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妄想本屋さん

お金と時間と度胸があればやりたいこといっぱい


小さい古民家を買おう。場所が場所なら行政からの補助も出るだろうから。

尾道の坂の途中で、海を臨むのもいい。

西大寺の商店街の片隅の空き家で、町の空気を感じるのもいい。

それか、本屋や雑貨屋のない、少し寂れた町の大通りを少し外れた路地裏だろうか。


古ぼけた壁に薄い青の壁紙を貼ろう。

大きな木の机と、包まれるような座り心地のチェアを屋内に置こう。

大きな本棚と、小さな飾り棚をいくつか。そこに選んだ本を置く。

古本と新刊と、個人的に好きな本をまぜこぜに置く。

壁には絵本を面展。まるで絵画のよう。

空いたスペースにこっそりと民芸品とかマスキングテープとか、数百円で買える小物を販売する籠を設けて。

本棚から少し離れたところに、スツールを。そこで紅茶が飲めるようにしよう。

コーヒーはよくわからないので、紅茶と緑茶とそれに合った茶菓子をセットで。

儲けは度外視。ゆったりと本を読むスペース。邪魔にならない程度にラッキーキリマンジャロでも流す。窓の側に透き通る音の風鈴を。音がある本屋さんは人を選ぶかもしれないね。

本の管理をしながら、奥ばった場所でこそこそとエッセイを執筆する。

店主の椅子は上等な逸品を。

ここはあくまで、私の(夢の)場所だ。あの本が無いとか、この本を高く買ってくれとかいうクレーマーはNO THANK YOUなので出て行っておくんなまし。

ここは私の夢の場所。共有できる本棚。おいしいお茶。ゆったりとした椅子。

ちりんと鳴る風鈴。窓から入る風。

店は狭く小さいから、三人もいると動けないような。
外見はカフェに見えるだろう。

一見さんお断りのような雰囲気もあるかもしれない。

寄せて返す波のようなレースのカーテンから覗く店内が気になる、制服の女の子。
勇気を出して引き戸をがらりと開けると、ふわりとお茶の香りがする。

「いらっしゃい」

店主が声をかけるが、カウンターの向こうにいるので顔は見えない。

少女は、木製の小さい棚を見る。知らないタイトルの文庫が並んでいる。

絵本の壁を見る。本屋で見たことのある新刊と、見たことの無い表紙を見る。

「こんな本屋があったんだ」とふと思う。

カウンターから頭を出した店主と目が合い、少し会釈。

きらきらと輝く、深い青色の表紙の本を手に取る。店主と目が合ったなら何か買わなくちゃ、と思わず触れた本だった。

「これを」

「ブックカバーはいる?」

「お願いします」

ざらっとした手触りのブックカバー。

「ここ、買った本なら紅茶飲みながら読んでいいからね」

コーヒーは私がよくわからないから、無いんだけど。と、笑う店主

「いつできたんですか、ここ」

「半年くらい前かな。店主が好きな本を、好きなだけ置く本屋だよ」

「なんだかいいですね、それ」

「是非また来てね、よかったら本も買ってって」

店内に控えめに流れるくるりの曲。ちりんと風鈴が揺れる。この本を読んだら、また来ようかな。次はあの素敵な椅子に座ってみたいな。スカートを翻して少女は帰路につく。


という、妄想。

少女が手に取った青い煌めきの本は、優しいSFの物語だ。同じだけど違う僕たちが大人になった、未来の話。

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