「ヒトノカタチ」STORY-18:転校生(前編)

---フジ学園高等部1年B組の教室、授業前、みんなが昨日までなかった空いている机に気づき話している。
「(別にうちのクラス死んでないよね…)」
「(まあ、普通に考えて転校生だろうけど)」
そんなひそひそ話をしていると先生が入ってくる。

「おはようございます」
先生が挨拶をすると生徒も答える。
「早速ですが転校生を紹介します」
担任のさくら先生がそう言って金髪の女の子を教室の中に入れる。教室内にざわめきが走る。そして電子黒板におもむろに名前を書いて立たせる。

「なるみちゃんです。皆さん仲良くね~」
そう先生が紹介すると
「よろしくお願いします」
なるみは緊張もせずに挨拶をして
「じゃ、そこの空いてる席に座ってね」
そう言って空いていた席に座る。
「今日からよろしくね、長耳ちゃん」
ちょうど前隣同士になったメイアに挨拶をすると
「メイアです。よろしくね」
メイアも挨拶を返して、ちょっと恥ずかしそうに目線を合わせた。
「では、朝礼を始めます」
先生は紹介もそこそこに朝礼を始める。

---そして昼休み、何人かがなるみを囲んでいる
「ねえなるみちゃん、トーキョーから来たって?」
「う、うん…下町の方だけど」
いろいろと質問攻めにあって困惑しながらも話をしている。
「メイアちゃん、やっぱりエリスちゃんに似てるよね〜ちょっと決めポーズしてみてよ」
「う、うん…」
そう言って決めポーズをすると
「あー、やっぱりエリスちゃんだ〜瓜二つじゃないけどそんな感じ〜」
「へへ…毎度のことだけど転校生にまで言われるの恥ずかしいかも」
そんなところにモエが近づいてきて
「ねえ今度うちのカフェに来てみない?ドロイド達もみんな可愛いから〜」
そう言ってチラシを渡そうとするとおもむろに手ではねてしまい、チラシが落ちてしまう。
「ちょっと〜なにするのよ」
「…」
なるみは無言でモエから視線を外す。モエもしかめっ面をして無言でその場から離れる。
「(…ふん、何なのよ)」

---その日の放課後、帰ろうとするモエになるみが近づいてくる
「…昼間は、ごめん」
申し訳無さそうに小さな声で話をすると。
「もしかしてドロイド嫌い?もしそうだとしたらこっちもごめん」
モエも申し訳無さそうに答える
「ちょっと色々あって、どうしてもドロイドが好きになれなくなって…」
「ふーん、なんでまた…」
「お父さんがドロイドと駆け落ちしちゃって…まあちょっとお母さんと揉めたことがあってそれでという話だったみたいなんだけど、それでお母さんは自殺しちゃって、この近くのお婆ちゃんの家に引き取られたの…向こうにも友達がいて離れたくなかったけど…仕方なかった」
「そうだったんだ、それは本当にごめん」
「ううん、あまり気にしないで」
「…うん」
「でもモエちゃんのメイド服姿、見てみたいな。どこの店なの?」
「駅前の「クロスウィンド」ってところよ」
「ちょっとシフト教えて!」
「う、うん…次の土曜日あたりならどう?」
「行ってみたい!その日来るから!ぜひともモエちゃんに接客してほしいな~」
「…うん」

---その翌日、カフェ「クロスウィンド」にて
「ふーん、そんな事があったんだ」
ルリが腕を組んで話を聞いている。

「うん、ちょっと悪かったかなとは思ってるけど…」
「まあそれで離婚しちゃったとかそういう話はともするとよくある話よね」
2人が話していると。アスナが

「その子、次の土曜日に来るって?」
「うん、できれば私で接客してほしいって」
「そういうことなら私に任せて!これでも戦場で受けたトラウマを解消してきた実績はあるんだから」
「え、でも…」
「そんなこといわずに、任せて安心よ」
「うん…」

---そして土曜日当日
「いらっしゃいませ〜」
金髪の客が入ってくる。
「来て、くれたんだ」
「うん!やっぱりメイド服姿のモエちゃん可愛い!」
「そ、そう…ありがとう。とりあえず空いてる席に…」
「はーい」
そういってなるみが席につく。
「どうぞ」
アスナがお冷とメニューを置きに行く。なるみは視線を外す素振りを見せるが…
「と、とりあえずアイスコーヒー」
だんだんとアスナに目線が向いてくる。
「かしこまりました」
しばらくするとアスナがアイスコーヒーを持ってくる。視線は完全にアスナの方に向いてきている。
「あ、あの…」
なるみが恥ずかしそうにアスナの目を見ながら言い出しそうになっている。
「なんでしょうか?」
「あの、ちょっとお話してみたいな、なんて思ってて…」
「ええ、おしゃべりならできますよ。通常は予約が必要ですけど、何なら私は今の時間空いてますけどどうですか?」
「お、お願いします…」

そうしてしばらくおしゃべりを楽しんだあと
「モエちゃん、ありがとう。おかげで楽しかった」
「いえいえ、あれだけドロイドを嫌ってたなるみちゃんが最後にはアスナちゃんにぞっこんだったし、見てて楽しかったよ」
「なんか、アスナちゃんって癒しの力がすごい気がして…」
「そうよね、従軍経験からそういう性能があるって聞いてるけどそれ以上に何かあるのよね」
「そう…また来たいな」
「いつでも来てくれるといいな。予約すれば他にもフィーナちゃんとかキズナアイちゃんとかもいるから、また違った楽しみがあるからまた来てね」
「うん…」
そういって会計を済ませたあと、店をあとにした。

---それから…
「あの子、今日も予約入れてるわね。今度はフィーナちゃんご指名よ」
「あの日から頻繁に来るようになったよね。あ、来たわよ」
「こんにちわ〜フィーナちゃん」
「どうもご指名ありがとうございます。席へどうぞ」

「フィーナちゃんって固いイメージあったけど話し始めると物腰柔らかなんだよね〜」
「そ、そう?まあもう古いモデルだから…いろんなマスター渡り歩いてきてるし」
「そうなんだ~色々渡り歩いて何か言われることある?」
「おかげで話に深みがあるってよく言われるけど、昔の流行りの顔つきのせいもあってなんか話も古臭いと言われるのよね」
「でも、最近の子にはない魅力もあるよね」
「ボディもいい加減古くてなんとか直してもらってる部分はあるけどね。そう言う個体ばかり集めてる人もいるけどなかなか大変だって」
「まあ、古い話も面白いよ。それはそれで新鮮だし」
「へへ…ありがとう」

---別の日
「今日は私指名ね、よろしく」
「よろしくね、キズナアイちゃん。いつ見てもすごい元気を貰えそうな顔つきしてるよね」

「いや〜ん、褒められちゃった」
「いつもノリが良くて、つい時間が立つのを忘れちゃうぐらいだし…一番人気なのもうなづけるよ」
「そういうなるみちゃんも、ちょっときつめの顔つきしてるせいか最初はとっつきにくそうだったけど話してみると意外と打ち解けるのも早かったよね」
「そう?まあ意外と心開いてくれればなんでも乗っちゃうからね」
「もうクラスのみんなと仲良くできた?」
「うん、みんな優しいし、いいクラスだよ。最初モエちゃんには悪い事しちゃったけど、もう打ち解けたから大丈夫」
「まあそのおかげで私達とこうする機会が持てるようになったしね」
「そうね、おかげでドロイドに偏見持たなくなったし」
「ま、そんなところよね」

---さらに別の日
「こんにちわ〜」
「いらっしゃいませ〜フィーナちゃんだけど、ちょっと待っててね。不具合があって、今ドロイドショップの人がメンテしてるの」
そう見ると奥のテーブルで何やらフィーナが操作されてるように見える。
「なんかこんな様子見るとやっぱり人形なんだな、って思っちゃうね。地蔵モードになってる」
「ちなみに今やってるショップの人、アスナちゃんのマスターよ」
「えー!そうなんだ」
そう言うと操作している人物がこっちを向いて
「おや、ここの常連でうちののアスナちゃんをご贔屓にしてるって人でしたか」
「ど、どうも…なるみです」
「私はルークです。どうぞよろしく」
「よ、よろしくです。まさかアスナちゃんのマスターにお会いできるなんて…」
「そのへんの話は聞いてますよ。心開いてくれればいい子だって」
「う、嬉しいです」
「あと、ドロイドをお迎えしたいなんて話もしてるみたいですね。よろしければどうぞ」
そう言ってルークがなるみに名刺とチラシを渡す。
「あ、ありがとうございます」
「さて、リビルドも終わったかな。再起動しますか」
そう言って端末を操作すると固まっているフィーナが動き出す。
「…モデルM113、起動しました」
フィーナがそう言って少し間をおいて
「あ、今日は私よね。早速だけどお話に入りましょ」
「こんにちわ、今日もよろしくね」
フィーナとなるみが席について早速話が弾む。
「ふふ、最初来店したときはとっつきにくそうだったけど心開くといい子よね」
ルリがそんな話をしている
「そうですよね。うちのアスナにそんな才能があるなんて、いい個体でしたよ」
「ところで、フィーナちゃんのボディも見てくれた?もう古い個体だからそろそろオーバーホールしたいところだけど、受けてくれる?」
「そうですね、この頃の個体にしては状態もいいので、ぜひともメンテして長く使ってほしいです」
「そう、是非お願いね」
「じゃ、うちはこれで。また何かありましたらよろしくです」
「お疲れさまでした〜」

---

それから十数日が過ぎた頃、フジ学園高等部1年B組の教室。なるみの席が空いたままになっている。担任のさくら先生がみんなに説明する
「えー、なるみちゃんは身内の不幸で、しばらくお休みです」
教室内が一瞬ざわつく。それを押さえるように先生が話す。
「じゃ、朝礼を始めます」

---そして昼休み、モエとメイアが話をしている。
「ちょっと聞いた話だけど、なるみちゃんお婆ちゃんが亡くなったとかで…」
「そんな話どこで聞いてきたの?」
「知り合いに警官がいるからそこから聞いたの、なんでも帰ってきたら倒れていて、119番したけどもう亡くなってたって…」
「ふーん、どうりでうちに予約入らなくなったわけか…」
「なるみちゃん家、ドロイドもいなかったでしょう。多分ドロイドがいれば助かってたかもって…」
「なるみちゃん最近ドロイドをお迎えしたいって言ってたし、でもお婆ちゃんがなかなか首を振ってくれないからっても言ってたし」
「そう…これからなるみちゃん、どうなるんだろう」
「多分福祉ドロイドが支給されると思うから、それで1人暮らしなのかなあ」
「でも福祉ドロイドってモデルが限られるからその範囲内でいい子がいればいいんだけどねえ」
「そうよね…」

---それから数日後、ドロイドショップ「からくりBOX」にて
カイ店長とルークが外側にある防犯カメラの画像を見ている。
「あの子、今日も来とるな」
「そうですね、数日前から来てるようですし」
「どれ、ちょっと声をかけてくるかな」
そう言ってカイ店長が外に向かう。

「おーい、最近毎日のように来てるようじゃが、なんか気になるモデルでもあるかい?中に入れば色々見られるし、相談も受けるぞ」
金髪の女の子に声を掛ける。間をおいて、ショーケースに展示されているドロイドを指さして小声で話し始める。
「…この子、私も親になれますか」
「あんた、学生さんだろ?」
「はい…」
「まあドロイドの親には12歳以上なら登録主としてなれるが、18歳未満の購入には親の承諾が必要で…」
カイ店長がいつもの口上で話していると、無言で立ち去っていく。
「…ん、わし悪い事言ったかな」
そう考えていると、ルークが外に出てくる。
「店長、お電話です」
「わかった、今行く」

「…あー、わかった。今回はうちが担当だな」
カイ店長が端末の前で話している。そして電話が終わると
「次の木曜日、ちと市役所まで行ってくるから、スノと留守番頼むな」
「はい…で、何の話だったのですか?」
「福祉ドロイドの提供があるんじゃよ。今回は子供1人だけの家庭に提供してほしいという話だがな…まあこの手の話は標準モデルぐらいしか提供できないからあまり乗り気じゃないのじゃが、順繰りに回ってくるから仕方ないんだがな…」
「そういえばあの子多分…会ったことある子かも」
「何か心当たりあるのかい?」
「レイアから聞いたんですけど、なんか祖母が急死してその対応に当たってたって…一緒に住んでた子が前ルリさんとこでメンテしたときに会ったあの子みたいなんで…」
「前話してた子だよな。それでうちの店に来てたのか」
「そうみたいです…ところで店長最近不動産のページよく見てるみたいですけど…」
「それな、今住んでるところが立て直すことになって立ち退かないといけなくなって、新しいところを探さないといけないんじゃが…なかなかなくてな」
「まあ店長のような場合だとなかなか難しいでしょうね」
「そうなんだな…ところでマシュさんところの導入準備は進んでるかい?」
「問題なく進んでいます。」
「わかった、オープンまでもうすぐだからな。気を抜かずにいってくれよ」
「はい!」

---後編へ続く


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?