先生の宿題

 催花雨、という言葉を教えてくれたのは先生でした。

「春に花が咲くのを促すように降る雨のことを催花雨というのです。でも一体何を根拠にそんなことがいえるのでしょう」

 随分と雑な問題だと思いました。たとえ出題したのが今際の際だったとしてもです。

「晴美さん、宿題ですよ」

 先生は随分久しぶりにそんな言い方をしました。


 学生時代、私は面白みのない生徒でした。器量も良くなく、賢くもなく、運動もできず、引っ込み思案の、ただ先生のことが大好きな一人の生徒でした。


 先生の国語の授業だけは頑張って受けていました。宿題も必ず提出しました。


 先生は全部お見通しのようでした。



 だからでしょうか。主人の後を追うつもりの妻の気持ちもわかってしまうのでしょうか。



 東京の町に降る雨を眺めながら、私は今日もノートを書いています。


 宿題の答えが分かるまでには一生かかるような気もします。


 宿題はきちんと提出しなければなりません。

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