ったセットプレーパターンを引き出しから出して実行しています。つまり毎試合行うセットプレーは異なります。セットプレーの形は今でもアップデートされ続けており、そのパターンが豊富さに相手も対策に苦戦します。

しかしパターンは多いといっても特徴は明確で、セットプレーのキックから直接ヘディングシュートという形は稀であり、ニアでそらしてファーで押し込む、もしくはファーで折り返して押し込むを重視している印象。この形に拘るのには理由があります。単純にコーナーキックからヘディングシュートの場合はキッカーがボールを蹴ってからヘディングまで約2秒間ボールが宙に浮いている時間があります。その約2秒間で相手ディフェンスやゴールキーパーは競り合ったり、ボールの軌道を予測して弾き返す準備をします。しかしニアでそらされた場合、たとえペナルティエリア内で準備していても、そらされたその瞬間にボールの軌道、速度が変化し相手選手は約0.数秒間で瞬間的な判断と行動を迫られます。もしくは物理的に反応するのが不可能なボールの軌道にもなり得ます。要はニアでそらすことで予測不能なボールをゴール付近に配給できるようになります。これにより結果的に身体能力のあるトニーやウィッサなどファーサイドで待ち構えている選手の前にボールが配給され得点へと繋がるケースが多くなります。

リスク管理重視の攻撃と守備

ブレントフォードは失点しないことを優先順位の一番に置いている印象です。なので失点に繋がるようなプレーは常に避けており、ビルドアップ、プレッシングにおいてもリスクのある方法は取っていません。そこは選手起用にも表れており、フランク監督は献身的にプレッシングやプレスバック、球際の強さを見せる選手を好む傾向があります。ビルアップ面ではディフェンスラインで無理につないだり、可能性のロングボールは避けており、常に確実性のある選択を選んでいます(無駄なショートカウンターを避けるため)。基本的には幅広くポジションし、ロングボールサイドチェンジで敵地に侵入しますが、雑なロングボールを入れることはなく、アンカーのノアゴーを含めたディフェンスラインでボールを繋ぎ、質の良いボールを入れるタイミングをうかがいます。完全に適地に押し込むとサイドからイェンセンとサイドの選手による疑似セットプレーでペナルティエリアにクロス放り込むことが多いです。*詳しいビルドアップや攻撃パターンに関しては試合ごとの投稿で解説。プレッシングもリスクがあるからと言って高い位置でプレスしないわけではありません。敵地奥深くでは強度の高いプレスを仕掛け、高い位置で奪いショートカウンターを行うことも多々。ある程度の位置まで侵入されると割り切って撤退し、スライドを繰り返し固いブロックを形成します。*詳しいプレスやブロックに関しては各試合の投稿で解説。

このように攻撃、守備ともに失点しないことを最優先されており、その優先事項を押さえたうえで攻撃をしています。上記で述べたとおり、彼らにとっての最大の武器はセットプレーです。なので相手の陣地までボールを運んだからと言って無理にシュートまで持っていかず、サイドから質のいいクロスを探り、阻まれてタッチラインを割れば得意のセットプレーになる、常に得意のセットプレーを意識した攻撃スタイルです。。フランク監督の考え方の場合、繰り返しになりますが、必ずしもどのようにビルドアップして、どのようにカウンターをして、どのようにペナルティまで侵入しシュートまで持っていくなどは重要ではなく、どの形ならゴールを取れるのかという他チームと比べて原点回帰したようなスタンスで、言い方を変えれば時代と逆行しているのかもしれません。マンチェスターシティやアーセナルなど現代サッカーの最先端のようなサッカーは彼らの試合では見られませんが、サッカーにおいて戦術は勝つための手段にすぎないことは忘れてはいけません。失点をせず、点を取れれば勝てる。単純なことですがブレントフォードのサッカーはそれを一番体現しているチームでしょう。

監督の指導力

ブレントフォードはプレミアリーグに属していますが、正直なところ資金があるクラブとは言えないです。限られた資金源で選手を獲得し、限られた戦力でプレミアリーグ中位以上に食い込んでいるのは監督のトーマス・フランクの手腕といっても過言ではないでしょう。残存戦力をじっくり指導し、彼の哲学を浸透させる、時間はかかりますがこのやり方で現在ウェストハム所属のベンラハマ、アストンヴィラ所属のワトキンスなど数々のトップ選手を輩出してきました。

ヨアン・ウィッサもそのうちの一人です。昨シーズンはアイヴァン・トニーの控えとして途中からの出場が多かったですが、シーズン終盤にトニーが賭博発覚で出場停止が決まってからは、ウィッサが彼の代わりを務めることになりました。昨シーズン、トニーは合計20点を決めていたので、彼の離脱によりチームの失速は避けられないと思われていましたが、ウィッサの躍動により、最終節までの3試合は全勝でシーズンを終えることに成功。結果的にチームは9位につけ中位以上という好シーズンを過ごしました。個人的にウィッサがチームに加入したころは、長所の走力からウインガー向きという印象でしたが、今となればトニーのようにセットプレーからニアでそらした球をファーで押し込むなど、持ち前の身体能力を生かしたプレーでの得点が明らかに増えています。彼のトップへのコンバートは当初からフランク監督のビジョンにあったのか、それともシーズンを通して彼の適性を見出したのか、どちらにせよフランク監督の選手の特徴を生かす起用法や指導力はプレミアリーグでもトップクラスでしょう。プレシーズンのインタビューでは若手選手、ヒッキー、ダムスゴ―、シャーデ、ルイス・ポッターの4人にはさらなる成長を期待しているという話もしていたので、彼らがどのようにフィットし、どのような成長を見せるのか見物です。

今シーズンの展望

プレミアリーグ昇格1年目の21-22シーズンは13位。二年目の22-23シーズンは9位。順位は徐々に上がっており、おそらくチームの目標もヨーロッパ大会への出場権獲得でしょう。近年のプレミアリーグの中堅クラブの健闘ぶりを見てみるとリーグ全体のレベルの高さが窺えます。昨季ではニューカッスルが好調を保ちチャンピオンズリーグ出場権を獲得、ブライトンもヨーロッパリーグ出場が決まっています。両チームに共通して言えることは、ビッグ6相手にも引けを取らず勝ち点を捥ぎ取れるという点。この点に関しては、成績から見てわかる通りブレントフォードも負けていないでしょう。問題は中堅、格下相手にどれだけ勝ち点を確保できるか。上記でも触れましたがブレントフォードは負けることは少いですが、引き分けが多い印象で、今シーズンさらに飛躍するにはその引き分けの試合をどれだけ勝ちに変えれるかが課題です。今後はフランク監督のチームへのさらなるアップデート、そしてブレントフォードのさらなる躍進に注目して試合を見ていきたいと思います。

今後はブレントフォードの試合を毎節投稿していきます。よろしくお願いします。

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