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これまで文庫解説を書いた9冊の本を紹介します

本業は書店員だが、時々ありがたいことに文章を書くお仕事をいただいている。
そのなかでも特に大きな仕事が「文庫解説」
今回の新刊、中川右介『手塚治虫とトキワ荘』(集英社文庫)で9冊目となった。
ここで、これまでを振り返る意味で、今まで私が解説を書いた本を紹介したい。書店や古本屋で見つけたら見てみてくださいね。
本当なら解説10冊目で振り返るものだろうけれども、いつ来るかわからないので……。
(なおリンクは品切本を含め、全て「HonyaClub」です)

1. 我孫子武丸『さよならのためだけに』徳間文庫 2012年5月 ※現在品切

 国策による結婚仲介システムで「特A判定」だった二人の男女。だが結婚してすぐに、この結婚が間違いだったと悟る。しかし「特A判定」のカップルが離婚することはできないのだ。かくして「正式に離婚する」ための共闘が始まる……。近未来のユニークな設定で描かれるサスペンス・ミステリ。設定だけでなく、様々な仕掛けや真相などに著者のカラーが見えてくる快作。なのだが、残念ながら品切れ。解説では「この本売り出したいんです!」という勢いを込めたつもりだったのだが。どこかで復刊しませんかねえ。

2. 倉阪鬼一郎『下町の迷宮、昭和の幻』実業之日本社文庫 2012年6月 ※現在品切

 昭和ノスタルジックホラー短編集。著者の本領発揮の部分だが、この頃には既に時代小説を発表し始めており、解説ではそこにも触れている。さらに大好きだったので、講談社ノベルスのバカミスシリーズにも触れてみた。その後、時代小説の点数がどんどん増えていて現在はすっかり時代小説作家みたいになっているが、ホラーやミステリもまだ描き続けて欲しいすね。
 ちなみに講談社ノベルスのバカミスシリーズをもし文庫化するならぜひ解説書かせて欲しいくらい大好きなんですが、あれ、文庫化は絶対不可能なんですよね……。

3. 鯨統一郎『堀アンナの事件簿2』PHP文芸文庫 2013年2月 ※現在品切

 同じPHP文芸文庫の『ABCDEFG殺人事件』の続編。『ABCDEFG殺人事件』は元本が理論社の「ミステリーYA!」シリーズで、その文庫化だったが、『堀アンナの事件簿2』は文庫オリジナルだった。前作の解説は宇田川アニキで、解説コラボだ、と喜んだものである。
鯨統一郎さんの作品は、デビュー当初大好きだったが、やがてミステリ的な詰めの甘さが気になって一度大嫌いになり、その後その作風を味わえるようになってから、一周回って大好きになった。質の高いミステリを求めると肩透かしを食らうけれど、楽しく読むには最高なのだ。批判じゃないっすよ。
そして実は、この本だけ今手元にありません。すみません……。

4. 東川篤哉『放課後はミステリーとともに』実業之日本社文庫 2013年10月

 『謎解きはディナーのあとで』で2011年の本屋大賞を受賞し、東川人気の絶頂期に出た短編集の文庫化。作品の雰囲気に合わせてユーモア交じりに書いたが、本格度は『謎ディナ』よりもこっちの方が上だという思いがあったので、そのへんを主張した。いまでも東川篤哉最高傑作はこれだと思っている。

5. 山之口洋『暴走ボーソー大学』徳間文庫 2014年8月 ※現在品切

 『オルガニスト』などでカルト的な人気のあった山之口さんの作品。ユーモア青春ミステリで、面白いのだがお薦めポイントが難しくて、解説を書くにあたって一番苦労した作品かも。
なお解説を書いた作家さんで、今までも全く面識もなけれなネット等での交流もないのは実は山之口洋さんだけである。

6. 小路幸也『フロム・ミー・トゥ・ユー 東京バンドワゴン』集英社文庫 2015年4月

 小路幸也さんの人気シリーズ「東京バンドワゴン」シリーズは、文庫解説を書店員が担当する慣例がある。いつかの時の飲み会(たぶん鮎川賞パーティーのあと)で、小路さんに「今度私にも解説書かせてくださいよう」と言って、「ああ、いいよー」と言われたことがあり、でもそれは完全なる口約束だと思っていたら、小路さんから本当にオファーが来た、というのが経緯。
 しかも、我ながらいいこと書いたな、と思った部分が、完全に過去の解説者である、さわや書店フェザン店(当時)の田口幹人さんと全く同じこと書いてて、でも今さらカットできないし、と迷った挙句、田口さんに許可を取った、といういきさつもあったりする。
 なお解説を書いた人は、後の作品で登場する、というのも慣例。私は「テレビによく出てる眉毛の濃い書家」として登場します。

7. 貫井徳郎『ドミノ倒し』創元推理文庫 2016年6月

 単行本が出た時に貫井さんから「これが文庫になる時には解説書いてくださいね」と言われ、これも口約束だと思い込んでいたら本当に依頼が来た、というパターン。実はこれもかなり苦労して書いた解説だったが、貫井さんから「とてもいい解説です」と褒めてくださったのでとても嬉しかった記憶がある。

8. 堂場瞬一『熱欲 刑事・鳴沢了』中公文庫 2020年3月

 2020年に出た「刑事・鳴沢了シリーズ」の新装版。10カ月連続刊行で、これも書店員が解説を書く、というルールで指名された。1巻『雪虫』が宇田川アニキ、2巻『破弾』が丸善の沢田さん、という流れにもプレッシャーを感じたが、実はこのシリーズ未読だった。未読なのに解説を依頼する営業のYさんの度胸にもびっくりしたが、依頼を受けたからにはちゃんとしたものを書こうと必死に読み込んだ。結果、鳴沢了のファンになった。

9. 中川右介『手塚治虫とトキワ荘』集英社文庫 2021年5月24日

 これが最新の解説担当本。実は初のノンフィクションだった。中川さんの本が大好きでたくさん読んできたという自負と、中川さんの作品はもっと知られるべき、という使命感のようなものがあって、かなり気合を入れて書いた。


私が書く文庫解説には自分で決めたルールがあって、
「この作家さんと仲良いんですよアピール」はしない、というもの。
よくある「私と××さんが初めて会ったのは~~」みたいなのは、その本の解説としては全く不要なので。
また、同じ作家の他の作品にも触れていって、「次に読む本」のガイドでもあろうと心掛けている。

あと、解説は基本的に本名で書いている。確か最初の『さよならのためだけに』の時に編集さんから「ペンネームにしますか?」と聞かれて迷ったのだが、なんとなく本名にしただけだ。途中でペンネームにするのも変なので、ずっと本名で書いている。

というわけで、文庫解説のご依頼をいただければ、一生懸命書きますので、お仕事お待ちしております。

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