見出し画像

ビール・タコス・CES

はじめに

主たる収入を得ている仕事の出張で、ラスベガスとロサンゼルスに行った。
クラフトビールを飲むようになってから初めてのアメリカだったので、仕事の合間にいくつかブルワリーに行ってみた。これはその一日(と前後ちょっと)の記録です。

事前準備、氷結

Yuya Boysのゆうやさんという方の動画で、アメリカのブルワーが氷結を好むという話をしていたので、半信半疑で氷結を2本持って行った。後述しますが、これからアメリカにビールを飲みに行く方は絶対に氷結を持って行った方がいいです。

ラスベガス

ラスベガスはホテル一つ一つが街のようになっていて、カジノやレストランやバーが揃っている。自分が泊まったホテルのレストランにいくつか行ったが、どこもIPAなどのビールが揃っていた。日本のアサヒやキリンにあたるのはBud LightやMiller。もちろんそれらも置いているが、3タップくらいは他のビールを置いていた。
San Diegoから来ていたアメリカ人の同僚曰く、「Budは普通に飲みはしないけど、テキーラのチェイサーにする」とのことだった。またあるレストランのタップリストにサワーがあった時に、同僚は「サワーだ、珍しい!飲もう!」と言っていた。IPAは珍しくないらしい。(ちなみにSan Diegoはアメリカ西海岸有数のビールどころで、Stoneなど日本でも有名なブルワリーがたくさんある。San Diegoの同僚たちはビール舌が肥えている)

Sierra Nevada Brewery

どこのタップにもシエラネバダが繋がっていたし、コンビニやスーパーにも大概置いてあった。つまりこの国ではラガーの他にIPAを置くことは普通で、IPA側ではシエラネバダがアサヒ・キリン的ポジションを確立してしているらしい。良い国だ。

空港でシエラネバダ
道端でシエラネバダ
コンビニでシエラネバダ

HUDL Brewing

ラスベガスでは基本的にホテル内で飲んでいたが、一度だけ外に飲みに出た。Main Streetという名前の通りがあり、その名の通り街のメインストリートらしい。ちなみにホテルが並ぶエリアの通りは「Robert Downy Jr Street」や「Stevie Wonder Street」など、芸能人の名前がついている。Main Streetは観光客が行かない、ローカルのメインストリートなのである。
HUDLというブルワリーで8種類くらいのビールフライト(飲み比べセット)を飲んで、どれもそこそこ美味しかった。ヘイジーはあまり濁っていないので、アメリカでも濁らせるのが下手なブルワリーはあるらしい。

Vanilla Oak On NITRO
ナイトロのクリームエール。国内だと奈良醸造のナイトロがモンブランやバナナなど副原料の工夫が際立ち美味しいが、ここのナイトロはベーシックにモルトの甘みとクリーミーな舌触りが楽しめた。

この後LAで行く先々でも思うが、アメリカのブルワリーはとても広く設備が大きい。日本のマイクロブルワリーみたいに200Lバッチ数個で回しているところは一つも無かった。自分が有名どころにしか行っていないからかもしれないが、やはりアメリカは規模が違う。そして大きく作った方が美味しい。

ちなみにラスベガスで一番美味しかった食べ物はタコス。Tacos El GordoというSan Diegoにもある店で、ラテン系の同僚が連れて行ってくれた。
牛タンが異常な柔らかさだった。牛タンも柔らかい肉も日本のお家芸だと思っていたけど、間違っていた。根ぎしよりも利久よりもEl Gordoの牛タンの方が美味しい。

ロサンゼルス

ロサンゼルスは2泊のみだったが、1日は移動日だったので仕事が無く、しっかりブルワリーを回れた。

Monkish Brewing

Tap&Crowlerのアキさんに紹介されていたブルワリー。屋外に席がたくさんあり、家族連れや友人同士が集まってビールを飲んでいた。

アメリカはネバダ州とルイジアナ州以外は法律で屋外公共空間での飲酒が禁止されているが、敷地が広く私有地で飲めるのであまり問題無いのかもしれない。同僚は「あれは警察が権力を保つためにあるルールさ。普段から見張っているわけではないけど、逮捕しようと思ったらそれを理由に逮捕できるんだ」と言っていた。
Monkishはヘイジーが美味しいブルワリーとのことだったので、ヘイジーを2種類飲んだ。どちらもまず嗅いだ時に鼻から来る超重量級ヘイズに圧倒されてしまった。

Foggier Window
Monkishのフラッグシップ。トロピカルな香りは果実感だけでなく草や土も含み複雑。南国の猥雑な森を思わせる、まさにヘブンリーな香り。Galaxyを極限までトロピカルに昇華させた、Galaxyの正解を見たような気がする。飲むと若干苦味がありつつ、気持ち良いとろみと甘味。人生で飲んだヘイジーで最も美味しい一つだった。こんなに美味しいビールを平気で飲んでいるアメリカ人たちはもうちょっと恵まれていることを自覚した方がいい。

Vinyl Odyssey
こちらはSimcoeのシングルホップ。Foggier Windowほど突き抜けてはいないが、強烈なSimcoeフルーツ香だった。こちらもものすごく美味しい。

Natural Lighting
ファンタズムがメインという珍しいビール。ファンタズムはブドウの香り成分を乾燥させた粉末。ホップでフルーツ感を出すビールにフルーツの香り成分を入れるのは端的に言うとズルであるが、このビールはまさにズルの味がした。ものすごくフルーティーだけど芯が無い感じが分かり面白かった。
日本ではファンタズムはまだほとんど使用されたいないが、やはりアメリカでは新しい取り組みが行われている。

Noi Springs
なんとトリリウムとのコラボ。Riwakaという珍しいニュージーランドホップを使っていた。ホッピーさとモルト感を発酵で再構成したような複雑な味だった。

4種類とも日本なら2,000円くらいしそうなクオリティだが、$5-6程度で飲めた。なんでも高いアメリカで、ビールだけは安い。

ウマすぎる + 安すぎる。

ビールが美味しかったのでブルワーに氷結をあげると、thank you so much!と言ってもらえた。

Smog City Brewing

日本でもお馴染みのSmog City。いくつもタップルームがあるが、Torranceの店にはMonkishから徒歩5分で着いた。ちなみに徒歩圏内にはThe Dude's Brewingもある。恐ろしい地域である。日本でSmogはIPAなど標準的なビールしか見ないが、ここのタップには30種類ほど繋がっており、ラガーもヘイジーもサワーもバレルエイジもあった。

広い

Rainbow Bright
ヘイジー。El Doradoのミルキーな味わいが屋外の開放感と相まってとても気持ちいい。

タコス屋が出店していたので食べた。チーズと肉のバランスが良く、ビール向きなタコスだった。ミルキーなヘイジーとチーズが味の繋ぎになっており、とてもよく合った。
ちなみにRainbow Brightはハーフパイントでわずか$3である。やはり異常に安い。

お土産にバレルエイジのボトルを買ったが、その際レジをしていたブルワーの方といろいろな話をした。海軍で横須賀基地にいたことがあり、日本でたくさん飲んでもらっていることが嬉しいとのこと。せっかくなので、と言って日本から持ってきていた氷結を1本あげると、「ボーナスビールをあげよう!」と言って日本に輸出していないビールを2種類もくれた。
大わらしべ長者である。

Homage Brewing

MonkishやSmogがあるTorraceという地域から車で約1時間、中華街(途中でMelrose Avenueに寄って古着を買ったりした)。ここまでIPAメインのブルワリーに行っていたけど、Homageはセゾンが得意なブルワリー。なぜか電気が真っ赤で、ミラーボールが回っていた。ビールも踊る。

Pink Lavendar ‘22
イチゴとラベンダーのバレルエイジセゾン。穏やかな酸っぱさで美味しい。 ラベンダー入りのビールってトイレの芳香剤に思えて悲しくなることが多いけど、これはラベンダーが香りより味に効いていて良かった。アメリカの大雑把な感じがアメリカのビールには一切感じられない。

Open Season
この日飲んだ中で最も学びがあったビール。オープン発酵したセゾンで、ホップは「Anchovy hop」! しょっぱいわけでは無いけど、塩味や旨味に近い味を感じる。最近のナチュラルなオレンジワインのようだった。ドライなラガーとは異なるアプローチで食べ物に合わせられそう。

ところでHomageの飲み水は軟水だった。MonkishとSmogは硬水だったし、LAの水道は硬水だ。なんでと聞いたら、Homageでは大きい浄水機器を持っていて、ビールも飲み水も全て軟水にしてから使用しているとのことだった。やはりIPAメインのブルワリーは硬水、セゾンメインのブルワリーは軟水なんだな。

Highland Park Brewery

Tap&Crowlerで勧められていた2軒目。店員と話して分かったことだが、West Coast Brewingのヘッドブルワーはここ出身らしい。ビールは世界中で繋がっているのだ。素晴らしい。

ゆったりと広い店内。
クオリティに対して安すぎる。これでもLAでは高い方らしい。

Bortz
Homageで「Bortz」というダークラガーをミルコで飲むと最高だよ、と教わったので注文。ミルコ(Mlíko)とはグラスをほぼ泡で埋める注ぎ方。泡なのでまろくて軽いが、しっかりめのダークモルトが感じられて美味しい。飲み終わってから「ミルコは一口で全部飲むんだよ」と言われた。先に言ってよ。
常連らしいお客さんの多くが、来店したらまず自分と店員さんの分のミルコを頼んで乾杯していた。店員さんは水の泡でも飲んでいるかのように軽やかにグラスを空けていた。

キッチンのマリオと、無限にミルコを空けていたアンドリュー。

Hello, LA
今日の白眉。完全にやられてしまった。
West Coast IPA。アメリカ西海岸に来たんだから流石に一杯くらい飲んでおくか、ということで頼んだ(いい判断だった。)ホップはMosaicとCitraの王道ペア。匂いは控えめに、気持ち良いベリー。口に含むとベリーにわずかな柑橘が混ざったようなジューシーさがはち切れて、滑らかに溢れ出す。粘度の低い液が優しく喉を撫でて、気持ちよく染み渡る。えぐみは全くなく、ほんのわずかな苦味が次の一口を促した。
西海岸の乾いた風が体内を吹き抜ける。
肩肘張らずにチルで行こう。気持ちよくやろうぜ。
思想は頭から入るのではない。ビールが運んで来て、身体の内から満ちるんだ……

あまりの感動に身体が軽くなり、風に乗ってロングビーチまで吹いていきそうになったが辛うじて正気を取り戻し人間の形に戻ったところで、そういえばSmogのタコス以外に今日何も食べていないことに気付いた。店員さんに近所でおすすめの食べものを尋ねたら「あいつに聞け」と隣にいた、背は低いがガタイのいいラテン系の男性を指さした。
ジーという名前の彼は、「LAで一番美味しいタコスのフードトラックが近所にあるけど行くか?俺もこれを飲み終えたら行くから乗せていってやる」と言ってくれた。

タコス屋に行く車中で音楽の話をした。ジーは日本のシティポップをよく聴くらしく、大貫妙子や高中正義の話で盛り上がった。「お前最高だな!正直ビアバーではあまり乗り気じゃなかったけど、お前を連れてきて良かった!」と言ってくれた。シティポップのおかげで日本のシティボーイは海外で息をしやすくなっています。

タコス屋はすぐ近くのガソリンスタンドの駐車場に停まっていた。現金が無いと言ったら、「じゃあ缶ビール1本とタコスで交換だ」と言われ、昼にSmogでもらった缶ビール1本が夕飯のタコスになった。わらしべ長者もいいところだ。

タコス屋に案内してくれたジー。翌日も一緒に遊んだ。

トルティーヤと肉以外は自分で欲しいものを載せるスタイルだった。「グリーンソースとライムだけのシンプルなのがいいんだ、玉ねぎやサルサは入れるな」と言われたのでその通りにした。確かにカリッと焼いた牛肉とグリーンソースのシンプルな旨みがよく合って、一日中ビールを飲んだ腹をほどよく満たした。

翌日も仕事終わりにHighland Park Breweryに行き、ジーに今度はブリトー屋のフードトラックに連れて行ってもらった。それも美味しかった。雨だったのでジーの車で食べた。

アボカドとポテトがいい。

その後は友人がDJをやっているというので、ダウンタウンの外れにあるバーに行った。LAっ子と言われてまさにイメージするようなお洒落なシティボーイ・シティガールたちが、音楽や、葉っぱや、高騰する家賃の話をしていた。

DDH Pillow
CitraとMosaicのDDH Hazy IPA。昨日飲んだHello, LAもCitraとMosaicだったが、Highland Parkはこの組み合わせが得意なのかもしれない。完全に美しいフルーツ感に満たされており、元がホップ出会ったと分かるような草っぽさや荒さは失われている。

The Party
シダーウッドを使ったWest Coast IPA。微かな木の香りが飲欲をそそる。

Fellow Humans
Nectaronホップが主役のWest Coast IPA。Nectaronらしいネクタリンのような熟れたジュースとCitraの柑橘が同居しており、飲んでも飲んでも飽きない味。

Stay Stout
ナイトロオートミールスタウト。普通といえば普通だが完成度の高いスタウト。
変わり種も全て美味しい、恐ろしいブルワリーだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?