【検証】究極の消臭パンツ×究極の屁
私ほど屁に悩まされている人間もいるまい。
そんな烏滸がましい思いが脳裏をかすめるくらいには屁をこいている。
一切の脚色なく申し上げるが、1日に軽く100発はどこかしらで放屁している。冒頭から突飛な桁の数字を出してしまったがこれでも控えめなくらいだ。オットから屁こき虫と蔑まれる私の屁は、回数、音、匂い共にそんじょそこらの小娘には負けない。
屁の原因の1つに持病により胃腸の機能がバグっている事が挙げられるのだが、あまりにも多い放屁は社会に身を置く人間にとって非常に大きな悩みの種である。親しい間柄であればまだ笑い話になるものの、“そこそこにちゃんとしてる奴”に擬態して働いている職場で「プゥ」なんてやってしまった日には、その日のうちに辞表を書いて姿をくらませる自信がある。
そもそも何故オナラはタブーとされているのだろうか。オナラの気の抜けたサウンドはこんなにも人々を笑顔にさせる力があるのにどうして忌み嫌われてしまうのか。
それはオナラ=臭いという価値観が私たちの中に染み付いてしまっているからだろう。
臭くないオナラの実現が可能なら、オナラはむしろ新しいサウンドとして人々に親しまれるのではないだろうか。口笛や指パッチン、ビートボックスなどは技術が問われるが、オナラは誰にだってできる。もしオナラが“体から出る楽しい音”としての地位を確立したら、オナラは人類の新しいエンターテイメントたり得るのだ。
この思いを抱えながらインターネットの大海原を泳いでいると、とあるひとつなぎの大秘宝に辿り着いた。
その名も、イギリス発スタイリッシュおなら消臭パンツ『シュレディーズ』だ。
商品ページに貼られた画像を見た瞬間、思わずゴクリと生唾を飲んだ。そこには下着姿のまま笑顔で尻を突き出す女性と、その女性の尻に鼻先を押し付け恍惚とした笑みを浮かべる男性の写真があったのだ。なんという画のパワーだろうか。私は一瞬でこの商品に心を奪われてしまった。
商品ページには、シュレディーズがいかに優れた消臭パンツであるかが詳細に記されていた。
最高だ。理屈はひとつも分からんが、このスケールのデカい話の数々には胸を打つものがある。まさに私の求めていた商品だ。
2日後。例の消臭パンツが私の手元に届いた。はやる気持ちを抑え、包装をあける。
ペラペラの安っぽい素材だったらどうしようとドキドキしたが、手触りは赤ちゃんのトレーニングパンツのように分厚く、がっしりとした印象で安心した。5,500円するだけはある。
これが遥々イギリスから…と眺めていると、パンツのタグに赤字でデカデカと「KEEP AWAY FROM FIRE」と書いてあった。英語はさっぱり分からんが、小さなタグから漂うこのただならぬ圧。意訳で『こいつのFIRE(威力)を舐めるなよ…』とでも書かれているのだろうか、カッケェ〜!と感心しながら翻訳アプリで和訳したら普通に火気厳禁だった。馬鹿すぎる。
パンツが手に入ったところで計画を立てる。
最強の消臭パンツであることを検証するためには最強の屁が必要だ。ならば私がこの身を捧げ、激臭の屁の母となるしかあるまい。
ここでキーとなるのは下記の2点だ。
①平均的な屁の匂いの200倍の臭さを目指す
②放出した屁を100%集約して嗅ぐ
これらの達成を目指さなければならない。①に関しては楽勝すぎてお茶の子さいさい屁のカッパである。屁こき歴29年のキャリアの中で激臭の屁を産み出す食べ物は心得ている。
問題は②だ。例の図のように私の尻に顔を押し当ててくれる人がいればいいものの、下品を嫌うオットにそんな事はお願いできない。自分の顔を自分の尻に押し当てるウロボロススタイルで嗅ぐしかないのだが、前屈もまともに出来ない私はそれすらも難しい。
なんか…こう……尻にフィットするシリコン素材のカップにチューブがついたみたいなアイテムがあればなぁ…
なぁ……
なぁ…………
あった。
私の求めていたものと完全に一致するものを偶然家で発見した。シリコン素材のカップにゴムのチューブが通っている。そうだよ、これだよ。
何故こんなものが我が家に、と記憶を巡らせる。そういえばこれは去年の誕生日に友人から「外出自粛で鬱憤が溜まっているエムコと同居するオット君がノイローゼにならないように」ともらった消音アイテムなのである。
本来ならこのシリコンカップは口に、チューブは耳に当てるのが正しい使用法なのだが、今回は検証のために空気が通る穴をチューブの一点のみにし、残りの空気孔はテープで蓋をした。
すまない、あられもない姿にしてしまったが1日だけの辛抱だ。許してくれ。
これで道具の準備万端だ。
後は最高に臭い屁を産むべく、臭い屁グルメを食べるのみ。私の統計のランキング上位3品を下から順に1日かけて摂取し、その日の夜に満を持して検証するという寸法だ。翌日も臭い屁が止まらないことを懸念し、翌日が祝日で都合の良い28日を運命の日に決めた。
28日、早朝。
布団から這い出るなり、臭い屁ランキング第3位にランクインした茹で卵を2つ食べる。朝ご飯にもぴったりなキングオブ動物性タンパク質、卵。臭い屁はよく腐った茹で卵に喩えられるので、本企画には最適の食品であると言えるだろう。
茹で卵を食べた後は腸の悪玉菌を活性化させるべく軽い運動をし、腹部にいい屁を出せよとプレッシャーをかける。普段はダルくて仕方ない運動も検証のためなら腰が軽い。普段からやればいいのに。
その後、昼と夜の食品を用意するべく買い物に出かける。ランチは臭い屁グルメランキング第2位のビッグマック。セットはポテト、ドリンクはファンタグレープという一切の隙をも許さない厳しい姿勢で挑む。炭水化物×動物性タンパク質×炭酸×糖のカルテットが産み出す屁の破壊力に倒れた友人は数知れない。
ランキング番外編としておやつにサーティーワンでロッキーロードをチョイス。なんでも糖分の過剰摂取は屁に良くないらしい。アイスは大好物なので好都合である。ロッキーロードはチョコレートのアイスにマシュマロとアーモンドがたっぷり混ざり、ふにふにとカリカリの食感の変化が楽しい。レギュラーサイズをペロリと平らげ家路につく。
食べすぎたせいで腹はカエルのように丸々と膨れている。朦朧とする意識の中、布団に倒れ込む。そのまま3時間、禁断の食っちゃ寝タイムに突入した。本来であれば許されない行為だが、今回は検証の為にやむを得ない。心を鬼にしてダラダラ過ごした。
夜になりオットが仕事から帰ってきた。ついに臭い屁グルメ最期の晩餐。堂々の第1位に輝いたもつ鍋をコーラ(炭酸)と共にいただく。オットも久々の鍋にありつけて嬉しそうだ。
臓物の脂、山盛りのニンニクスライスと鷹の爪が織りなす刺激臭はドラキュラも裸足で逃げ出す威力だ。締めのちゃんぽんで腸に蓋をし、これで準備は万端だ。
1日中悪食した甲斐あってか、腸がブリブリとうねりをあげて活動しているのがわかる。努力が身を結ぶと素直に嬉しいものである。
ここですぐさま消臭パンツに履き替え、効果を試したいところではあるが、比較なくして実験とは呼べない。
まずは生(き)で嗅ぐ。
本来は先の図みたいな感じでやりたかったのだが、チューブが短すぎて届かなかったのでインリンがオブジョイトイしてる感じのポーズでセットする。オットの視線が痛い。
チューブを鼻に突っ込み、意を決して3.2.1…
イグニッション
あれ、なんか思ったより大したこ………
……………クッッッッッッッセ!!!!!!
思わずシリコンカップをビタンと地面に叩きつけた。衝撃でチューブが蛇のように跳ねる。
コッテリした重量感のある激臭が藻となり、鼻の穴にびっしりとこびりついたかのような錯覚を覚える。通常の屁と比べると尋常じゃない殺傷力。これは中々の仕上がりである。
私は履いていたパンツを脱ぎ捨て、いよいよ消臭おならパンツ『シュレディーズ』に足を通した。ハイライズかつ漆黒のそれを履いた私の姿はハリウッドザコシショウそのものである。投げ捨てたシリコンカップを再びジョイトイし、イグニッション。
…………あれ
もう一度、イグニッション。
…………………あれ?
臭くない。全然臭くない。
私は全身の血管に興奮がほとばしるのが分かった。
先程の激臭が嘘のようだ。すごい、すごいぞ消臭パンツ『シュレディーズ』!!!
リビングでエキサイトするザコシを見かねたオットがガバッと立ち上がった。まずい。
冒頭でも記した通りオットは、下品が運良くXXの染色体に恵まれただけのような私いう女と結婚したにも関わらずお下品が嫌いなのだ。何故私を人生の伴走者として選んだのか不思議で仕方ない。
怒られる、と身を捩った瞬間、オットは口を開いた。
「俺も嗅ごうか?」
───私を許してくれ。
彼こそ我が人生の伴侶であり、我が誇り。下品を嫌うが頭のおかしいこの男こそ、私の愛したオットなのだ。
オットはチューブを鼻に通し、消臭パンツ無し・有りの私のそれを、苦悶の表情を浮かべながらもテイスティングした。感想は以下の通りである。
・生の屁は湿っぽい上に重くて鼻の穴にこびりつく
・もつ鍋とニンニクのパンチがエグい
・自分の屁の40倍は臭い
・嗅がなければよかった
・つらい
・消臭パンツを履いた状態だと臭いがしない
・消臭パンツの効果は絶大と言っていい
第三者が忖度なしに評してこの高評価。
屁で悩む全ての人におすすめしたい、シュレディーズは高機能かつ画期的なおなら消臭パンツだと。
その日はそのままシュレディーズを履いたまま布団に潜った。普段なら羽毛布団内で屁をこくと朝まで香りが残るものだが、シュレディーズを履けば私の屁はまるで楽しいサウンド付きのファブリーズ。屁をこいても無臭という安心感は筆舌に尽くし難い。
今回の検証でいくつか分かったことがある。
アラサーが一日中暴飲暴食すると腹をブチ壊すこと。オットの無償の愛。そして何より、シュレディーズが優れた消臭機能を搭載し、屁で悩む全ての人に寄り添って作られた素晴らしい商品であることだ。
もしも近い未来、シュレディーズの機能が全てのパンツのスタンダードとなる日が来れば、きっとこの世界は底抜けにくだらなくて楽しい音で溢れるだろう。
fin.
いただいたお気持ちはたのしそうなことに遣わせていただきます