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【感想】スノウ・グッピー(五條瑛)

電子戦という世界を知った一冊。
情報を集めて学習する…今ならAIと呼ばれるものでしょうか。最新型の戦闘機搭載対空中戦用電子戦機器をめぐって展開される物語です。

(以下、ネタバレあり)

きっかけは、極秘に開発され試験運用中の通称「グッピー」を搭載した母機が、事故によって日本海に墜落したこと。
それと時を同じくして失踪した、グッピーの開発を請け負う電子部品専門メーカー 関東電子機器のスタッフ。
物語は、対応のために金沢へ向かった関東電子機器の社員である三津谷雪人の視点で展開していきます。
電子戦機材に関する官民合同研究会で知り合い夢を語り合った宇佐見二佐、情報屋の江崎、失踪した山田や上司の佃田。
海中に没したグッピーに群がる米軍や中国などの周辺各国。
これは誰の、どんな陰謀なのか。
グッピーは希望であり、我々は被害者であり加害者だ、という宇佐見さんの言葉の意味は。

2001年発行の作品ですが、本作が問いかける問題はこの20年、多少の状況の変化はありつつも、本質的にはなんら変わらず私たちの前に突きつけられていると感じます。
技術は進み、民生品と兵器の境界の問題はよりいっそう分かち難くなっていますし、宇佐見さんの目指すところは道半ばで。
読むたびに、お前はどう考えるかと覚悟を問われているような気持ちになります。
宇佐見さんはかなり振り切れたことを言っているのだけれど、その考えが間違っていると言い切ることもできず、振り切れてる宇佐見さんも嫌いではないし、三津谷さんといっしょに苦悩した思い出。
宇佐見さんの目指すものは、賛否ある問題だし、私自身ずっと答えは出せていません。
技術者の立場から日本の防衛産業の夢を語りつつ戦争には抵抗がある三津谷さんと、過去の経験から自らの手を汚してでも理想を追う宇佐見さん。
心情的には三津谷さん側ですが、宇佐見さんの覚悟に憧れる気持ちもあります。三津谷さんも私と同じように悩んでいるのかもしれません。
文庫版書き下ろしの掌編で、そんな宇佐見さんが、三津谷さんの迷いは自分のような人間には必要なものだと言ってくれたことで、私も少し救われました。
三津谷さんみたいに永遠に迷い続けてしまいそうな気がしますが、考え続けたいと思います。

個人的には背景やテーマに強い印象のある本作ですが、もちろん、ストーリー運びの巧みさだったり、三津谷さんが女装したら美女なホクロ美人だとか、過激な理想家 宇佐見さんがかっこいいとか、三津谷さんを挟んで江崎を虫けらのように嫌う宇佐見さんがかわいいとか、そういうおもしろさもあります。

読み応えがありつつ、一冊で完結しているので、シリーズ物にはちょっと手を出しづらいという方にもおすすめです。

(本作は航空自衛隊を舞台にした話なのですが、海に沈んだという印象からか、グッピーという魚の名前だからか、どうしても「海」の印象が強いです。舞台も金沢の小松基地ですし。タイトルともあいまって、冬の日本海のイメージです。
北陸新幹線の開通前、貧しい新社会人であった私が金沢に行く際は基本電車でした。とき→はくたか乗り換えの越後湯沢の豪雪に驚いた記憶があります。
そんなわけで本当は小松の写真でもあればよかったのですが、残念ながら持ち合わせがなく、日本海ですらない太平洋の海面の写真なのが残念です。。)

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