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野良猫を育てる・2

前回、ペットショップ出身者である長男坊との馴れ初めを書いた。今回はその長男坊が0歳児だった頃、あまりの腕白ぶりに育児ノイローゼならぬ育猫ノイローゼになりかけた話を書くので、またしても野良猫は出てこない。

猫を育てるとは?

長男坊を家に連れ帰り、ふと気がついた。幼少期に数年傍で暮らしただけで、猫の世話をしたことが無い。小学生の頃は飼育委員だったし大人になってからは看護師をしていたので何とかなるとも思えたが、子猫を見ていると、こんなに小さくてかよわい生き物をきちんと大きくしてやれるだろうかと心配になった。本を読み、ネット記事を読み、なんとかそれらしき世話をしていたが、猫が眠ると寝息を確認するまで不安になったりもした。コードを齧って感電しないか、下痢が続いて脱水にならないか、毛玉が詰まってしまわないか、高いところから落ちて骨折しないか・・・ありとあらゆる心配をした。一緒に寝ていて布団の中で窒息しないかとまで真剣に心配していた。

そんなことは意にも介さず、子猫はすくすくと成長していった。そして、猫飼育未経験の私にとっては想像も及ばないくらい、子猫のエネルギーは凄まじかった。

子猫のエネルギー

長男坊が生後5ヶ月でわが家にやって来てから1歳を迎える頃までは、私はデイタイムに仕事に行き、結婚予定人は日が沈む頃からが仕事だった。つまり、夜は子猫と私の2人きりだったのだ。猫の語源は寝る子から来ていると言われるくらいよく眠る動物であるが、薄明薄暮、明け方と夕方は別である。野生の猫はこの時間帯に狩りをしていたとあって活動性が増すのだそうだ。

わが家では眠る直前に部屋の明かりを消すが、それが「日が暮れた合図」だと勘違いした長男坊は、獲物を求めて毎晩走り回った。そして毎度私の腕が標的となり、周囲の人から心配されるほど(直截的に「リストカットですか?」と聞かれることすらあった)夥しい数の生傷をこさえることになった。腕に噛み付くだけでなく体の上を走り縦断して行くのだから、その度に飛び起きた。そしてやっと眠ったと思ったら、次は明け方に第2ラウンドである。

子猫と暮らして驚いたのは夜の大運動会だけではない。桁外れの跳躍力にも衝撃を受けた。犬を飼っていれば触られたくない物は高いところへ置けば、ある程度対策が出来ると思う。しかし猫は家の中くらいなら登れないところはない。冷蔵庫の上などは助走なしでも跳び乗れるし、カーテンをよじ登ってレールの上を歩いていることもある。お陰で家の中はかなり片付いたが、物の置き場所に神経質になり、結婚予定人にもアレコレとクレームをつけるようになった。

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育猫ノイローゼ

元々持っていた心配性の気質と、思っていた猫ライフとの乖離に、さらに睡眠不足が加わり、いつの間にか立派な育猫ノイローゼに片足を突っ込んでいた。さらに悪いことに、長男坊は私よりも結婚予定人に懐いたのであった。始終カリカリしていたので当然であるが、「一番大変な夜間の面倒を見ているのは私なのに・・・」と遣る瀬無さを感じた。

一番辛かったのは、猫が大好きだったはずなのに、だんだん自分を苦しめる存在のように思えて来たことだった。

巷で聞く育児ノイローゼに大いに共感した。言葉も通じず、こちらの都合通りにはいかない、ひとりぼっちで奮闘している世のお母さん方に同情した。イライラしている自分の器の小ささに涙が出た。

この育猫ノイローゼは長男坊が1歳になる頃まで続いた。なぜ終わったのか?私が腕白さに慣れてきたこともあるが、猫が大人になったことの方が大きかったように思う。この件に関して、自分は無力だったと振り返ることが多い。

今では5歳半になる長男坊だが、当時、常に監視し何かあれば怒っていた私を嫌うでもなく、水に流して連れ添ってくれている心の広さに本当に感謝している。どちらが育てられているのか分からない。ありがとう。


次回からはやっと野良猫が登場します。

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