野良猫を育てる・4
前回、わが家では初だった野良出身の次男坊の話を書いたが、改めて読むと「野良感」が無い。実際のところ、野良出身特有のワイルドさや人間への恐怖心はあまり感じず、次男坊に関しては野良猫を育てたという感覚は薄かったように思う。
そんな風だったので、次男坊の次にやって来た女子猫を育てた時にやっと「野良猫を育てる」ことを知ったのかもしれない。
野良で生きるとは
次男坊を引き取ってから、以前にも増して野良猫・保護猫についての関心が湧くようになった。
猫は生後半年頃から妊娠ができるまで成熟し、1回の出産につき複数匹の子猫を産む。また、人間と違って交配の後に排卵が起こるため、ほとんどの場合で妊娠が成立すると言われている。在胎期間も短いため、1年に何度も出産することが出来る。野良が野良を産み、食べるものも豊富ではなく、感染症や交通事故による死亡のため飼い猫よりも寿命ははるかに短い。
ーーーそういった猫たちを少しでも減らす活動が『保護猫活動』である。産まれてきた猫たちを保護して里親に譲渡する以外にも、どうしても人間と相容れないなどで人家で暮らすのが難しい猫には【TNR(Trap(捕獲して)・Neuter(避妊手術をし)・Return(元の場所へ戻す)】という処置を施す場合もある。片耳に谷型の切れ込みがある野良猫、通称・サクラ猫は避妊手術が済んでいるという目印である。何も耳を切らなくてもと言う人もいるが、特に雌猫はお腹を開けるまで避妊手術をしているか分からないので、何度も開腹させられることを思えば当然耳の方が良い。全身麻酔下で切れ込みを作るので、痛みも無いらしい。
今の世の中、特に都会ではこうする他に無いとは思うが、自分が初めて一緒に過ごした件の大柄トラ猫は地域に溶け込んで野良で暮らすことに何の問題も無かったので、猫だけでなく動物と人間の共生の道はどんどん細くなっていくばかりかと寂しい思いになる。
そういったことを調べるうちに、「わが家にはまだ余力があるから、もう1匹くらいなら保護猫を受け入れたい」と思うようになった。そして初めて譲渡会に参加したのであった。
虐待された猫
譲渡会には思ったよりもたくさんの猫が参加していた。可愛い!とももちろん思ったが、同時に「可愛いだけじゃ済まされないぞ」とも思った。小さなケージに入り、1日中トイレも昼寝も儘ならずに知らない人間に見つめ撫で回される。そんな苦労をしても良縁があるとは限らないのだ。行き先が決まっても、そこで虐待に遭うケースもいくつもあるらしかった。あまりにシビアな世界だ。
ぐるりと回って、雰囲気が次男坊と似ている子を見つけ、この子が良いかなと思っていた猫がいた。トラ柄で愛嬌たっぷりの可愛い子だった。そしてちょうど1周回り終える頃に、すっぽりとカバーで覆われたケージを見つけた。眠っているからカバーを掛けているのかと思ったが、保護主さんに夫が声をかけると、臆病なので安心させるためにしているのだと言うことだった。怖がらせないように隙間から少し顔を見せてもらうと、ケージの隅で小さい体をさらに小さくして怯えている子猫がいた。
全体的に黒い被毛だが根元が白くなっている、スモークという毛色らしい。なぜか髭が立派で真っ白で、何となく小人の老人を思わせる風貌であった。目が困ったように垂れ、ぷるぷると震えていた。
聞けば、公園で野良暮らしをしていたところを虐待に遭い、背中をザックリと刃物で切られたのだと言う。もはや虐待じゃなくて殺猫未遂やないか!
夫は、この猫にしたいと言った。愛嬌があって可愛らしい子は、自分たちが引き取らなくても幸せになれるとも言った。自分たちに育て切れるか不安に思ったが、夫が熱心に言ううちに後押しされ、里親を申し込むことに決めた。
里親の審査
その猫を保護した団体は、里親選びに関してストイックな方だと思う。今まで何度も引き渡した後に虐待されたり養育放棄された経験から、簡単に猫を渡すことはしていないのだと言う。年間数百匹の猫を保護し、育て、引き渡しているだけでも大変なのに、人間を見ることも手を抜かない。猫への深い愛情が無ければ到底出来ないことだ。
我々2人は裕福とは言えないし共働きで家を空ける時間もあるが、猫に悪さをする人間では無いと信用していただいたのだろう、無事に里親になることが出来た。
トライアルが終わる日に様子を見に来た保護主さんが言った言葉で印象的だったものがある。
「猫が私を見てすぐに走り寄ってくるようであれば、この家で大事にされていないと判断して連れて帰るんです。私を忘れているくらい、この家に馴染んでいる方が良いです」
という言葉だ。猫は人の言葉を喋らないが、目や態度で素直に表現する。保護猫の幸せを確実に確保することは、ここまで注意を払わないと実現しない気の遠くなるような世界だと、それまで知らなかったことを知った。
その後は兄猫2匹(特に次男坊)からの甘やかしを受け、すくすくとお嬢様に成長していった。その過程で起きた、尿マーキングや私・夫との関係については次回のテーマとしたい。
最初はごんぶと白髭だったのが、だんだん細い黒髭に変わりました。髭の色って変わるもんなんですね。
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