「ヒトノカタチ」STORY−16:とある旅行記(上)
先週、ジパング613とかいう惑星に行ってきた。
前々から気になってたところではあるが、いろいろ変わったところが多いと聞くところにようやく行くことができたのでいろいろ書いてみよう。
1日目
赤道上軌道エレベーター基地から超音速機でナリタ空港まで行ったのだが、話には聞いていたがもうここから人間そっくりだけど人間じゃない、ここの住民はドロイドというらしいがそんな人形が溢れている。
軌道エレベーター基地の人員も、飛行機の客室乗務員も、空港にも人間に混じってドロイドが働いている。それこそ荷物のカートを押してるのもそんなドロイドなのだ。荷物カートなんて人間型でやる必要性はないのにわざわざ人間型、しかもそんな個体でさえ人間と寸分変わらない姿をしている者が動いている。はたから見れば無駄のように感じるが、ここの住民はあえてそうしているという。まあそんなあたりがなんか懐かしいと言うか、もはや私達が忘れかけていた人間味なんてものを思い起こさせていいという人もいる。そんなのを追い求めて沢山の人が来るのであろう。
さて、この星では旅行者にもパートナーとしてそんなドロイドをつけてくれる。事前にいろいろ選べるのだが今回は子供型をチョイスしてみた。待ち合わせ場所で待っていると子供らしい人影がある。手持ちの端末で認証すると人影が寄ってくる。
「こんにちは、はじめましてアルルです。このたびはトラベルパートナーサービスをご利用いただきありがとうございます。4日間よろしくお願いいたします」
子供の姿をしているとはいえ、本当に人間よりも人間らしい、礼儀正しい風貌に思わずハッとさせられる。
「お兄ちゃん、宜しくねっ。早速だけどどこに行く?」
テンプレ的な挨拶の後にはちょっと人間らしいことば遣いと仕草を見せる。むろんこの辺もいろいろ選べるので自分の好みでこう呼ばせている。早速なので昼ご飯にしようかと言うと空港の店の中からおすすめを教えてくれる。その中から自分はラーメン店を選んだ。
店に入り、さっそく注文して待っているとラーメンというものが運ばれてくる。そして一口運ぶと…うんうん、これだよ。いかにも背徳感たっぷりの味わい。自分の母星では早々味わえないこんな不健康な物がここでは普通に出回っている。まあ空港にある店なんかはこれでも観光客向けにライトな味わいになっているそうだ。それこそ店によっては完食するのも難しいようなクセ強な物もあるという、なんとなくそんなものにもチャレンジしたいとも思ったが流石にやめておこうと思う。
ラーメンを食べ終えると今度は甘いものを食べたいと思い、やはりおすすめの店に入ってみる。今度は子供の分も一緒に頼む。そして巨大なパフェが2つ運ばれてきてそれを崩しながら食べていく。うん、これまた魅力的な味わいになっている。そして向かい側に座っている子供…ドロイドだがを見ると幸せそうにパフェを頬張っている。本当に人間らしい仕草を見て自分も幸せを感じてしまう。そんなあたりがここの住民がこういう人間の形をしたものが好きな理由なのかな…と思う。
そうして空港を出て電車でトウキョウ方面に向かう。見ているとホームにも電車内にも本当にドロイドと人間のペアが多いのに驚く。しかも異性同士だけでなく同性同士でもしっかり手や腕を掴んで歩いている。聞くところによるとここは同性同士にとっては天国だという。元々そういう人たちの権利が認められているところにドロイドという存在がよりそれを助長しているのだろう。それがいいか悪いかは別としてもだ。
そんなことを感じつつ着いたのがトウキョウ、その中でもアサクサ地域と言われているところだ、人力車…いや引っ張っているのはドロイドなのだが…で街の中を散策したが、ここはまさにかつての地球の町並みが再現されている。これがテーマパークではないというのが驚きだ。この地域、かつて日本と呼ばれていたところに住んでいた住民の子孫が多い地域が特にそうらしいが、かつての町並みや文化を再現して暮らしているという。そしてそういう社会を成り立たせるのに不可欠なのが人間と寸分変わらないドロイドだという話である。そんな解説を人力車を引っ張っているドロイドが話している。やはり人間らしい生活を再現するには機械も人間らしくしないといけないのか…そんなことを思いつつ散策が続く。
そして予約していた寿司レストランで夕食を取る。パートナーの分も一緒なので値は張ったが、今やこんな生魚なんて食べられるのはこの惑星ぐらいになってしまった。何でも地球から持ち込んだ魚はあまり定着せず、元からいた生物からも試行錯誤の末かつての寿司というものを再現したという。ここの住民の食に対するこだわりは目を見張る物がある。大したものだ。
食べ終わったあとホテルに入り、部屋で2人でおしゃべりとかしたり風呂に入ったり、そしてベットに横たわる。パートナーの方は自らケーブルをつなぎ、目をつむった。それを見ながら自分も横になって電気を消す。微かな寝息が聞こえてくる。当然ギミックではあるだろうが、こんなところにも人間らしさというものを感じずにはいられない。そんなことを思いつつ自分も目をつむった。
2日目
朝になりそろそろ朝食の時間になるので起きる。パートナーの方はちょっと寝相が悪かったのか布団が乱れていた。そんな様子を見ながらケーブルを外すと目を覚ます。
「むにゅ…おはようございます」
ちょっと不機嫌そうに挨拶をする。そして着替えて朝食会場に向かい、朝食とする。
朝食が終わるとチェックアウトまで時間があるので2人と今日の日程や、他愛のない話をしている。本来ロボットであればただ「はい、旦那様」と順応するのが普通だろうが、ここの住民はあまりそういうのを選ばないようである。あえて人間らしく時には反発するようなのが好みだそうだ。これも選べるのだが今回はより人間らしい設定を選んだ。そうすると時にはすねたりするがそれが自分としてはいいと思うように感じる。
チェックアウトすると目的の1つであるアキハバラ地区に向かう。
そして駅から降りて町中を見渡すと、まさにガイドブックに載っていたかつてのアキハバラ地区の町並みが広がっている。ただ扱っているものはかつての家電やフィギュア的なものもあるのだが、とにかくドロイドショップが目立つ。幅広いタイプを扱う大型店からマニアックなものを専門に扱う小さな店まで様々である。何でもこれを目当てに来る人も多いようで、帰るときには1人増えているなんてことも珍しくないと言う。自分もそうしたかったが手続きが難しかったので今回は諦めた。とはいえこれだけのラインナップを1つの街に来れば選び放題で、ついでに街並みも楽しめるのだからこれだけでもすごいことなんだろう。
さて、自分が目当てにしてたのは古代のゲームのショップ…まあ古代のゲームそのものは配信でも遊べるのだが、やはりその当時のハードを再現したもので遊ぶというのに興味を持ったので、そんな専門店に行ってみることにした。
アキハバラの中心部からちょっと外れたところ、いかにもマニアックな店が密集するところに「PLAY」という店があった。階段を下り店の入口を開けるともうそこには異世界が広がっている。ここは様々な古代のゲーム機やソフトの復元品を扱っているようだ。中には古代のパソコンなんてものもあり、これがまた当時の面影を強くしている。
「いらっしゃいませ〜」
店員が挨拶してくる。こういうところにもやはりドロイドがいるのだが、その風貌がどこかで見たような…自分がプレイしている古代ゲーのキャラに似てるような感じがした。これはやはり狙ってるんだろうか。
「何をお探しですか?」
そんな店員がすり寄ってくる。ちょっと会話して店員が自分がそれなりのマニアだとわかったか、だんだん語りが熱くなってくる。そして店員もいろいろおすすめしてくる。初心者ならいろいろ入ってるミニハードがおすすめだとか、ゲーム機本体に本体におすすめソフトが色々ついてくるパッケージが今人気だとか、今筐体をお買い上げになるとどこの星系へも送料無料とか、次々に話してくるからこっちも戸惑ってしまう。結局この店でおすすめのミニハードセットを買うことにした。
会計を終えて店から出るとちょうど昼時なので近くのいかにも昔の「食堂」といった感じの店に入ることにした。
パートナーの説明ではここの売りは牛丼で、数百年前にかつてあった店のレシピそのままを再現して出しているという。そう聞くとちょっと期待しつつ食べてみる。うん、初めて食べるのになんか懐かしいというかそんな味わいだった。やはりこれは人間の深層にある何かがそうさせるのであろうか。
午後からは今度はゲームセンターというところにも入ってみた。これもかつてはどこにでもあったものらしい。騒々しい音や少し暗めの照明などそんな独特の雰囲気とセットで楽しみながら古代のゲームを楽しむ。試しにパートナーと対戦もしたがやはりまったく刃が立たない。子どもの姿をしているとはいえ機械だからほぼミスなく動くからそれは当然のことだとはいえちょっと悔しい気もするのはなぜなのだろう。
その後ここアキハバラ名物なんて言われる、メイドカフェなんてところに入ってみることにした。途中そういったカフェの客引きがわらわらと寄ってくるがそういう店に行くもんじゃないというのは分かってたので無視して予約していた小さなところに入る。こういった店にありがちな大きなアクションがあるわけじゃなく、ただお茶しながら店員のメイド服や店の雰囲気を楽しむだけではあったが、それだけでも楽しいと思うのはなぜだろうか。店員に聞いたがここは力仕事以外は人間の店員で回しているという。普通はほとんどドロイドで回しているところが多い中、たまには本当の人間味を味わってみたいかな…と思ってたので十分に堪能させていただいた。
夕食はカツカレーライスなるものを食す。これもまた大昔の店のレシピそのままで出しているそうだ。自分は普通の辛さで頼んだがこれもまた希望すれば完食するのも難しいという激辛なんてのもあるそうだ。聞くところによるとそれでも完食者はいるらしい。自分は普通でも厳しいと思うのにここの住民は大したものだと思った。
そうして今日のホテルに入り、会話したり2人で風呂に入ったりする。設定年齢からすると一緒に入るような年齢ではないとは思うのだが、そんな体験ができるのもドロイドだからこそなんだろう。そんなことを思いつつも今日は床についた。
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