「ヒトノカタチ」STORY−16:とある旅行記(下)

---上巻:https://note.com/mnp_x7/n/na17544a6794c

3日目

ホテルを出るとすでにレンタカーが玄関に止まっている。これでフジヨシダと言われる地域に行くのだが、ガソリンエンジンを積んだ車で移動するのだ。運転こそ自動運転であるものの、排気ガスの匂いが何かを感じさせてくれる。聞いた話ではそれこそ運転まで人間がやることもできるそうだ、それなりに厳しいそうだがそんなことができる人がいるなんてと思わずにはいられない。
高速を降りるとジパング富士…かつて地球上にあった富士山という山に似てるからこうつけられたそうだが、そこの登山道路を登っていく。そして道路の終点、5合目と言われるところまできた。降りてみると結構賑わっている。多くの観光客はここで引き返すらしいが、まだシーズンではないもののここから頂上まで登る人も多いそうだ。それこそドロイドでさえ途中でトラブることも多いという。自分はとても登りきる自信はないが、体験してみたい気はする。まあこれはまたの機会にというところだろう。
山を満喫した後下っていき、昼食の場所につく。今日はうどんという物だそうだ。これまた各店舗で数百年前のレシピが守られていて、それぞれに特色があるそうだが共通しているのは麺が固めになっていることだそう。どんな感じなのか想像がつかない気もするが、この地域の名物だそうなので是非とも食べてみたいと思った。
店について注文すると、うどんというものが出てくる。空港で食べたラーメンよりは格段に太い麺類のようだが、一口食べてみると…うん、確かに固い。一瞬戸惑うがこれがまた汁の味と相まってラーメンとはまた違った味わいを出している。これもまた地域によっていろいろな味があるそうで、これもまたいろいろなものを体験してみたいなと思った。
食べ終わってしばらく市内をめぐってみる。かつては山岳信仰なんてものもあってそれをしのばせる建物も作られているが、宗教なんてものの本質はすでにすたれたものになってしまっている。ただかつて宗教的な意味合いのある行事とかは文化的な行事として残ってるらしい。
今日はキャンプというものをやってみることにした。まあここの人たちは不便な生活をあえて好んでやることもあるそうで、そんなのに興味があったので体験してみることにした。道具はレンタルで揃うし、立て方なども指導員…これもドロイドなのだが…そのへんは不便ない。
「指導員の正です。今日はよろしくお願いします」
ちょっといかつ目の男性がついてくれた。早速テントを立ててみたり、ドラム缶風呂なんてものに入ってみたりしてかつてはこんなことをしてたのか…という活動を満喫してみたが案外楽しい。まあドロイドが手取り足取り手伝って教えてくれるのでわからなくて詰むことはないのではあるが。
あたりが暗くなり始めて夕食、今日は3人でBBQなんてただ焼くだけなのだが、そんなことですら野外でやると楽しいのである。不思議なものだ。
BBQも終わり、小さくなりつつある焚き火台の火をボーっと眺めている。これはそんな動画を見てたりしてたからぜひともリアルでやってみたいと思っていた。ずっと見てるとこのまま火が消えて欲しくないな…などと思わせる物がある。
そして火が消えそうになるともう潮時だな…と思い、テントに戻る。今日は指導してくれた男性ドロイドも一緒に寝ることになった。3人で床につくとドロイドの方はすぐに眠りにつく。男性の方はいびきが聞こえてきそうな寝息を立てている。わざわざそんなことまでしなくてもいいのに…とは思うが、これも人間味っていうものだろうか…と思い自分も眠りにつく。

4日目

朝起きるとすでにドロイドの方は朝食の準備をしている。自分は目をこすりながらも食卓に向かう。
ちょっと肌寒いが、なんかすがすがしい感じの中で朝食をとる。こんな雰囲気を味わいたいがためにわざわざ不便なことをやってるのかな…と思った。
片付けが終わり、お世話になった指導員のドロイドに見送られながら自分たちは空港に向かう。そして今日でお供してくれたこの子ともお別れだ。
空港に着き、レンタカーを返却して空港内のお土産店で一通り土産品を買ってカバンに詰める。搭乗手続きをして荷物を預け、座っているあの子のところまで向かう。そして端末を操作すると
「この度はトラベルパートナーサービスをご利用いただきありがとうございました。またのお越しとご利用をお待ちしております」
とテンプレ的な言葉の後に
「じゃ、お兄ちゃんまたね~」
と自然な感じのセリフを残して去っていく。
過ぎ去る姿を見ながら、ここの住民はこういう立ち振る舞いに人間味というものを投影しているのかな…自分も今度は1人連れて帰りたいな…と思いつつ搭乗口に向かった。

今回は休みの関係で4日ぐらいしか滞在できなかったが、本当はもっと堪能したいと思った。今度は長期休みを取って雰囲気がまた違うというオオサカ方面なんていうところも行ってみたいと思うし、手つかずの自然というものが残ってるというホッカイドウなんてところもいいかもしれない。
いっそのこと移住したいとも思うが、さすがにそれは難しいかな…でもそんな気にさせてしまうのがここの怖いところなのかもしれない。十分おすすめできる旅行先であった。

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トーキョー郊外、レン&百合子のマンションにて
「ただいまー」
アルルが家に帰ってきた。居間にいたレンが寄ってくる。
「おかえりー、今回のお客さんはどうだった?」
「うん!いい人だったよ。十分満喫して帰っていったし」
「ところで陽菜から聞いてるけどうちの店に来たって?」
「うん、そうだよー」
「まあ相手も満足してくれたみたいだから良かったよ。ご苦労さん」
「えへへ…ところで次はキリトお兄ちゃんだよね?」
同じく居間のキリトが反応する。
「ええ、お相手は女性だって聞いてます。漁港を回って食べ歩きしたいってご要望ですから」
「そうかい、頑張ってくれよ」
「はい!」

---レイア一家の部屋

「ただいま」
「おうマッサン、今回はどうだったかい?」
「良かったですよ。ちなみにお相手のパートナーだったのがアルルちゃんでしたよ」
「そうか、そんなところで出会うなんて奇遇だな」
「レン君一家は結構パートナーとして出してるみたいですね、次はキリト君だって言ってました」
「そうか、まああんたもこれからがシーズンだから頑張ってくれよ」
「はい!」


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