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【夢日記】花筏

私は若い研究者の1人で、宇宙ロケット開発に携わっている。メンバーはあと2人。いずれも若い3人で任されている。
明日はロケットの脱出ポッドの試験運用。3人で乗ることになっている。
前日、海に突き出た砂州の先にある実験場まで車で送ってもらう。砂州の付け根は小高くなっており、空と海と、そこから伸びる砂州が見渡せる。よく晴れて風の涼しい日である。
3人で狭いポッドに乗り込む。狭いが計器類が並び設備は揃っているようだ。
発射ののちポッドが離脱。じゅうぶんに引き離してから着陸の態勢をとるのだが、離脱後1周半ほど回ってからエンジン音が止まる。計器の針も0になり完全に制御不能となった様子で、ポッドはそのまま墜落する。

これは何度も繰り返される事実である。そして今、眼下に伸びる砂州を眺めながら、またこの繰り返しなのだと理解している。
搭乗する前の夜、実験場でシャワーを浴びている。墜落のことを思う。もしかしたら今回はうまくいくかもしれない。……いや、今は墜落する前なのだ。失敗のデータが反映されていないのだから、うまくいくはずがない……。せめて墜落時のデータがあれば今回は多少変わるかもしれないが。一縷の望みをかけて、2人の仲間に相談する。しかし数値でのデータは誰も記憶していない。覚えているのはポッドが1周半回ってから落ちる、それだけである。
あがけばあがくほど、それまで何度も諦めていた死への恐怖が募ってゆく。わたしは意を決して上司に相談した。上司は残り2人の話も聞くと言うと部屋を出ていった。
仲間はどう考えているのだろう。不安に思いつつ待っていると、上司が「理由はわからないが、どうしても乗りたくないという者を無理矢理乗せるわけにはいかんな」と戻ってきた。残りの2人も乗りたくないという意思を示したそうだ。
死を免れたわたしたちは、また最初の砂州の付け根まで送ってもらう。風に吹かれながら見下ろすと、海岸に並んだ木にピンク色の花が満開である。散った花びらが海に落ち、海を同じ色に染めている。隣には黄色い花びらも浮かんでいる。「あれは桃だな」などと話しながら、かつて死んでしまったときに空から見えた最後の光景を思い出す。
傾いたポッドの窓から見えたのは、ピンク色の木々と花筏。この綺麗さを誰かに話したかったけれど、もう話せないからもったいないな……と考えていた。
これだ。この光景を、生きて見ることができて、本当によかった。涙がとめどなく溢れてきた。嬉しいのか、それともかつて死んでしまった自分や仲間たちを思って悲しかったのか。分からないまま、声を上げて泣いた。

(2018.8.23)

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