ファミリー #15

「私、ここにいてもいいのかな」
 レインは言った。
「対話をしてて思うんだ。私の言葉はみんなにどう届いているのかな。私がいる事で、みんなにいいことはあるのかなって」
 そんなことないよ。頭の中で僕はすぐに反論した。けれども、レインの迷っていることが僕にとっては大事な意味を持っている気がした。
 だから、じっと黙って暗い中に目を開けてみた。天井いっぱいにちりばめられた星たちは、ゆっくりと瞬いている。まだ言葉にならなくても何かを言える。
「僕は、対話をしてて自分がいてもいいかなんて考えたことなかったなぁ。僕がしゃべれるようになる前から、みんなの声を聞いていたし。まだ子供で、上手くしゃべれないときも、みんなは僕の言葉をゆっくり聞いてくれた。そして、僕にもわかる言葉で、丁寧に話してくれた。」
 僕は話しながら星を見ていた。レインに向けて話しているような、星に向けて話しているような。声がどこに飛んでいくのか、わからなかった。
 自分の中に響いている気がする。どこまでも届いている気がする。
「そうだね。」
 レインの声が隣から聞こえた。
「この国では、そういうことになっているの。ほかの家族も、毎日対話をして一日を終える。私の家族はそれができなかったから、バラバラになったの。それで、私は十二歳の時に、このおうちに来たの。
 だから、私が話せるようになったのは、それからだよ。」
「そうなんだ。知らなかったよ。だって、僕の中には、たくさんレインの言葉がとても残っているんだよ。レインの声も、レインがなにを不思議に思っているのかも、僕には少しわかる気がするんだ。」
 レイン、レイン、レイン。たくさん名前を呼ぶと、それが消えてほしくないと思う。触れて確かめたかった。目で見て確かめたかった。
 目の横を涙が流れていった。けれどもそれができないから、僕は泣くしかなかった。泣きながら、話せるようになるまで呼吸を深く落ち着けていた。
「どうして人は対話をするんだと思う? どうしてこの国にはそんなルールがあるの? わたしたちの命は二十歳で奪って、どうして言葉だけが残るの?」
 問いかけるたびに抑えきれない震えがかすかにレインの喉の奥で鳴っていた。それは、部屋の空気の中にすぐ消えていった。その震えが僕の喉も震わせてしまいそうだった。

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