ファミリー #10

 そして、ロボットが僕をめがけて加速してきた瞬間に僕は飛び上がった。黒いロボットはすごい勢いで、壁に突撃し、ガラスの壁が崩れた。
 そんな場所にガラスの窓があったっけ。僕は不思議に思いながら、レインの手を引っ張って駐車場に逃げた。この騒ぎをみた、湯船にゆっくり浸かっている人たちは何もしなかった。あとから続こうとして逃げ出す人たちは、黒いロボットに足を掴まれタイルの床に思い切り腹をぶつけて引きづられて行った。
 僕らは裸で逃げた。処理場の駐車場を走ると、お湯が滴り、足跡ができた。固い床を裸で走っていると、笑いがこみ上げてきた。駐車場の向こうに森が見えた。そして、その森の柔らかい地面を踏んで、僕たちはもっと逃げた。
 黒いロボットは木の上には上れない。それが僕らが思いついた方法だった。森の木によじ登って、しばらく息を整えていた。そして、寒くなったので、二人で抱き合って温かさを確かめ合った。
 恐る恐る木から下りて、僕らは草を集めて服を作った。葉っぱを長い草にくくりつけて、長い草を腰に巻いて、それを何本も作って服にした。草はつやつやとした冷たい感触だったが、それを着て抱き合うともっと温かかった。
 夜になり、太陽の光がだんだんと地平線の下にしまわれていった。星がキラキラと光った。僕らは足と下半身がビリビリとしびれて感覚がなくなっていく痛みに襲われた。
「いたい」
「いたい」
「いたいよう」
「いたいいたい」
 こんなにも痛いのに、体から逃げられない。そして二人で泣きながらまた抱き合った。家では、もう対話の時間だろう。みんな僕たちが帰ってこないことを、心配しているだろうか。
 いや、今日は僕らは帰って来れない日なのだった。と思いだして、さみしくなった。小さな頃に、自転車で隣の地区に行って、帰り道がわからなくなった時みたいだった。
 僕らは足を引きずりながら森の果てを目指した。
「星を見ると、わかるでしょう。わたしが声を聞いてしまう、理由が。」
 レインは、歩きながら言った。
「うん、」
 僕は何か言おうとしたけれども、痛みで言葉がかき消された。

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