見出し画像

野良猫を育てる・1

わが家には元野良猫が3匹と、ペットショップから買ってきた猫が1匹いる。

猫たちとの生活を書くことで、猫と暮らしてみたいと思う人々の参考になれば幸いである。

早速タイトルから外れるが、時系列の順で話すとペットショップ出身者が最初にわが家にやってきたため彼の話から始めたい。

猫がどうしても飼いたかった

物心がついた頃、傍にいたのは大柄の茶トラ猫であった。茶トラであるから、彼は雄猫だった。よく傍にはいたし家にも上がり込んで飯も食べていたがほとんど野良猫で、他の雄猫と喧嘩して耳が欠けたり、よそで子猫をつくっているらしいと噂されるなど、昭和の田舎の猫であった。

風貌さながらに大型肉食獣の名前を付けられたその猫と一緒に過ごしたのはほんの数年で、母方の実家だった家から転居した後は兄弟のアレルギーが酷くなり猫を飼うことは出来なかった。

でも、猫の耳から後頭部にかけてのフォルムや背中のシルエットがたまらなく好きで、いつかは猫を飼うぞとずっと心に決めていた。

ペットショップからは買わない

一人暮らしを始めた時からずっと猫が飼える物件に住んでいた。二度転居したが、どれも猫が飼えるマンションにしていた。そのぐらい、いつでも猫を飼うことを意識していたが、自分が仕事をしている間たった1匹で長い時間を過ごすことを想像すると不憫で飼えなかった。

三度目の転居ももちろん猫が飼える物件だったが、このまま猫に憧れるだけで一生飼えないかもしれないと思い始めていた。

ただし、今度の転居では希望の光があった。一人暮らしをやめ、結婚予定人と一緒に越してきたのだ。この結婚予定人というのも犬派ではあったが、猫を飼うことに反対するような人物ではなかった。2人対1匹なら、猫がポツンと寂しい思いをすることも少ないのではないか?こじつけのような理屈だが、当時の自分にとっては大いなる進展であるように感じられた。

越してきてすぐに近所のホームセンターへ行った。ホームセンターにはペットショップが併設されていて、ペットショップは大嫌いだが猫のフォルムを見たくてつい立ち寄ってしまった。

なぜペットショップが嫌いなのか?ーーーそれは売り買いするために人為的に動物を作るからである。

そして売れ残った動物は息を引き取るまでペットショップで育ててもらえる訳ではない。どこに行くのかは知らないが、保健所で殺処分されたりブリーダーの元で死ぬまで繁殖を続けさせられたりするという噂は聞く。そもそも狭すぎるショーケースに長期間留め置かれているというだけで異常性を感じる。だから、ペットショップから買うことでその循環に加担したくなかった。それでも買ってしまった。美談になるような理由はないし、二度とペットショップから買うことはない。

メインクーン、5ヶ月、雄

ペットショップで売れ残った動物の末路の噂については先述の通りだが、噂によればそのタイムリミットは生後半年であると言う。もちろん生後数年経っても残り続ける動物はいるが、生後半年以下の動物が確かに多い。そこで出逢ったのが、わが家の長男坊である。大型猫種と言われるメインクーンの雄、すでに生後5ヶ月であった。

メインクーンとはアメリカに起源を発する長毛種の猫で、成猫で体長1mにもなると言われる大型猫種である。そのボアボアの容姿から猫とアライグマ(raccoon:ラクーン)の混血と疑われたことがメインクーン【メイン州のラクーン】の名前の由来に繋がっている。

メインクーンの中では小さなわが長男坊だが、ペットショップの中では非常に大きな猫だった。生後5ヶ月にも関わらず、他の猫種の横にいるとすっかり成猫のサイズに見えた。贔屓目なしに愛くるしい顔と美しい体だったが、「赤ちゃん猫から育てたい」と思う多くの人々の目には留まってこなかったのか、いつ行ってもケージの中で退屈そうな顔をしていた。撫でてもほとんど無反応で、具合が悪いのかと思った程だった。行動の制限と娯楽の消失。猫でも鬱になるのだ。

その鬱々とした様とタイムリミットと噂された生後半年に近づいていることから、結婚予定人と「あいつ大丈夫なのか?」と心配するようになった。この時点で、少なくとも私には、この鬱猫に愛着が湧き始めていた。それでもペットショップの循環に加担するのは嫌だった。そう思いながらも何度も足を運び、「今日もまだどこにも連れて行かれていない」と安堵していた。

決定打になったのは、結婚予定人と一緒に鬱猫の様子を伺いに行った時に抱っこしてしまったことである。思えば子猫を抱っこしたのは、それが初めてだった。あっという間に骨抜きにされてしまった。抱っこしたまま、降ろせなくなってしまった。何とも言えない温かさとフアフアと脆さにすっかり虜になってしまったのだ。猫の方はというと、目を潤ませて「連れて帰って・・・」と精神感応してくる・・・といったことは全くなく、されるがまま・興味なしの状態であった。一部始終を見ていた結婚予定人(現・夫)によれば、隣で順番待ちをしていた少女を完全に無視したまま、目を輝かせて猫を離さなかったらしい。少女の存在は、後で言われるまで微塵も感知していなかったのだから、呆れた大人である。そして、当の本人である猫と少女と結婚予定人の冷静な瞳に見つめられながら、ひとりで浮かれた挙句、猫を抱きかかえたまま購入したのであった。

ペットショップの闇がどうとか息巻いていたのに、結局は衝動買いしたのである。猫は3万円だった。値段からしても本当に瀬戸際だったのだろう、ペットショップの店員は「本当に良かった」と喜んでいた。自分にとって今や代えの効かない存在のこの猫だが、ペットショップの取り組みを支援する羽目になってしまった自分の甘さは一生後悔し続けると思う。

余談だが、猫は3万円だったが総額では18万円かかった。ワクチン代など妥当な項目もあったが、正体不明のサプリメントや使い途のない各種グッズがセットになっていたためだ。初めて猫を飼う人にとっては要不要の区別がつきにくいと思うが、まずは当面の猫用ごはん(必ず総合栄養食を買う、できれば添加物の少ないものが良い)とトイレ・猫砂があれば他は要らない。おもちゃもあれば良いが、段ボールに覗き穴を開けたり棒にビニール紐をつけただけのものでも十分に楽しんでくれる。

鬱じゃなかった猫

そのまま一緒に猫と帰宅した。鬱状態のところしか見ていないし、きっと元の性格も大人しいのだろうと思っていた。ところが、自宅に着くや否や目をキラキラさせてあちこちを探検し始めた。一通り見て回ると、リビングのテーブルの上でゴロンと横になった。全然、鬱じゃないやん。もちろん大歓迎。


以上がペットショップ出身者である長男坊との馴れ初めである。野良猫と暮らしたい人にとっては関心が無かったかもしれないが、次回もこの長男坊を育てる話を書こうと思っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?