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成長を加速させる「当たり前」の覆し方

なぜ四回転半ジャンプができるのか

昨年、僕が最も感銘を受けたnote記事は、けんすうさんによる「【保存版】Amazonで総合1位を取るためにやったことの紹介をするよ」という記事だ。

この記事には、彼の著書「物語思考」がAmazonでどのようにして総合1位を獲得したかの詳細なプロセスが描かれている。
最初は半信半疑だったが、100円の投資で得られた知見は、僕の著書「きみのお金は誰のため」が予約段階でAmazon総合1位を獲得するきっかけとなった。

いやはや、驚いた。

しかし、このnoteの価値は、1位になるプロセスよりも「努力次第で1位は目指せるよ」という可能性を示したことにあると思うのだ。

常日頃思っていることのだが、目標を達成するための方法を考えることよりも、その目標を達成できると信じることのほうが、よほどハードルが高い。目標を達成するために一番重要なのは、その可能性を信じることだ。信念を持つことができれば、自ずと目標達成のための具体的な方法を模索し始めることができる。

たとえば、フィギュアスケートの世界では2022年にアメリカのイリア・マリニンが四回転半ジャンプ(四回転アクセル)を決めた。三回転半ジャンプ(トリプルアクセル)はいまや珍しく無くなってしまったし、二回転半ジャンプができる選手なんてジュニアの世界にでも山ほどいるだろう。
ところが、1948年より前はその二回転半ジャンプでさえ、跳べる選手は一人もいなかったのだ。

この75年ほどのあいだに何が変わったのだろう。
人間の能力が劇的に進化したとは考えられない。「努力すれば二回転半を跳べるんだ」ということがわかったから、それに向かって努力する人が増えたことが大きいのではないだろうか。
(スケート靴などの器具の進化の影響もありそうだが、体操の床運動など器具の影響が少ない競技でも同じこともが言えるから、それ以外の影響が大きいと思う)

先日、そのけんすうさんと対談する機会があったので尋ねてみた。
「どうしてamazon総合1位を目指せると思えたんですか?」
すると、意外な返答が返ってきた。
「えっ、そうですか?1日だけ1位になる人は年間365人いるはずですよ」
確かにそうなのだが、努力すれば達成できるかどうかは別の話だ。しかし、話を続けていてわかったのは、彼の周りに総合1位になった人たちがたくさん存在しているということ。彼にとっては、努力すれば1位になれるのは「当たり前」だという認識だった。そういう環境に彼はいたのだ。


環境を変えるには「周りにいる人」を変える

けんすうさんの著書「物語思考」にも、自分が変わるのに一番てっとり早い方法は環境を変えることだと書かれている。そして、環境とは周りにいる人のことだそうだ。

今まで使ってきた「環境」という言葉の意味は何か、ということです。これは「仕事場の環境」みたいな意味というよりも、「周りにどんな人がいるか」という意味で使っています。「自分を変えるならまず環境を変えよう」というのは、要は「周りにいる人」を変えよう、ということだと思っています。

『物語思考』p151

この環境の話を聞いて思い出したのは、内田樹さんのお話しだ。
教育格差の実態は、教育にお金を使えるかどうかだけの話ではないそうだ。

階層上位の家庭の子どもたちは、「努力する」ことの意味と効用を信じ、努力することによって現に社会的成功を収めた人々に取り囲まれている。階層下位の子どもたちは個人的努力と社会的達成の間には正確な相関がないから「努力するだけ無駄だ」と信じている人々を周囲に多く数える。この社会的条件の違いは、子どもたちの「努力することへの動機づけ」そのものに決定的な差をもたらすだろう。

以下のブログより引用

『物語思考』では、環境を変えるために「サードドア」などの実践的な話をしてくれている。
大学生や社会人なら、思い切った環境に飛び込むこともできるだろう。
しかし、中学生や高校生では「周りにいる人」を変えるのはなかなかむずかしそうではある。


書店が大事な理由

と、ここまで書いたところで、とある出版社の編集者との打ち合わせに出かけたのだが、そこで興味深い話を聞いた。
「今井書店があったから、僕は東京に出て来れたんですよね」

今井書店は、山陰地方(鳥取、島根)に多くの書店を展開している。島根出身のこの編集者は、中高時代に今井書店にお世話になったと語っていた。そこで様々な本との出会いがあったからこそ、もっと勉強しようと思ったから東京に出て大学に進学したそうだ。

たしかに地方に住んでいると、選択肢も少なく「周りにいる人」を変えることは難しい。しかし、本の中では、さまざまな人物と出会うことができる。研究に専念してノーベル賞を取る人もいれば、会社をやめて宇宙飛行士になる人も登場する。
本を読むことは新たな知識を得ることだけでなく、「周りにいる人」を変えることを可能にしているとも言える。

さらにその編集者はこんなことも語っていた。
「発展途上国が成長するかどうかは、街中の書店を見ればわかる。書店がほとんどない国は成長できない」
たしかに、店番をしている若者が、ぼーっとしているのか、本を読んで時間を潰しているのかで、その国の未来は大きく変わりそうだ。

今、日本では書店がすごい勢いで減っている。
ネット書店は便利だが、それで見かける本はその人の履歴によって薦められる本が多く、思いがけない本との出会いは少ない。つまり、これまで会って来なかった人物と会える機会を減らしている(本の中の話をしている、念の為)。手間をかけずに本を買うことはできるようになったが、「周りにいる人」を変えるのは難しくなったともいえる。

思いがけない出会いを大切にするためにも、リアル書店には是非がんばって残ってもらいたいと思うのです。

※今回のタイトル”成長を加速させる「当たり前」の覆し方”はAIにつけてもらいました


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