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(感想)ニーズに応える蜃気楼「夢幻の街 歌舞伎町ホストクラブの50年」

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この本はいちホストが駆け落ちした良家の妻と歌舞伎町に城を築き、ホストクラブの祖として君臨する所から始まる。店名は愛。今も受け継がれる、ホストクラブの伝説と言われている。そこから生まれたno.1ホストの実態と、社会のはみ出し者に開かれた唯一の成り上がりの道を示す。やがて次の時代を担う若者たちの台頭、独立と新しい道の模索が書かれ、話はビジネス的なものに移っていく。

ホストと聞いて期待されるような痴情のもつれ話は序盤だけ。売れっ子の一例、それも太客(お金をたくさんかける客)との関係を書かれるのみ。女性客を風俗に沈めたホストも少なくないと繰り返し書かれ、ホストに借金をした女性はどうなるか、援交ブームの裏にホストがいたなどわかりやすい話もあるが、そういうゴシップを語る本ではない。

ホストクラブといえば愛情でもみくちゃにされたい、全てを自分に向けて欲しいという閉じた欲求を想像していた。しかし著者は熱を上げたホストをNo. 1に押し上げる事を客の史上の喜びとして分析する。店からも客からも好きなホストと私を認めさせること。とても開いている。オタク行為で例えるなら好きなキャラの本を描いて、しかもすごく売れるようなものだろうか。それは気持ちが良さそうだ。同人趣味は金を積んでもどうにもならない所があるが、ホストクラブは金額だけで評価されるらしい。そこに達成感を見出せば、一体どうなってしまうのか。

いかにno.1争いに客を巻き込み過熱させるか。そのためにはただ売れっ子がいるだけではいけない。ホストの旬は短いとされる。このまま店に忠義を尽くすか、独立の道を探るかを誰もが迫られる。生き残りをかけた取り組みを敗残者や殺された者も交えながら真剣に追う。

経営者として弁熱をふるうホストに比例して、彼らに貢いだ女の話も無くなっていく。そのせいか、伝説的ホストクラブ「愛」の社長はいかに立派な人物であったか、ホストたちはその志をいかに継ごうとしているか、葬儀で読まれた弔辞なんか持ち出されるとなんだかホストクラブが立派なビジネスであるかのように聞こえてくるのが厄介だ。
愛の社長は素晴らしい人だった、ではその家族はどうか。愛人の子は2人が自殺、妻の連れ子は店の金で豪遊。夫の後を追うように亡くなった妻はどんな葬儀を上げられたのか書かれていない。ホストの上下関係や苛烈な虐め、殺人事件の悲惨な顛末。そんな話も書かれているので忖度しているとは言えない。しかし後半になるにつれホストクラブ側に寄り添って、その成功が気になって仕方がないように見えた。

総じて、あぶれ者たちを分け隔てなく迎える歌舞伎町。男女を飲み込む砂上の楼閣、その真実とは!とかそんなワイドショー的ノリではなく、淡々と発展していく歴史と事実を述べていた本書。しかし最後は、裏社会とのつながりも当然のようにあったり独裁者が無惨に殺されたりもしたけど皆んな企業努力して頑張ってます!という所に着地したのが歯切れが悪いと感じた。そこを無闇に突っ込むと企画自体消されてしまうので、これが妥協点だったのかもしれない。

カジュアルに推し活が広まる一方で、度を越して身を持ち崩す人の噂も広まりつつある。誰でもいつ深みにハマってもおかしくないという事で手に取った本書だったが、ホストとその仕組みがいかに金をむしり取る物なのかがわかった。客の姿が太客しか書かれなくなるのが恐ろしかった。愛の太客には細木数子もいたという。当時の客は細木数子と争わねばならなかったのか。怖くなると同時に、今この瞬間にもそんな存在と戦っている客たちがいると思うと、怖いより頼もしいような思いがした。きっとフロアの高揚に包まれ、1人ではない大人数で死ぬような絶頂感を味わっているに違いない。お金に換算して人生の前借りをしている。一度やってみたいではなく、それは永遠について回る物らしいので今の所は遠慮しておこう。



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