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「将来の不安を埋めたい」その教育が失敗する

日曜日の朝、車のハンドルを握った僕は、湘南を目指していた。カーステレオから聞こえるJ-WAVEの音量を絞り、助手席からの声に耳を傾ける。

「デートで海に向かうのは、非日常を体験したいからなんですよ」

ロマンスでも始まりそうなシチュエーションだが、これは社会学的な視点からの話。隣に座るのは、65歳の社会学者、宮台真司氏だ。彼は今年3月に都立大学教授を退官されたばかり。湘南蔦屋書店での『きみのお金は誰のため』出版記念のトークイベントに登壇するため、二人で東京から湘南へと向かっていた。

 本来はイベントの打ち合わせをするつもりだったが、車内での会話は思わぬ方向に進み、一コマ分の授業を聞かせてもらった。

その宮台さんと初めて食事をしたとき、彼はこう言っていた。
「我々の世代はどうしようもないから、中高生の教育に力を入れた方がいい」

その時の話は以前noteに書いた。

宮台氏はこれまでに100冊以上の著作を持ち、その代表作の一つが「14歳からの社会学」だ。今回のトークイベントのテーマも、「これからの時代を生き抜くために子どもに伝えるべきことは何か?」だった。湘南はあいにくの小雨だったが、用意された50席は全て埋まり、当日券も追加で販売されるほどの盛況ぶりだった。

「これからの時代」と書いたが、この数年で、急激な円安や物価高が進み、日本の没落を実感することが増えた。

個人的には、少子化が急速に進むと、これまでの当たり前が通用しなくなると感じている。人口増を前提にした経済ではなくなれば、年功序列や終身雇用といった日本型のメンバーシップ型雇用も維持できなくなるだろう。これからの物価高に備えて、株や不動産を買おうとしている人もいるが、それもうまくいく保証はない。人が減って経済規模が小さくなれば株は下がるだろうし、居住する人が減れば不動産も安くなる。一方で働く人の割合は減るから物価は高くなる可能性は高い。時代が変わるからこそ、基礎的なこと、普遍的なことを身につけることが重要になる。

イベントではさまざまな話が出てきたが、宮台さんが強調していたことの一つは、「違うことを違うと言える」こと。日本社会では、所属集団の中で、自分のポジション取りに固執することが多いそうだ。
「今の日本は、ヒラ目キョロ目だらけなんです」
上司の様子を伺って忖度する「ヒラ目」。周りの動向ばかり気にする「キョロ目」。このような態度を続けていると、自分が属する集団がどこに向かっているかに気づけない。日本が沈んでいることに気づけなかった理由はまさにこれだろう。周囲に流されず、自分自身の明確な価値基準を持つことが求められているのだ。


宮台真司氏(左)と僕(右)湘南蔦屋書店イベントにて

以前、宮台さんは、仲間を作る力の重要性について語っていた。今の時代、パソコン、英語、話し方、マーケティング、会計、などさまざまなことを学ぶ必要があるが、苦手なことは仲間に助けてもらえばいいという考え方だ。
しかし、AI が急速に進化している現代では仲間に頼る必要もないのではないか。湧いてきた疑問をぶつけてみた。

それでも宮台さんは、仲間が必要だという。仲間はパワーの源であり、学習するときの最も強い動機、「感染動機」を引き出すからだ。
『14歳からの社会学』にも書かれているが、人が学ぼうとする動機には、「競争動機(勝ちたい)」「理解動機(わかりたい)」そして「感染動機」がある。
この感染動機は「この人のようになりたい」「この人のように考えたい」という動機で、この動機によって知識を血肉にすることができる。
最近読んだ鈴木宏昭著『私たちはどう学んでいるか』にも、教育学的な見地からも、「知識はそのまま身につくことはない」と書かれていた。知識はモノのように捉えてはならず、その場の環境を組み込むことで絶えずその場で生み出されるコトとして捉えた方がいいそうだ。

時代が大きく変わり、予想できない未来に対する不安は高まる。
「これからの時代は○○の知識が必要になる」
「子どもを医学部に入れたママの教育術」
提示されると、つい飛びつきたくなってしまう。
しかし、宮台さんは鼻で笑うだろう。知識だけを身につけようとしても意味がない。
小手先のやり方や単なる事実を頭の中に入れるのではなく、
「この人のようになりたい」「この人のように考えたい」と思える人に”感染”し、その人と同じ目線の高さで世界を見ようとするから、必要となる知識を構築することができる。

僕は彼の話を1割くらいしか伝えれてないので、もっと詳しく聞いてみたい方は、湘南蔦屋書店のアーカイブを視聴してください。6月2日まで視聴できるそうです。

https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2416945

(この先はおまけの有料部分。今週の活動記録やこぼれ話など)

5月19日(日)
湘南蔦屋書店のトークイベントの帰り道、渋滞に巻き込まれた二人は、海老名SAで夕食をとることに。

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