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ぶれない評価のために知っておきたいこと

「きみのお金は誰のため」を出版して3ヶ月たった。おかげさまで、自分の本をいろんな書店で見かけるようになった。気づけば15万部。ありがたい。

発行部数が伸びると、続編を書きましょうという話になり、その準備をすすめている。読者にもっと楽しんで読んでもらえるように、いろんな小説を読んで学んでいるのだが、やっぱり売れている長編小説は面白い。
「何を当たり前のことを、、、」と思うかも知れないが、ポイントは長編小説というところにある。

時間というコスト

「コストパフォーマンス」という言葉があるが、コストというのはお金だけでない。費やしたものがコストだ。本を読むときにはお金以外に、時間も大量に費やしている。
ビジネス本のレビューでは、たまに「お金の無駄だった」とか「支払った価格に合わない」というコメントを目にすることがあるが、小説ではそんなレビューはお目にかからない。逆に、お金よりも時間へのコスト意識を感じるコメントを見かける。「だらだらと話が長い」とか、「オチが弱かった」といったものだ。
オチが弱いというのは、時間とは関係なさそうだが、この小説が短編であればきっとこの不満はなかったと思う。長編小説は時間を費やして読んでいるから、大どんでん返しや深い感動を求めてしまう。
自分が書く側に回って気にするようになったことは、いかに無駄な情報を省いて、文章を簡潔にするかだ。文章が長くなればなるほど、読者のコストは増えていく。
そのコストに対して期待するリターンは増えるから、分厚い小説を書いている作家は、それだけ感動させる自信があると言える。
売れている長編小説は、間違いなく面白いはずなのだ。

お金を支払うことの自己正当化?

費やす時間が短い場合は、コスト意識は時間ではなくお金に向かう。値段の割に美味しいとか美味しくないとか、いわゆるコストパフォーマンスだ。
じゃあ、価格を下げた方が、評価が上がりやすいかというと、そうではない。人はコストパフォーマンスだけで評価していないからだ。逆にお金を払うことに価値を感じるケースもある。
noteでこんな実験をしてみたことがある。
すでに無料公開していた、いくつかの記事を有料化してみたのである。有料化するとどれくらい読む人が減るのか知りたかったのだが、予想外のことが起きた。
読む人は減ったのに、その記事をおすすめしてくれる人は逆に増えたのだ。
これはいったいなぜなのだろうか?
仮説だが、自分の下した決定を正当化したいという欲求の表れなのかもしれない。お金を払ったという自分の判断が間違ってなかったという自己正当化。もちろん、読んでくれた人が記事の内容を評価してくれているのは確かなのだが、有料記事であるということが、おすすめ記事にあげてくれる一押しになっていたのだと思う。
逆に、記事を無料で配信していると、「どうせ無料の記事なんだから、大した記事じゃないわよね」と思われている可能性がある。

これは悩ましい。
なるべく多くの人に読んで欲しいと思って無料にしているのに、それによって評価が抑えられてしまう。そうかといって、有料にすると読む人が減ってしまう。
そこで、苦肉の策として至った結論が、本文は無料のまま公開して、そのあとのどうでもいい部分(僕の活動日記)を有料化するという方法だ。
それは、佐渡島庸平さんが昔くれたアドバイスでもあったのだ。
「有料化するなら、本文ではなく、どうでもいい部分ですよ」
その意味が、ようやく腹落ちした。

ゴールドマン時代に気をつけた学生評価

このように、自分の感性だけで自信をもって評価するのはなかなか難しい。
服を買うとき、自分の好きなデザインの商品を選べばいいはずなのに、「この商品が、一番人気ですよ」と言われるとついその商品を買ってしまう(もしかして、僕だけ?いや、お店の人がよく言うセリフだから、きっと効果的なのだろう)。まわりの評価に影響を受ける場面は多い。
それを強く感じたのが、会社員時代の学生面接だった。僕が働いていたゴールドマンサックスでは、採用されるまでには、現場で働く社員10人くらいと個別面接を繰り返す(外資系の会社では人事部ではなく現場の社員が面接して、採用する)。一人目の社員の評価が高いと、それに引っ張られやすい。
面接の順番を待っている社員は、面接部屋から出てきた同僚から、学生のレジュメを受け取る。そして、たずねる。
「この学生どうだった?」
「口数少ないけど、物事を深く考えられるタイプだよね。すごい頭いいと思う」
こんな会話がなされると、次の社員の評価も高くなる。
あまりしゃべらない学生を目の前にして、「元気がない学生だな」と一瞬思ったとしても、「言葉に出す前にじっくり考えているんだろうな」と思い直す。
結果的に一人目の面接官が多大な影響を与えることになる。
だから、僕がリクルーティングキャプテンになったときは、そこには十分注意を払った。他の面接官の評価に影響を与えないようにお願いしたし、それでもつい喋ってしまう人は最後に面接をお願いした。

松本人志の点数とM1順位の関係

ちなみに、面接の採点ではもう一つ気をつけたことがあった。点数のボラティリティ(振れ幅)である。
4年前のネット記事で、M1グランプリ審査委員長の松本人志のつけた点数が話題になっていた。決勝では七人の審査委員がそれぞれの漫才師に100点満点で点数をつけ、その合計で順位を競う。その合計点の順位が、松本人志の点数の順位とほぼ一致したという話である。
松本人志すげー、みたいな記事だったのだが、そこにはカラクリがある。
実は、松本の順位になるように番組が操作して、、、
という陰謀論でもない。
ただの統計の話だ。
松本人志がつけた最低点は82点、最高点は97点とその幅は15点。これは全審査員の中で一番振れ幅が大きい(例えば上沼恵美子は8点なので、松本はほぼ倍である)。つまり、振れ幅が大きい松本に気に入られた漫才師の順位が高くなりやすいのだ。
だから、採用活動では、個人の振れ幅を調整して全体の評価を出していた。

というわけで、これからもnoteの本文は無料で書き続けようと思う(多分)のだが、有料化についてこんな話をしている人もいた。
「記事を無料にしていると逆に申し訳ないと思う人も一定数いるようだ。そういうファンになってくれる人のためにも、有料部分はあった方がいい」

うなずいた方は、この先もぜひ読んでみてください。

ここから先は、いつものよう有料部分の活動日誌や裏話。

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