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ビートルズ好きならきっと特別な1本になる 映画『イエスタデイ』

●ザ・ビートルズが世界から消えたなら

突拍子のない設定で制作の時から話題となっていた作品です。実際、ビートルズが存在しなかったなら、音楽や映画はもちろん、今の世の中のありとあらゆるものが著しく変わっているはず。それくらいfab fourの影響力や、文化の重要性を改めて一考できる「設定」ですが、この映画の行き着く先はもっとパーソナルなところでした。

重要なネタバレは避けます。あらすじは割愛します。(色々なところで丁寧に書かれているし、この記事を読んでいる方の9割くらいはあらすじを知っているはず。)


●ビートルズの音楽って普遍的

彼らの音楽のすごいところは、いつどこでどの世代の人が聴いても新鮮で魅力がちっとも色褪せないこと。まさにタイムレス。この映画は改めてそれを証明してくれます。また、主人公のジャックを演じたヒメーシュ・パテルの歌声が、馴染みのある名曲の数々を瑞々しく響かせ、物語の中のオーディエンスと同じように一曲一曲に夢中になってしまいます。

この「I Want to Hold Your Hands」と「I Saw Her Standing There」のシーンは楽しさしかない!私はこのクリップを見て、この映画を絶対に観に行かなくてはと思ったのです。

ジャックがfab fourの音楽を歌い上げることで、ビートルズが演奏している過去の映像を観るのとは違った、新しい感動を与えてくれます。現代において生まれ変わったフレッシュな音楽をライヴハウスやウェンブリースタジアムで浴びるように聴くことは、”ビートルズが消えてしまった”映画の中の人々と同様に、私たちにとってもまた新しい体験です。特にビートルズの活動を目の当たりにできなかった世代にとっては、その稀有な感覚を、この映画で自分のものとして少し感じることができるのです。この体験ができるのは大きなスクリーンと大音量が許される映画館ならでは。


●ダニー・ボイルとリチャード・カーティス

イギリス映画界を代表する2人ですが、作風が違うので意外な組み合わせではあります。ただ、共通点は両者とも作品における音楽の使い方が絶妙ということ。ボイルの『イエスタデイ』は”ビートルズへのラブレター”というその言葉通り映画からはビートルズへの愛が伝わってきます。

ストーリーラインは予想以上にカーティス色が強くて実直なロマンティックコメディですが、所々のサイケデリックな演出はボイルだなあという印象。設定が秀逸なのにあまりに普通のロマコメ展開という点で批判もあり、それも一理あります。確かにストーリーにひねりがなくて私も少し面食らいましたが、ラストシーンが流れて観終わった後は晴れやかな気持ちになり、これはこれで良いかなと思わせてくれます。ビートルズの音楽がそうであるように、愛とは、幸せとはなにか、やさしく問いかけてくる映画です。

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ストーリーにひねりは無くても、随所に皮肉が込められているのはさすがイギリス映画。特に徹底的だったのは大手レコード会社の儲け主義へのいじり。多分これ大げさじゃくて本当にこうなんだろうなーというのが透けて見えるからますます本気のいじりなんだなと(笑)。あと、レコード会社の黒人の偉い人がアルバム名をボツにするシーンでは、アイデアの一つ「ホワイト・アルバム」をダイバーシティの観点から”白すぎる”とインド系2世のジャックに向かって言うという2重3重の皮肉。

そもそもインド系の主人公がビートルズを歌うというのが、これまでのハリウッド的な感覚からすると目を引くことで、さらに非白人が主人公になると人種的なアイデンティティを絡めた話が多いですが、ジャックがインド系であることはこの映画では何の意味も持っていません。他の白人の主人公がそうであるように、彼が主人公であることに”説明”は要らないんです。実際イギリスはインド系が多いので普通のことですし。そういうとてもダイバーシティに対してフラットな話の中で、あえてダイバーシティのネタを入れるという、さらなる皮肉。このシーンは本当すごいです(笑)。


●忘れられないあのシーン

映画の後半で、あるシーンがあります。私はこのシーンを観た時のことが忘れらなくて、観終わった後も何度も何度も考えてしまいます。それまでの映画の雰囲気を変えるシーンでもあり、大事な部分なので絶対にネタバレはしませんが、製作陣からのサプライズギフトだと思っています。ビートルズファンは心を打たれるのではないでしょうか。


ほかにも、本人役のエド・シーランはちょこちょこ笑いを取ってくるし、ジャックの幼馴染みエリーを演じたリリー・ジェームズは天真爛漫な魅力が相変わらず素敵です(ファッションも可愛い)。個人的には、英ドラマ『スキンズ』でリッチを演じていたアレクサンダー・アーノルドが、最初にレコーディングを一緒にしたギャビン役で出てきたのも嬉しかったです。

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