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【感想】3way Waltz(五條瑛)

米国、北朝鮮、日本の三つ巴。
鉱物シリーズおなじみのキャラクターが多数登場しますが、主人公が隆さんではないので、また雰囲気の違う作品になっています。

(以下、ネタバレあり)

主人公は、航空機事故で母親を亡くしている神田恭祐。
父親と義母と折り合いが悪く現在保護観察中の彼の身辺で、ある日突然何かが動き出す。
その背景にはどうやら彼の実の母親が関係しているようで…
16年前の航空機墜落事故に隠された、不都合な真実とは。

本作で強烈な印象を残すのは、やはり由沙さん。
五條先生の作品には自立した強い女性が何人も登場しますが、エディの前任者をもってして、鼠よりすばしっこく、鴉より狡猾と言わしめる、由沙さんもそんなひとり。
平壌からロシアに向かう特別列車から脱出し、追っ手を掻いくぐって目的のために疾走する彼女がたくましく、痛快で、そして、彼女を突き動かすものを考えると胸が痛いです。

「プラチナ・ビーズ」や「スリー・アゲーツ」と異なり、エディが自ら指示を出している様を見られるのも本書の注目ポイント。
極東という名のダンスホールで繰り広げられるパーティーの主役は米国だと言い切る部長は、相変わらず上から目線の我が物顔で駒を動かし、アナリストで遊びながら(たぶんこれも教育なのでしょう…maybe)、ゲームを進めていきます。なんだかとても楽しそうです。
隆さんは、客を見てカップ&ソーサーを出すというオープンカフェでテディ・ベアのカップに困惑したり、東京タワーの展望台で“飾り(アクセサリー)”呼ばわりされたり、上司が聞いているはずの由沙さんとの交渉で言わなくてもいい失言をしたり、ちょこちょこ顔を出しながら、着実に真実に近づいていきます。
心情描写が少ない分、本編よりちょっとクールで有能そうに見える…かな?
さらに、タキさんや洪、スタックなどおなじみの名前や、エディがなぜかときどきダンヒルを持っているなど、鉱物シリーズファンならニヤリとする描写も登場。

作品としては1冊で完結していますし、アクションあり、陰謀あり、家族愛ありのとっつきやすい作品です。
絶版のため書店での購入はできませんが、どこかで見かけたらぜひお手に取っていただければ。
鉱物シリーズを知らない方にも楽しんでいただけると思いますが、やはりチラチラ顔を出す彼らの魅力を知ってほしいので、本編とあわせて読んでもらいたい作品です。



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