「観察力の鍛え方」は、『他の人の感想』こそ知りたい本だった。
関西ラジオ界の重鎮、浜村淳さんをご存知だろうか。彼には、2時間の映画のあらすじを4時間かけて語ったという逸話がある。
この話を聞いて、「だったら映画を見た方が早いじゃん!!!」ってツッコミたくなったのは、僕だけじゃないだろう。
あらすじと言いながらも、映画の舞台の時代背景の説明や他の映画との関連性、演じる俳優の話などを織り交ぜるから、長くなるのは当然だ。
これはもはや、あらすじではない。
「彼がこれまで得た知見」×「映画」で感想が語られるから、実際の映画を見る以上に得られるものも多いのである。
さて、僕はは最近、佐渡島庸平さんの新著、「観察力の鍛え方」を読んだわけだが、読みながら浜村淳の気分になった。
すごくわかりやすい文章だし、内容の理解だけを考えるなら2、3時間で読み終わるだろう。
だけど、読み終えるのに1日かかってしまったのだ。
○経験×観察力の掛け算
読書するとき、本の中の一文が自分の過去にリンクして、過去を再体験したり、過去の認識を変えたりすることはしばしばある。
だけどこの本は、自分の経験×観察力の掛け算が半端ない。
自分の感情の観察ってこういうことか、なるほどなるほど、と読みながら、自分の過去を振り返って観察し直してみると、その時の湧き上がった感情があやふやになる。
僕の意識が違う方向に向いていたら、感じ方は違っていたかもしれない。行動も変わっていたかもしれない。しばらく思索に耽ってから我にかえり、再び本の中の文章に焦点を戻す。
こんなことの繰り返しだから、本が簡単に読み進むはずがないのだ。
○「時間」と「空間」を意識する
自分の内省としての観察だけでなく、外側の事象の観察においても同じようなことが起きる。
僕の場合は、いつも興味を持って観察している経済や子育てのことだ。
経済については20年近く眺めていて、最近になってわかりはじめてきた。それがこの度、「お金のむこうに人がいる」という本になったわけだが、一体なぜ僕が経済についてわかり始めたのかというと、「時間」と「空間」を意識することが大事だということがわかったからだった。この本にも同じことが書かれていた。
人間の脳には、何かに注目するとそこに「ロックオン」するという特徴がある。注意をある一点に固定化してしまう。
だから人間は「時間」と「空間」を同時に注目することはなかなかできない。
この文章にもっと早く出会えていれば、20年もかけずに、経済を観察できていただろう。
以前、経済について高校生むけに講演する機会があった。そこで、「学校で勉強できるのは誰のおかげだろうか?」と、問いかけてみた。
すると、ほとんどの学生が、「親」と答えた。他の答えを求めると、「政府」と答える学生もいた。確かに政府のお金も高校には支払われている。さらに他の答えを考えてみるよう促すと、「学校の先生」という回答がようやく出てきた。
実は、これも「時間」と「空間」それぞれにロックオンしているだけなのだ。「勉強できるのは、過去に両親が働いてお金を貯めてきからだ」と考えるとき、家族の財布の中に流れる時間にロックオンしている。
一方で、「学校の先生が自分に教えてくれているんだから、学校の先生のおかげだ」と考えるときは、空間にロックオンしている。漫然と観察していると、前者だけ見てしまい、空間が見えなくなってしまう。
そして空間が見えていないことにすら、気づけない。
「観察力の鍛え方」は、こうした観察力を上げる方法をしっかりと提示してくれる本だった。
○読みたいことを書いてみた。
読者によって、いつも観察している対象は違うだろう。
だから、「自分の経験」×「観察力」という本の感想は、人によって、全く違うものになるはずだ。
僕の場合は、僕自身の人間関係、そして経済のことなどを考えた。
だけど、子どもの世話をしている保育士さんが、この「観察力の鍛え方」を読むとどう感じるのだろうか?いつも写真を撮っている人ならどうだろう。コーヒーを焙煎している人ならどうだろう。どんな職業の人の感想もきっと新しい発見があって面白いはずだ。
きっと、他の人の感想が言語化されると、それは面白いものになるに違いない。
僕も他の人の感想を読みたくなった。
「読みたい」と思った時に連想したのは「書くこと」だ。田中泰延さんの「読みたいことを、書けばいい。」という本のタイトルが頭をよぎったのだ。
著者には申し訳ないが、正直、本の内容はそんなに覚えていない。著者の田中さんが、ボケ倒していたしか記憶にない。だけど、タイトルだけは、しっかりはっきり覚えている。
このタイトルをつけた編集者はすごい。いったい誰なんだ。今野良介?なんか、聞いたことがある。そうだ、「お金のむこうに人がいる」っていう本のタイトルをつけた人もそんな名前だった。ん?なんだか田中泰延さんのような文章になってきた。話を戻そう。
人の感想を読みたい、と思うなら、まず自分からだろうと思って、この感想を書いてみた。
なので、他の人も「観察力の鍛え方」の感想を僕に読ませてください。
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