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詩集「声を聞かせて」

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あなたの声をきかせて。 そしてこっそり私の声をきいて。
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2019年8月の記事一覧

狂気のような

凶器にも似ていた
傷つけても
傷ついても

何もかもを捨てて
何もかもを放り投げて
何もかもを手放して

かけていくような
最後の

幼いままの、恋だと

会えなくても、もう

もう
戻れないと知っていた
もう
戻らないと決めた

削除した連絡先
泣き顔の裏に
貼り付けた「ごめんね」

自分勝手なまま
さよならの夜

今日が終わる

涙を見せないことが強さだと
どこかで
頑なに信じていた

風に揺れた憂鬱
明日はと
そればかりを呟いて

今日が終わる
今日が終わる

電話も出来ないまま

完全な夜などないのに

夏のせい

溶け始めたかき氷が
指先を濡らした
見上げた太陽は高く
ふらついた目眩

蝉が
命を主張するようにないて
ああ、夏だなと
ぼんやり思う

同じような一日
同じような朝

あなたを
思い出した夜

後悔なんてないけれど
少しもない、けれど

ふたり

気付けば
空は高く
眩しいほど青かった

綺麗な思い出ほど離れがたく
美化された記憶は
時として
もし、と
どうして、を繰り返して
現実との差に揺れ動く

すれ違ったふたりぼっち
分かり合えなかったひとりぼっち

元気ですか、と問えば
答えは返ってくるだろうか

風に乗ってでも

めまい

伝えたい切なさの言葉足らず
こんなにも
溢れているのに
こんなにも
暴れているのに

勝手に落ちた恋を
あなたには言えず
だから
いつまでたっても始まらない
夏のゆらめき

はしゃぎたい波間
陽炎をみた夢と
一瞬のめまい

台風の夜に

繰り返した強がりと
何度もついた小さな嘘
浮かんでは消える
誰かの優しさ

台風の夜は
どうしてこんなに
心細いのでしょうか

ごうごうとなる風
細い三日月
薄曇が夜に隠れて流れる

明日まで雨、の予報を
どこか他人事のように聞いて
また強がる

平気よ
大丈夫

大丈夫

言わない気持ち

意味の無い言葉を
つらつらと
ちらちらと
並べては
並べては

会いたいと思った次の瞬間には
もう会わなくてもいいとさえ思う
天邪鬼のどちらが本音

言わない気持ちの
流れ着く先
夏の泡沫

言わない気持ちの
密やかな埋葬