ぼけますから、よろしくお願いします。〜明日は我が身となる前に
寝たきりとなり認知症と認定された父に、ストーブの上でコトコト煮込んだちぢみほうれん草のスープを啜らせていたら、いきなり動きが止まり、白目をむいて後ろへ倒れた
声をかけてゆすっても反応はなく、救急車を呼んだのだったか、姉の車で病院に運んだのだったか、もはや思い出せない
少なくとも父はそれきり呼吸だけしている物体となり、胃瘻を経て施設へと移って、これまた何ヵ月いたのかわからないが、昏睡したまま口を大きく開けた顔が最後の記憶だ
十人兄弟の末っ子で、長姉夫婦の養子となった、東京電力に就職が決まっていたのだと、実質弟であり、姉と私にとっては同じく叔父である従兄に聞いた、初耳だった
母との諍いには辟易とさせられた、認知症が進み、彼我を往来の末、主に彼方で生きているようになり、母が近寄ると拒絶の怒声を上げた、共依存的な関係ではあり、実際どう思っていたのか、夫婦というものはつくづくわからない
寡婦となった母の命の灯火が絶える気配は一切なく、いったいいつまで生きるのか、姉やわたしが先に死ぬのではないか、二次相続を今からどうにかせねばと焦っている
老親の身を案じるでなく、喫緊の課題、焦眉の急という言葉だけが重い