掌編小説-命のことわり-
ストンと落ちたような感覚、真っ逆さまだ。
そしてその後、急にふわっと浮いたんだ。
きっとこれは夢だ。今、夢を見ているんだ。
そうだ、さっきまでずっと眠っていて、とても眠かったんだ。
目覚めた僕がいたのは、とある工場の内部だった。
一体、僕はどうしてこんなところにいるのか。いきなりこんなところに連れてこられて、まだ夢を見ているんだろうな。でもそれは妙にリアルで、いつか見たことがあるような気がするんだけど、ここってどこだっけな。
その工場には人がたくさんいて、その一人ひとりが、まるで職人みたいに見事な手捌きで作業をしていた。
まず初めに僕が見たのは上から落ちてきたものを見事にキャッチする職人だった。工場とはいっても、それは結構に不規則に落ちてて、でもさ、ブレないんだな。職人はどこに落ちるかって、見ただけでわかるんだ。底に落ちる前に見事にキャッチして見せるんだ。ありがたいよな。上から降ってくるものを一つもこぼさずにね。それってプロにしかきっとできないや。
次にあったのはベルトコンベアで、そこから流れてくるものはどれもピシッと揃っていた。きっと人が毎日使うような製品を大量生産しているんだ。
「それ何を作ってるんですか?」
僕が聞くと、職人のおじさんは答えた。おじさんは唇が分厚くたるんでいて、深海魚みたいだった。鼻はぼてっと大きくて、目はペンでちょこんと突いたくらい、こじんまりとしていた。
「これかい?これはな、ほら、見てみな。お前だって知ってるものさ。」
それは薄いガラス玉で、中にたくさんの気泡のようなものが見えた。でもよーく見てみると、その気泡に見えていたもの一つひとつが色とりどりの小さな玉になっていた。
「僕はこんなの知らないよ。」
「お前は、だって持ってるじゃないか。まあこれはすごく失くしやすいんだがな。
誰だって一度は失くしてるさ。でも、大丈夫だちゃんと全部見つかるから、安心しな」
僕にだってある、ああそうだ。僕は今、全部持っている。そんなのわかっちゃいるよ。でも失くしちゃうのは怖いなぁ。大切なのになぁ。僕はそれを全部失くして一体どうやったら生きられるんだって。でもそれ見つけたら全て終わっちゃうんだな。やっぱり手放さなきゃいけないんだ。ま、それが人生ってもんか。いやぁ、それにしても、今思えば僕の奥さんってほんといい人なんだよな。
僕はまた進んだ。でも今気づいたんだけど、進むたびに頭がクラッと揺れるんだ。なにか病気か、ああ、それとも夢の世界なのか。一体これが夢か現かなんてわかんないさ。だって現実だって誰が現実だと認める?あるいは誰の現実が本当の現実なんだ?世界?違うじゃないか。僕らって同じ世界に生きちゃあいない。全部つもりごっこさ。ああ、喋りすぎかな。でもなんだか、もう頭が回らないな。さっき言ったこと、何も覚えてないしさ。いやぁ、お酒飲みすぎちゃったんだなこりゃ。二日酔いの世界だ、きっとな。
それからなんだろう、こう、何か白いものが現れた。こりゃなんだ。太陽の光。でもさ、ここって、窓なんかありゃしない。とにかく白いものが僕をわっと覆った。
それでさ______。
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