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読書遍歴 おいしいコーヒーのいれ方

記憶の中で、最初に読んだ「大人の本」かつ「恋愛小説」は、こちら
『おいしいコーヒーのいれ方 僕らの夏』


読書家の父親の本棚を勝手に漁っては、いろんな本をこっそり読みふけっていたのだが、その最初の最初-私が本好きになるきっかけはこの小説だった。
それまで青い鳥文庫ばかり読んでいた中学生の私が、本当の「本の世界」に誘われたのだ。

「僕らの夏」は、村山由佳さん(以下敬称略)の恋愛小説シリーズ
「おいしいコーヒーのいれ方」の2巻。
ひょんなことから親戚の年上美女 かれん と同居することになった高校生 勝利(かつとし/かれんからのみショーリと呼ばれる)の、淡い秘密の恋物語。
年の差での価値観や立場の違い、ライバル登場で嫉妬に悩んだり苦しんだり
恋愛小説のオーソドックスな要素をぎゅっと詰め込みつつ、繊細な心の動きが優しく時に激しく描かれている。恋愛小説の見本市だと私は思っている。
かなりの長編で、途中Web連載になったり何年も続刊が出ず(しかも展開が怒涛の真っ最中にお預けを食らっていた)やきもきしたが、無事完結!
恋愛小説がお好きな方はぜひ読んでいただけたら…。

自分の話に戻ります。
2巻が私の始まり。1巻が無かったのは本の主である父も知らず。かつての父は雑食で、色んなジャンルの本を購入していたため、この本もきっとふと手に取られ、本棚に格納されたものだと思う。
2巻でいきなりちょっとドキドキするシーンが始まっていて、当時中学生だった私もドキドキしながら読んだ。登場人物や展開が唐突なこともあり、これは前の巻があると知ってはブックオフへ自転車を走らせたのだ。

青い鳥文庫ではない、小説文庫
恋愛の最上級が「キス」だった中学生が、そこからもっと熱を帯びた恋があると知った小説。
章題が洋楽のタイトルでおしゃれだというのも、中学生に刺さるには十分だった。淡い恋物語がゆっくりと、しかし確実に進んでいくのがたまらなかった。

そこから、青く甘い恋愛小説の村山由佳の作品を漁り読み「海を抱く」「翼」「青のフェルマータ」を何度も何度も読み返した。
高校生になった私にとって、淡い恋愛の小説と言えば村山由佳だった。
ただ次第にドロドロと、人間の「愛憎」を描くようになり、そこから距離を取っていった。次第に私自身もほかの小説群を好むようになる。
小説の風味が変わった件に関しては、著者自身が最新エッセイ「命とられるわけじゃない」にて述べており、「どうしてあのやわらかな恋愛が描かれなくなったんだろう…」と思っていたのがようやく解決した。


小説・作家との出会いには「旬」がある。その時、その環境、その作家の描く世界との出会いにはタイミングがある。それらが合致した時、新しい価値観や本の世界が拓かれる。
30代になり、労働結婚出産を経た私が淡い恋愛小説と出会っても、以前のような衝撃はあまり受けないだろう。ただ「これからの私」が感銘を受ける本はきっとどこかにあるはずだ。
かつての私が父の本棚から発掘した「僕らの夏」が、今の私を作り出した。この出会いこそ幸運だった。本との出会いと価値観の構築は、運要素が結構強い。

#恋愛小説が好き #村山由佳  

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