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本屋大賞2022、私の一次投票

2022年4月6日(水)、本屋大賞が発表された。
逢坂冬馬さんの『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)である。おめでとうございます。
昨今の国際情勢に絡めた紹介もされており、今、全国の書店で恐ろしいほど売れている。
著者の逢坂さんの心境はいかがなのだろう、と思っていたが、本屋大賞発表式のスピーチでその思いを述べられた。本当に素晴らしいスピーチなのでぜひ触れてみて欲しい。今なら全文が読める。

本屋大賞の投票結果をまとめた本の雑誌増刊の「本屋大賞2022」(本の雑誌社)によると、『同志少女よ、敵を撃て』は、一次投票の時点で1位だったようだ。なので、今の情勢があったから本屋大賞になったということでは、決してない。もっとも、二次投票の締め切り直前にロシアがウクライナに侵攻を始めたので、二次投票では多少の動きにはなったかもしれない。

さて、ここでは、私の一次投票の内容を紹介したい。
二次投票はノミネート作品10作へのコメントだけになるので、一次投票の方が個性が出ているからだ。
以下、私が本屋大賞に投票したベスト3と、「発掘部門」の作品へのコメントである。


1位:葉真中顕『灼熱』新潮社

自分は今回は『灼熱』に必ず票を投じなければ、という強い意志を持ってここに投票する。
第二次世界大戦後のブラジルで、日系移民同志の殺し合いにまで発展したという「勝ち負け抗争」。日本は戦争に勝ったのか負けたのかで日本人が分断したのだ。嘘のようだが真実だ。
しかし現在の我々は、当時の彼らを嗤う資格などない。フェイクニュースに踊らされ、簡単に分断が起こる現代社会と、いったい何が違うというのか。現代の世界と日本に警鐘を打ち鳴らす傑作。日本人は必ず読むべし。


2位:逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』早川書房

2021年は、新人作家の収穫が多かった年になると思うが、その中でも群を抜いて素晴らしい作品が本書。読み始めてすぐに、読者は過酷な独ソ戦の戦場に連れていかれる。そこで狙撃兵になる少女たちの葛藤と冷徹さ、そしてシスターフッド。しかし忘れてはならない。そこは「地獄」と称されたほどの戦場なのだ。セラフィマの運命を見届けるべし。
(これは一次投票でのコメント。二次投票では、これに国際情勢のコメントを追加した)


3位:君嶋彼方『君の顔では泣けない』KADOKAWA

「心と身体が入れ替わった男女が、そのまま15年生きていく」この設定を思いついただけで、本書は傑作になったと思う。だがもちろんそれだけでなく、心理描写などのディテールが素晴らしいからこそ、人にお薦めしたい作品として特にプッシュしたい。
学生時代から、もっとも多感な時期に「別の性」を生きる二人の葛藤と覚悟。読めば必ず、誰かに薦めたくなる小説である。


発掘部門:連城三紀彦『運命の八分休符』創元推理文庫

どれもこれも傑作だらけで、何度も復刊するのになぜか大ヒットに至らず、また品切れになって別の版元から復刊、というケースの非常に多い連城三紀彦作品。2021年に出た河出文庫の『私という名の変奏曲』は、双葉文庫→新潮文庫→ハルキ文庫→文春文庫→河出文庫で5回目の文庫化! みんな、連城の真の凄さにそろそろ気づいてくれまいか……。
今回ぜひ紹介したいのは『敗北への凱旋』。これも講談社ノベルス→講談社文庫→ハルキ文庫→講談社ノベルス(綾辻・有栖川復刊セレクション)→創元推理文庫と渡り歩いた作品。第二次大戦を背景にしたトリックの素晴らしさと各シーンの美しさは、とにかく読んで体感していただきたい、としか言えない。
(追記:なんと今読み返したら、タイトルは『運命の八分休符』なのに、内容は『敗北への凱旋』で書いてたことに、いまさら気づいた。そりゃボツになるよね……)


ちなみに、この4つのうち、『本屋大賞2022』にコメントが採用されたのは、『灼熱』の1つだけであった。全部載るつもりで出していたので残念。

私は毎年言っているが、『本屋大賞2022』の隅から隅まで読むことが、真の本屋大賞である。ぜひ、全国書店員のお薦めの叫びを読んでみて欲しい。

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