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「お年玉でホクホク」の子に親が伝えるべきこと

###この投稿は、筆者が東洋経済オンラインに投稿した記事を一部変更して転載しております###

「お年玉は貯金しなさい」はもったいない

お年玉は、今も昔も子どもにとっての一大イベント。
クリスマスでも誕生日でも、プレゼントをもらえるイベントは他にもあるが、お金をもらえるイベントはお年玉以外にはない(もしかすると、靴下にお金を入れてくれるサンタクロースもいるかもしれないが)。

ある調査によると、小学生がもらえるお年玉の平均は約2万円だそうだ。子どもにとっては大金だ。

おそらく多くの親は「たくさんもらったから、将来のために貯金しとこうね」と子どもに声かけをしていることだろう。実にお年玉の使い道の86%は「貯金」だそうだ。

せっかく、子どもに「お金の教育」を実践するチャンスなのにもったいないと僕は思ってしまう。

では、どんな「お金の教育」をすればいいのか?
昨今、NISAが拡充され、「お金の教育」として「投資教育」をすすめる人が多いが、子どもにはもっと大事なことを学んでほしい

それは、お金の増やし方ではなく、お金の減らし方だ。


摩訶不思議な「人生ゲーム」の目的

ところで「人生ゲーム」で遊んだことはあるだろうか?

生まれてから死ぬまでのさまざまな人生のイベントをすごろく形式で経験しながらお金を増やしていくあのボードゲームである。最終的には所持金が多い人が勝ちになるのだが、これは非常に奇妙な話なのだ。

現実世界でも将来にむけてお金を貯めておこう、増やしておこうとする人は多い。その行動自体は間違っていないが、いつかはお金を使うことを想定している。死ぬときにお金をたくさん所持していても意味がない

本来、お金は増やすときではなく、減らすとき、つまり使うときに幸せを感じるはずだ。

子どもに教える順番としては、まずはお金の使い方であるべきだろう。お金を使うことでどのように自分が幸せになるのかを学び、お金の必要性がわかる。そのうえで、どうすればお金がもらえるのかを考える。「将来のために貯金しとこうね」と言われても、将来どのようにお金が必要になるのかがわからなければ、貯める目的も理解できない

それに、どんな教育にも共通することだが、人は失敗を通して学んでいく。大人になって社会に出てから失敗しないように、子どものうちに失敗を経験することは大切だ。

そしてお金で失敗する場合、その多くはお金の使い方だ。お金の貯め方で失敗したという話を聞いたことはない。子どものころに使い方に失敗した経験があれば、お金を大切に使えるようになるだろう。

くわしい理由は後まわしにするが、私を含め親世代が子どもだった時代は自然とお金の使い方を学ぶことができた。


小学生「いくる」に学ぶお金の使い方

1980年代の小学生を主人公にした今話題のマンガ『しなのんちのいくる』(3巻)に、「ラジコン計画」というタイトルの話がある。



しなのんちのいくる3巻「ラジコン計画」より【1】
しなのんちのいくる3巻「ラジコン計画」より【2】
しなのんちのいくる3巻「ラジコン計画」より【3】

小学生の男の子「いくる」の夢は、近所の玩具店で見かけるラジコンカーを買ってRCカーグランプリに出場すること。車体やバッテリーなどすべて揃えるには3万円ほど必要だ。
ある晩、ラジコンカーが欲しいとお母さんに相談するのだが、けんもほろろに突き放される。
「バカ言ってないで宿題済ませちゃいなさい」
その反応もいくるには想定済み。彼は、資金計画書と書かれた1枚の紙を見せて、プレゼンを始めるのだ。お年玉や、クリスマス、誕生日のプレゼントをすべてラジコンに集約したいという、いくるの熱意に、ついにお母さんの心が動かされる。
「計画を立てて物事を進めるのは大切なことね。やってみなさい」
こうして、半年以上かかるラジコン計画が実行され、駄菓子を買う友達を横目に耐え忍ぶ日々が始まる。

結果がどうなったかはマンガ本編にまかせることにするが、いくるがお金の使い方やその大切さを学んだことは言うまでもない。


モノ経済からカネ経済になってしまった現代社会

以前、大阪大学社会経済研究所特任教授の小野善康氏からお話を伺ったのだが、戦後復興から高度経済成長を迎えるまでの日本はモノが不足しており、消費選好の社会(モノを欲しがる傾向が強い社会)だったそうだ。

ところが、現在のように経済が成熟してくると、ある程度物質的に満たされており、資産選好の社会(モノを消費することではなくカネを持つこと自体を目的化する社会)になっているという。

資産選好の社会に慣れると、「人生ゲーム」のようにお金を増やすことが目的になっても、違和感を覚えなくなってしまう

マンガ『しなのんちのいくる』の舞台となる1980年代の日本は、バブルがはじける前で、世の中はまだ消費を好んでいた時代。大人たちも今ほどは貯金に回すことなく消費を楽しんでいたので、いくるのような子どもも、大金をどのように使えば自分が幸せになるのかを自然と考えていたのだろう。
ところが、現代社会ではお金の使い方を学ぶ機会が明らかに減っている。将来、お金の使い方で失敗させないためにも、親としては「将来のために貯金しとこうね」という言葉をかけるのではなく、何にお金を使ったらいいのかを一緒に考えたり、「貯金するくらいなら没収します」くらいのことを言ったほうが、子どもの教育になると思うのだ。

(終)

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