ファミリー #2

「うーん、だって。おいしいものとか、たのしいこととか、まだまだ体験したいし。二十年は短すぎると思う。だから、テルハが言ったのとは反対に、わたしはいつ死ぬかを考えながら生きている。この時間だって、わたしの生きている時間を使って話している。」
 レインも最後の方は声が震えていた。僕はこの会話が、どこかそう簡単に考えることができない柔らかい方向に進んでいることを感じた。
 黙って考えているモクは、なぜか頬を赤くして涙を流していた。モクはいつも着ている緑色のパーカーの袖で涙を拭って、鼻をすすっている。
 しばらくの沈黙が流れた。その間、レインがボールをなでる細い指を僕は見ていた。言ってしまった言葉は僕の中から抜け出して、僕はもう何も言うことがない気がした。
 リビングの時計は午後九時五十分を指していた。「ああ、こうやって僕らは命を使って今日も生きたんだ」と思った。いつもは、そろそろ眠る時間だと思って重いまぶたを感じるはずなのに。
 時計を見て、サマーがきっちりと手を上げた。レインが片手でボールを投げる。サマーはボールを受け取ると、強い意志で言葉を発した。
「俺たちは存在してしまったんだ。たとえ短い命でも。そのことには代わりがないと思う。なんて言うのかな。それが怖くて死ぬのも怖いし、だからこそ生きているのが楽しい。そうじゃないかな?」
 それからサマーはまた時計の方を見上げて、「そろそろ対話の時間は終わりだ。おやすみ」と言った。
 僕は、自分が座っていた椅子の正面の床を見て、昨日の対話でもこんな話をしたっけ、してなかったっけと曖昧に思い出した。けれども、うまくいかなかった。
 みんなが立ち上がって、のびをしたり雑談したりしているのを見て、僕はゆっくり立ち上がった。
 昨日、モクが座っていた黒い小さな切り株のような椅子を振り返って見た。背もたれがないこの椅子は自然に、前屈みになって考える姿勢になっている。
 今日のモクは、木がネットのように格子状になった背もたれの椅子にもたれて、最初の発言をしたあとは、じっとみんなの話を聞いて、ただただ泣いていた。

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