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100日後にデビューするYouTuberを見つけたので盗撮してみた #12

ササノからの返信を見て、鼻で笑いながら舌打ちした。

『了解です!』

そうじゃないやろ、と自分への興味が想像以上に薄いことに思わずニヤけた。
想定していた展開の、悪い方に現実は進んだ。

『ちなみにササノさんって小説とか読みますか?笑』

これで読まないという返事が来たら難易度はさらに上がったが、ここは耐えた。

『けっこう読みます!』

即レスだった。
その流れで私は、最近小説に興味を持っており何冊か読んでみたが正直しんどい、という嘘の事情を伝えた。

『ライトノベルとかどうっすか??』

きた、と思った。
乙一という小説家を調べたところ、彼の作品はライトノベルというジャンルに当てはまるものが多いらしい。
ただ、ライトノベルに正確な線引きは無く、読者の受け取り方次第なようだ。
要するに、その人にとってサクサクと軽快に読める小説は"ライトノベル"に値する。
小説について「難しい」という印象を話せば、ササノは必ずライトノベルを勧めてくると予想した。
もっといえば、乙一を、だ。

『乙一っていう作家がいるんですけど』

ドンピシャですやん、と誰に言うでもなく口にした。
その後、おすすめの作品をいくつか聞き、私が今度それを読んでみるという定番の流れで話は進み、やりとりは終わった。

ササノと仲良くなる糸口はつかめた。ただし、問題はその先だ。私が欲しいのは人の嫉妬心を煽る情報だ。果たしてそういった何かを彼が持っているだろうか。

しばらく考え、正直あまり期待できないと結論した。金も知名度も若さも無い、彼はただの中年男だ。世の中に掃いて捨てるほどいる人間をどうやって炎上させればいいのだろう?
改めて考えてみると、私がやろうとしていることは極めて無謀なことなのかもしれない。

「とはいえ、よ」

それをやろうとしている今の状況はシンプルに楽しかった。私は考えるのをやめ、買い溜めしていた「ポリッピー 4種のチーズ味」の封を開けた。酒のおつまみだが、純粋に味や食感が好きで、つい馬鹿みたいに食べてしまう。一粒食べ、革命だ、と昨日も抱いた感想をまた思った。

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