前髪。10月、失恋。
______前髪を切る、視界良好
この度、私は失恋をした。
26年の人生で3度目になる。
彼の置いていったものは
よれよれのトレーナーと壊れたラジオ、
それと合鍵の3つ。
ちなみに彼は猫アレルギーの猫好き。
ネギ入りの卵焼きは許せないらしいし、
柔軟剤は多めに入れるのが約束。
彼の長年吸っていたたばこが変わったのは去年の冬だった。
その頃から私たちの関係は少しずつ灰になっていたのだと今頃気づいた。
吸いきったたばこみたいに捨てられたあたしは今日もさぼてんに水をあげる。
彼の買ってきたカーテンは丈が足りないし、
彼の好きなテレビはつまらない。
こんなことはどうでもいい。
思い出せは出すほど
ろくでもない恋だった。
ダブルベットは虚しくて、
彼のものが置かれていた場所に落ちる埃が切なくて、何もかも嫌になった。
「前髪長いのも似合いそう」
そんな日常会話から伸ばし始めた前髪は
今となっては邪魔なだけ。
はさみを手に取り、洗面台にむかった。
想いと未練とその他諸々。
前髪と一緒に切り落とした。
「幸せになれよ」
鏡のあたしにそう言って、
前を向いた。
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