「ヒトノカタチ」STORY-19:転校生(後編)

前編

---当日、フジヨシダ市役所にて
「よろしくお願いします」
市役所の担当、麻衣が挨拶をする。

「おう麻衣ちゃん、毎度のことながら乗り気ではないが、今回もよろしくな」
カイ店長が挨拶もそこそこに話に入る。お互いに資料に目を通しながら話していく。
「とりあえず供給できそうなのはこの辺だな。VS社の標準モデルだが……」
「まあVS社でも標準モデルなら扱いやすいですし、それでいいんじゃないですかね」
「そうだな」
「では早速ですが面談に入ります」
そう言って麻衣が呼びに行く。

なるみが入ってくると、顔をあわせた途端。
「あー!あの店の猫ちゃん!なんでまた?」
「だから猫って言うなって……」
「え、知り合いだったんですが?」
「ん、まあちょっと色々あってな……」
そう言ってカイ店長が馴れ初めを説明する。
「そうですか、まあいいでしょう。早速ですが話に入ります」

「……とまあ、提供できるのはこんなところじゃが」
「ところで……ショーケースのあの子、頭から離れなくて、福祉枠でお迎えできないのですか?」
「AZ社のコドモロイドか……」
そうすると麻衣が話を遮る。
「あくまで提供できるのは大人型だけなんで、コドモロイドは無理ですね」
「そうですか……」
「どうします?このまま1人でいるのもアレですし」
「誰かが親代わりになってくれれば……いいんですよね」
「まあそうですが、これから見つけるとなるとまた時間かかりますよ」
「考えさせて、ください」
「わかりました、もう少し時間をあげましょう。無理にとはいいませんから」
「はい……」
そう言ってなるみが部屋から出ていく。

---そしてその翌日、また店舗の前になるみがいた。
「やっぱり、諦めきれないかい?」
そうカイ店長が声を掛ける。
「はい……」
「そうか……」
しばらくお互い沈黙する。
「それで、提案なんだがな」
「……はい?」
「わし、飼わないか?」
沈黙の後、大きな声をあげる。
「えええーーー!!!そ、それってどういう意味なんですか?」
「養子縁組してわしと一緒に暮らすんじゃよ。そうすれば制限なくお迎えできるぞ。資料見させてもらったがなかなか広い家に住んでるから生活するには十分じゃろ」
「け、けど、食事とか生活習慣とか、私に人間外生物を飼う自信なんて……」
「なーに、わし飼うのは簡単じゃよ。食事は猫缶でOKだし、長年この星に住んでるから人間の生活環境にも慣れてるから、そこは心配ないぞ」
なるみがしばらく戸惑う素振りを見せる。
「いい提案じゃと思うがどうかい?うちもちょうど今の家を出ていかないといけなくて新しい家を探してたところだから、ちょうどいいと思ったんだがな」
お互いしばらく沈黙する。そして……
「よ、よろしくお願いします!」
そういってカイを掴んで目を合わせる。
「そうかい、じゃ早速手続きに入ろうかい?」
「も、もちろんです!」
「一緒にお迎えするのはショーケースの子と、あと大人型も必要だからそちらも準備するぞ」
「お願いします!」

---それから数日後、なるみの家にて。
「家は古いけど広くてきれいじゃな。こんなところに1人で住んでるなんて勿体ないぞ」
「荷物、とりあえずこの部屋に展開していいですか?」
「おう、あまり慌てることはないぞ」
「こうしてみるとまるで人形の家みたいに生活空間を小さくしたような作りですね」
「まあそうなるんじゃがな。で、例の2人は隣に準備してるが早速見てみるかい?」
「は、はい」

隣の部屋に行くと布を被ったドロイドが2つ並んでいる。
「じゃ早速だがお披露目だな。布を取ってみてくれ」
言われるがままにまず小さい子から被っている布を取っていく。そして中から出てくるドロイドがおもむろに挨拶する。
「こんにちわ、あんなです」

それはショーケース越しに見てきたあの子そのものであった。おもむろになるみも抱きつく。
「こんにちわ、これからもよろしくね、あんなちゃん」
2人は顔を向き合わせながらしばらく抱き合っていた。そして大きい子の方に2人で向かい、2人で布を取っていく。顔を合わせた瞬間……
「!!」

なるみが驚いた顔をする、そして泣きながらじっと見つめている。
「お母さん、だ……本当は違うけど、やっぱりお母さんだ……」
涙を流しながら見つめるなるみの顔に手を添えてなだめる。
「そうよ、あなたにとってもう1つのお母さん、よね」
「……うん」
「そのお母さんの名前ははるみ……って呼んでたわね」
「……うん、そう名乗ってもいいよ。お母さん」
「これからもよろしくね、なるみちゃん」
なるみは涙を流しながらしばらくお互いに向き合っていた。
「はは、ちょっとアルバムからお母さんの顔を見させてもらったがちょうど標準モデルに似た個体があってな。受け入れてくれてよかったよ」
「あ、ありがとうございます」
涙声で話しながら小さく会釈をしていた。

その夜、早速家族になった全員が食卓を囲んでいる。
「うん!ちょっと違う部分もあるけどやっぱりお母さんの味だ」
「そうかい、喜んでくれてよかった。残ってたレシピノートをうまく取り込めたようだな」
はるみは恥ずかしそうに答える。
「あ、ありがとうございます。まだ及ばないところもあると思いますけどできるだけ近づけるように頑張ります」
そしてカイの前の皿を見て。
「そういえばカイちゃんは猫缶でいいって言ってたけど、これはそれのアレンジ?」
「そうじゃな、うちらの食事のデータも一緒に取り込んだからな」
「でもやっぱり食べてる様子とかネ……って言っちゃいけなかったっけ」
「まあ人間にはそう見えるからな」
そう言ってるとあんなも幸せそうな顔をして。
「お母さんの料理美味しいよ!」
「あら、そう言ってくれると嬉しい」
なるみがあんなの顔を見ながら。
「ほんと、妹ができて嬉しい。一人っ子だったからね」
「今度一緒に遊ぼうね〜」
「いいわよ〜」
お互いに掛け合いをしてるとカイが。
「ところでなるみちゃん、マシュさんの新しい店のバイトに行くって?」
「ええ、無事採用されました」
「そうかい、あそこはうちも関わってるからな。多分ドロイドがパートナーにつくと思うから、失礼のないようにな」
「と、とりあえず頑張ります」

---そしてその週末、洋菓子店「Sponge」新店舗オープンの日、マシュが全員に対して朝礼をしている。
*生物組:マシュ、フリップ、なるみ

*ドロイド組:エリ、ミク、エリカ、うゆり、ときのそら

「えー、ようやくこの日を迎えることができました。新しい仲間も加わります。それじゃまずはなるみちゃんご挨拶を」
そう言ってマシュがなるみに声を掛ける。
「ふ、不束者ではありますがよろしくお願いいたします」
「そしてパートナーになるときのそらちゃん、ご挨拶を」
「はーい!ときのそらです~今日からよろしくお願いいたします」

そう言ってときのそらがなるみに抱きつく。
「今日からよろしくお願いいたしますね、ときのそらちゃん」
「よろしくお願いします。なるみちゃん」

そんな様子を横目にレイアとルークの2人が見ている。
「で、なんでお前まで来てるんだよ?」
「新規導入があるっていうから、ドロイド管理の観点からちょっと見に来た感じだけどね」
「それは言い訳じゃないかい?」
「あと、正もお手伝いで呼ばれているからね。マスターである以上は……」
「そう言って、結局はおつとめ品の販売に来たいだけじゃないかい?」
そう指し示す外には行列ができている。
「はは……それもあるけどな。ミイとすずねも一緒に並んでるし」
そう話をしていると各人が持ち場につき、そして
「それでは開店します!」
マシュの宣言でドアが開く。おもむろに客が店内に入っていく。しばらくは全員が走り回る。

---

開店直後の忙しさが一段落したところで、ルリが店内に入ってくる。
「マシュさん、新規開店おめでとう」
「あ、ルリさん、来てくれたのね。ありがとうございます」
マシュが照れくさそうに返事をすると
「新しくできたカフェ、ロケーションが違うから直接的なライバルにはならないけど、注目はしてるわよ」
「あ、ありがとうございます」
「ライバルと言えば……人気のレプリカドロイドのときのそらちゃんを思い切って導入したわね。うちのキズナアイちゃんのライバルよね」
「まあちょっと思い切って導入してみたけど、早速注目の的よね」
「あのモデルって追っかけがいるからおしゃべりサービスが始まれば更に人気者になるわよ」
「そうね、もう予約はいっぱいですし」
「やっぱりね」
「ま、今後ともいい関係は保っていきましょうね」
「そうね。じゃ私は店に戻るから」
「またお話しましょう。またね~」

カイもなるみのところまで来る。
「メイド服、似合ってるぞ」
「そうですか、ありがとうございます」
「パートナーの子、一緒にいてどうだい?」
「話は聞いてましたけど人気ですよね。ひっきりなしに写真撮られてて……」
「そうじゃな、アイドルドロイドのレプリカモデルだからその子を専門にする追っかけがいるからな」
「ついでに自分も撮られることがあって、恥ずかしいかも」
「まあアンタぐらいのビジュアルなら一緒なのは絵になるよな」
「えっ、それは……」
「まあお世辞じゃなくてSNSには早速投稿されてるぞ。良かったんじゃないかい?」
「ええ……ありがとうございます」
「ま、そんなところだな。戻ってくれ」
「はい」

そしてレイアとルークのところまで行く。
「今のところ大きな問題もなさそうだし、良かったな。お疲れ様」
「ありがとうございます。うゆりちゃんがちょっと難者でしたけど……空き容量があまりなくて」
「そうじゃな、元々学習プラグインマシマシだったから苦労しただろう」
「ええ、でもマシュさんは是非とも接客に入れてほしいって言ってましたのでご要望に答えられて良かったです」
「そうかい、良かったな」
そう話しているとレイアとミイ、すずねもよってくる。
「おつとめ品の特別販売、いろいろ買えたよー」
「うちもー。これでしばらくおやつには困らないよね」
「そうだな。ところで兄さんも初めての大仕事って言ってたけど順調かい?」
「そちらこそ、管理局の立場からどうだい?」
「ああ、まあそろそろ従業員数も増えてきたから10人ルールの枠内に収まるかどうかってところかな、気になるのは」
「まあエリさんが優秀すぎるおかげで多くの人員を接客に回せるのは大きいがな」
そうしてるとマシュも寄ってくる。
「この度はありがとうございます。おかげでスムーズに店を大きくできました」
「まあ、こちらこそ宜しくだよ。今後もメンテとかでお世話になる形になるがな」
「よろしかったら、どうぞ」
そう言ってクッキーの詰め合わせの箱を各人に配る。
「あ、ありがとうございます」
各人がお礼をしていく。そしてカイとルークが
「じゃ、そろそろ失礼するわ」
「失礼します」
2人は元の店舗に帰っていく。そしてマシュがレイアに
「兄の方はいい仕事してくれたわよ」
「そうかい、ところでショッピングモールへの出店の話はどうなったんだい?」
「そこなのよね。10人ルールの枠内となるとあと雇えるのは2人ぐらいなのよね」
「それだといっぱいいっぱいじゃないかい?」
「そうなのよ。それをオーバーすると人ももっと雇わないといけないし、難しいところね。将来的には弟子も取りたいと思ってるし……」
「弟子か……もうそんなことまで考えてるのかい?」
「そう。人手という部分もあるけど親の味を絶やしたくないというのもあるし……」
「そうだな、うち一家でマシュさんところはファンだし」
「フェリスさんの動画のお陰で通販も順調だし、あとはコンテストで入賞まで行ければ……」
「コンテストって、どうなったんだい?」
「3次審査までは行けるんだけどそこからが鬼門なのよね。まあめけずに今後も頑張っていくわよ」
「ま、頑張ってくれよ」
「は、はい!」

---そしてその夜、なるみ家の風呂場。カイとなるみが一緒に入っている
「お風呂大好きなんて、なんか変ねえ」
「うちらの種族は綺麗好きじゃよ。意外かい?」
「まあ猫……って言っちゃうけど普通水がすごい嫌いだし」
「まあそうじゃよな。ところで今日1日働いてみてどうかい?」
「ええ、まだ慣れないところもありますけど、みんな優しい人ばかりなので良かったです」
「良かったな。あとドロイドとの生活はどうかい?」
「お母さんが帰ってきて、妹までできた感じだったので、なんか作り物なのに不思議な感じなんですけど……そんなこと言うと変かな?」
「みんな最初はそう思ってるよ。でも不思議と自然に受け入れるんだよな、いろんな例を見てきたが大体そんなものだよ」
「うん、でもやっぱりみんなでいられるのは嬉しい」
「ま、それでよかったよ」
2人は風呂から上がる

---翌日のフジ学園1年B組教室昼休み、前隣のメイアと話している
「わー!なるみちゃんのメイド服姿可愛い!」
「そ、そう?まあ最初は恥ずかしかったけど……」
「そんなことないわよ。店に来てもいい?」
「い、いいわよ。今度の土曜日入ってるから」
「となりのときのそらちゃんも可愛い。お話できるかな?」
「大人気だから土日はいっぱいよ。まあもう少ししたら落ち着くかな……」
2人が話してるとモエも加わってくる。
「あー、やっぱり可愛い~」
「モエちゃんも?あとモエちゃんの店にとってはライバルになっちゃうじゃん」
「まあマスターも言ってたけど、今後ともいい関係は保っていけそうだって。あまり気にしなくていいよ」
「あ、ありがとうございます」
「私も来ていいかな?」
「うん、いいよ〜遊びに来て自慢のケーキを楽しんでね」
「私はたまに残ったのを頂くことがあるけどね」
「なんかそれっていじきたないかも……」
「そんなこと言わないで〜」
3人の談笑が続いていた。


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