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【感想】赤い羊は肉を喰う(五條瑛)

小さなリサーチ会社「内田調査」の計数屋 内田偲が本作の主人公。
依頼されたことを調査し、数値として提供するのが仕事。
内田調査社長の内田雅弘(偲さんとは他人)曰く、計数屋は数字を並べるのが仕事で、そこに先入観は必要ない。数字はしょせん数字でしかなく、使う側の姿勢がすべてを決める―とのこと。
(「情報屋」もですけど、「計数屋」ってなんだかかっこいい。)

数字という無機質なものを扱う偲さんを主人公に据えて、本書が描くのは、深層意識や欲望といった生々しい人の感情なのが印象的です。

(以下、ネタバレあり)

若い女性向けショップ“kohaku!”の宣伝にどこか違和感を感じる偲さん。
次第に悪化する街の雰囲気。
10年前に存在した計数屋集団ワタナベ・グループ、“kohaku!”広告宣伝部の渡辺エスター、ガリのペンギンルーム。赤い羊に、ピンクの魚。
それらをつないだ先に、商業施設「日比谷バベル」のオープニング・セレモニーで起こることとは。

大衆をコントロールすることは意外と簡単なのかもしれず、またその方法は日々研究され、私たちは日々誰かの手の上で踊らされているだけなのかもしれない・・・
いえ、おそらく、多かれ少なかれコントロールはされているのだと思います。
そのことを自覚させられるとともに、あなたは自分のコントロールを他人に委ねますか、どうしますか、と尋ねられているような気分になりました。

鉱物シリーズの世界線の物語で、極東ジャーナルの野口さんや隆さんが出てくるのも嬉しいです。
どうやら彼も葉山家伝統(?)激マズコーヒーの餌食になっていたらしい偲さんにまで「白雪姫みたい」「ガラス細工みたいな繊細な社員」と言われてしまう隆さん。本当に業界みんなそんな認識なんですかね(笑)
野口さんの、悪いものに惹かれている、という認識もにもクスリとしました。きっと、やめときゃいいのに・・・と思いながら、何も言わずに見守っていることも多いのでしょうね。
さらには、「職業上の悩みを解決しに横田の有識者のところに行くと言って出て行ったきり、帰ってこない。あの調子じゃ朝までかかる」と。言い方が秀逸。野口さんから見た彼らの姿も興味深いものがあります。

本書は、Kindleで購入可能です(2020/5/30現在)。
鉱物シリーズ本編とはまた違った興味深い物語ですので、ぜひお手に取ってみてください。

内田偲さんのお誕生日によせて。


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