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野良猫を育てる・5

お嬢は野良時代に公園で背中を切られた、痛ましい虐待ならぬ殺猫未遂の被害者だ。わが家にやって来た時には背中の傷はすっかり治癒していたが、心についた傷はなかなか消えなかった。

次男坊との違い

お嬢がやって来る前、わが家では初の野良出身者である次男坊を引き取った。次男坊は人懐こく剽軽な奴で、お客さんには人見知りをするが家族にはベタベタの甘えん坊である。あまり外で怖い思いをしなかったのだろうか、人間も他の猫も大好きだ。

あまり手のかからない次男坊に慣れていたこともあり、お嬢を引き取った後に困ったことは『粗相』である。トイレ以外の場所で、オシッコをする。しかし、ポリシーがあるらしく、今まで絶対に大きい方をトイレ以外でしたことはない。粗相をするのは必ず小の方なのである。

粗相の原因

最初に犠牲になったのは布団だった。何度も繰り返すため焦って原因を調べたが、一番心配していた「膀胱尿路系の病気」はまず除外された。

次に「トイレが汚い・形状が気に食わないアピール」を疑い、新しいトイレを設置したり、こまめにトイレ掃除をするなどの対策を施したが、効果は限定的だった。そうこうしているうちにお嬢はどんどんエスカレートし、ついには食器の中、私の脇腹などへ小水を引っ掛けるようになった。

雄猫では発情期にスプレー行動をするが、もしや雌猫でも同じようなことがあるのでは・・・と、適齢期にもなっていたし避妊手術を受けてもらった。その結果、食器や私の脇腹などのマイナーな場所への粗相は無くなったが、布団・布製のソファ・衣類などファブリック系への放水は健在であった。

どうしたものかと頭を抱えたが、お嬢が粗相をする直前の行動をよく観察すると、ある法則があることが分かった。それは、【嫌なことがあった後】である。もちろん、前に粗相をした場所にまだ臭いがついていて単純に反射的にしている場合もあったが、そうでない場合は大体がストレスと粗相がセットになっていた。

お嬢はとても気の強い猫で、それは臆病の裏返しなのだが、他の猫に高慢な態度を取って長男坊などに叱られることが多々ある。その後に、部屋の隅に行ってチョロリという訳である。まだ登場していないが、4番目にわが家にやって来た雌猫に対抗心を燃やすあまり、雌猫がいた場所にチョロリ・・・というパターンもある。

癒されない心

そうは言っても、普段は長男坊にも甘やかされているし、後から来た雌猫とも特別に不仲というほどでも無い。どちらかと言えば、後から来た方がお嬢からきつく当たられてストレスフルだろうと思うくらいだが、そちらはノンビリした猫なのであまり気にしていないようだ。

猫によって「嫌だった」「怖かった」と思うことには程度の差があるが、お嬢はその閾値が低いのだと思う。根底に死んでしまう程の恐怖体験があったからだろうか。分からないが、お嬢を育ててきて、何となくそんな気がしている。だから、1日の中の何処かで、お嬢と私だけの時間を取り要求されるままに撫で回すことを日課にしている。その甲斐あって、わが家での暮らしは悪くないと思っている素振りは見せるが、粗相は未だに続いている。

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写真は避妊手術後の術後服を着たお嬢と、慰める次男坊。次男坊はお嬢を溺愛していて、それもあってお嬢がわが家に馴染んだのだと思う。

粗相との付き合い方

結局、限定的にしか改善しなかったお嬢の粗相だが、お嬢タイムを作る以外にわが家で実践していることは『粗相されても被害の少ない環境づくり』である。例えば、朝起きたらすぐに布団を仕舞う・羽毛布団などの粗相を誘発する素材のものは使用しない・粗相された場所はなるべくすぐに消臭する、ファブリック類は洗って臭いを落とす・・・などなど。

最初のうちは粗相をされて落ち込むことも多かったが、最近では「物は代替可能だがお嬢は1匹しかいないのだから」と開き直っている。臆病なお嬢が心を開いてくれただけで、まずはヨシ。

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