ロブスター〜甲殻類アレルギー者の悦楽
海老が食べられない日本人、野沢菜漬けが食えない信州人は、キムチを受け付けない韓国人にたぶん等しい
もしも郷里で選挙に出たら、私は何票獲得できるだろうか、いま住んでる場所でも見知らぬ土地に落下傘で舞い降りるのでもいっしょだ、少なくとも当選できない自信がある、まあそういうことだ
さらに似たような屁理屈で、かつて結婚できない男な気がしていた、進んでしようとは思わなかった、できようができまいができればしたくなかった、するかしないか、しないなら別れてくれといわれ、別れるぐらいならこのままいっしょにいたいと思ったのですることにした、その程度の気持ちであったというのではない、これを逃したら一生ないと切実に感じたのでしたのだったが、常に優柔不断であり、相手からすれば迷惑な選択であり、結婚しないなら別れる、わかりました、じゃあいいですでよかったのかもしれないが、あのとき結婚してもらえなかったら私は甲殻類のごとく殻に閉じこもって独りで死んでいつたでせうありがとうと感謝するほかない
しかし男女ともに独身であることが許されないとしたら、異性を欲する気持ちはかえって燃え上がらず、生殖のための行為も冷めたものになる、勃起も射精も処理に止まらざるを得ず、快感も快楽も地上から消え失せるだろう
そう考えるとこの映画は、自由主義と全体主義のはざまで男女すなわち人間の存在意義を問うような深刻劇であり、独りであれ二人であれ愛ある世界を生きよと諭す啓蒙劇だった
なにはともあれ、目の前のもろもろについて、どうしてもよいかわからず悩み、さりとて実はどうでもいい自分がいる
主人公がロブスターに転生したいのは同じ根拠であったかと、時間が経つにつれ妙に親しみが湧いてきた
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