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婚約者が急に死んだので生き方が分からなくなって1年経った話

恋人が死んだ日からも終わらない、私の生活の話。
記憶力がないので、だんだんと忘れていくと思う。
その前に、なんとか書ききれたらいい。

死んでしまってからの感想は「よくわからない」。
あまりにもあっけなく死んでしまったから。
10数年前におばあちゃんが死んだ以来の「人が死んだ時の感情」を思い出そうとしてみたけど、ただいつもより、血管がどくどくいってるのがうるさく感じただけだった。

恋人がブラック事務所の仕事を辞める日のこと。
前日に「最後の仕事をすませてくる」「帰ったら行きつけの居酒屋に行こうね」と、鍋をつつきながら話をした。
それが火曜。
たしか「肉がうまい鍋の素」みたいな鍋。
まいたけにハマっていたのでアホみたいにまいたけをちぎってはいれちぎってはいれて、もりもり食べた。
恋人が働いている夕方の間に、ちょっと遠いスーパーに行って、バカデカまいたけをアホみたいに買い込んでいた。
テレビを見て好きな芸人に突っ込みながら、特に大した話もせず、時間差で寝て、起きたらいなかった。

(最後の出勤日なのにおはようといってらっしゃい言えなかったな)
(あとでめっちゃ祝お)

そうぼんやり思って二度寝して起きて筋トレしてお風呂入って待ってたけど、それから帰って来なかった。

冷蔵庫の中には、鍋の余りがたくさんあった。
あと2回はできそうなくらいの量。
 「ひとりで食べる」ことができなくて、ただ「捨てる日」を待った。
燃えるゴミの日は金曜。
消費期限がギリギリ過ぎた豚モモ肉がチルド室のなかでだんだん茶色くなっていくのを、開けたり閉めたりして毎日眺めた。

死んだ日はいつか覚えているのに、それから過ぎる時間や曜日はよく覚えてない。
毎日、起きてごはんを食べて外出してコーヒーを飲んで帰ってお風呂に入ってごはんを食べて、寝た。
寝るのが怖くて、毎日深く深く、お酒を飲んだ。
なんで寝るのが怖いのかはわからないけど、怖いなあ怖いなあと、脳内の稲川淳二に話しかけながら、ドボドボ白ワインを注いでいた。
毎日が若干の二日酔い。
その気持ち悪さは私の知ってる二日酔いだったので、知らない感覚に占領されるのの、10000000000000000000000000000∞倍マシだと思った。

湧き上がってくるもやもやは、空腹の感覚によく似ている気がする。
お腹を空かせないようごはんはたくさん食べたので、4キロ太った。
体をシラフにしないように、怖い「何か」を感じないように、 ある意味「体づくり」を心がけた。


彼のご両親も私の家族も、亡くなった翌日の朝には飛んできてくれた。
たくさん気にかけてくれて、守ってくれた。
お通夜前に一目彼の顔を見ようと、遺体安置室にはお友達がたくさんたくさん来てくれた。
電車や車で2時間以上かかるへんぴな土地なのに、すぐにかけつけてくれてすごい。彼は誰からも愛される人だったんだと、改めて思った。
みんな泣いたり喚いたり怒ったり笑ったり、短い間にたくさんの感情を見せてくれて、なんだかとても貴重な経験だった。

私はどういう顔をしていいか全然わからなかったけど、「大人でもこんなに泣くんだ」と思いながらとりあえず笑ったりみんなをよしよししたりして、思い出話を聞かせてもらった。
「無理しないでね」「ゆっくり休んでね」と言われたけど、無理してないしたくさん休んでる。
知ってる自分でいるように、知らない自分にならないように。
ずっとすぐそばにいる怖いもやもやを殺すために、その日もワインをがぶ飲みした。


お葬式前日の、お通夜。
ご両親の計らいで、私と彼と彼のお母さんの3人で過ごすことになった。
彼の好きだったお酒とお菓子を持ってきて、一緒に食べてたくさんおはなしした。
小さい頃のこと、趣味のこと、最近聴いてた音楽のこと、お仕事のこと、あとは、悪口、悪口、悪口、悪口、悪口、悪口エトセトラ悪口。
お母さんはたくさん怒って、たくさん泣いていた。
もともととっても小さなお母さんがもっと小さくなって泣いていたので、抱きしめるのはとても簡単で、かわいいなと思った。



お通夜の時、お母さんが寝たあとに、死んでからはじめて2人で話した。


「しばらく2人きりになれてないね」「たくさん怒ってごめんね」「本当は私と付き合いたくなんてなかったよね」「無理してたよね」「ごめんね」「大切にできなくてごめんね」「怒ってばっかで自分のことばっかでごめんね」「未来のことばかり考えて、いまのあなたを見てあげられなくてごめんなさい」「私からたくさん逃げたかったよね」「忙しいのに家事やらせてごめんね」「退勤したらすぐに帰りたかっただろうに買いものたのんでごめんね」「しばらくハグしてあげられてなかったね」「もっと自分から手握ってよかったんだよ」「もっとやりかたはあったはず」「みんな怒ってるよ」「たくさん泣いてたよ」「あの子もあの子もあの子も、みんな結婚式で会いたかったなあ」「実家に帰りがちで家を空けてばかりでごめんね」「作ったごはん食べてくれてお皿洗いまでしてくれていつもえらい」「たくさん書いた手紙、どうするの?一緒に燃やす?」「昔好きだった子にフラれて泣いてる動画、友達から送られてきたから見たけど最悪な気分だわどうしてくれんの」「一生一緒にいてくれや、じゃないの?」「まだM-1でロングコートダディが優勝するとこ見てないじゃん」「バラエティ見溜まってるよ」「結局私のこと好きだった?」「愛してるよ」


ちょっとだけ寝て、クローゼットとユニクロでかき集めた黒い服を着てお葬式に参加した。

お葬式当日。
家族だけで…と話していたのに、彼がすごく人気者だったせいで、最終的に何十人ものおともだちが来ることになっていた。

その日はからっと晴れた。
1時間に1本しか電車のないど田舎に、たくさんの人が集まり始めた。
共通のともだちが来てしまった。
みんな結婚したり子どもができたりしてたのでそれまであまり会えてなかったけど、久しぶりに会ったら何も変わってなかった。
社会に揉まれて大きな体になった男の子たちと、メイクも格好も落ち着いた女の子たちが、静かに震えて泣いている姿がとても愛おしくて、たくさん抱きしめさせてもらった。


5月が来れば、付き合って4年だった。
その前に私の誕生日が来るので、退職祝いも込めて盛大に祝おうねと話してたはず。
まだ何もやってないし、もう何もできない。
やろうと思っていたことは全部、私の頭の中で定期的にジャブを打ってきて、一向に忘れさせてくれない。

願望の記憶はとてもやっかいだ。
叶わなかった未来に対する期待は、私の心に絶望と若干の安堵を与えてくれる。
「安堵」という言葉が浮かんで、ふんわり自分の気持ちに気づく。
(いやいや、)
と、思っても、自分に嘘をつくのはやめようといつからか決めていたのと、嘘をついたって死んでんだからバレちゃうよって。言い訳する相手もいないんだから、って。振り切る。

(私、彼と居て、苦しかったんだ)


いつからか、日に日に太っていく体。
晩ごはんのカロリー調整も意味なく、どんどんどんどん、ぶくぶくぶくぶく。
1年ぐらいで急激に、20キロは増えた。
むちむちになりすぎて、笑えていない目元。
土日はすっかり深酒と、トイレで嘔吐、お風呂場で嘔吐、玄関で嘔吐。
謝るけど、やめられない。
たまに繋ぐ手も、(こんなに大きかったっけ?)
肉の塊と暮らしているような生活。
姿を見るたび、動悸がおさまらない。
毎日、帰ってきた彼と目を合わせるのが辛かった。
無償の愛とは言うけれど、ちょっと神様のご都合で解釈し過ぎてない?


どんどん悪くなる彼が、どうすれば生きやすくなるだろうか。
そう考えて、ご両親と説得して、ようやく彼から「転職が決まった」と言われた。

転職は、嘘だった。
仕事を辞めるってことも、事務所に伝えてなかった。
聞いたら、翌月もスケジュールがパンパンだった。
家族にも、私にも、自分にも、彼はたくさん嘘をついていた。


嘘。
嘘が叶えられるものは、何があるだろう?
一時的、もしかしたら一生涯バレないことで、その嘘が幸せを呼ぶこともあるかもしれない。
でも、必ず暴かれる嘘をつく理由は、何があるだろう?
彼は、ご両親と私が喜ぶ姿を、優しい瞳で見つめていた。
彼は私たちに、しあわせと安心を与えることにだけ、努めたのだろう。

いやいやそういうことじゃねーだろ。アホか。
死んだら元も子もない。
まず、死んだら幸せがありませんから。馬鹿なんかな?
結局何やったところで不幸になる道。
もっと方法があったはずなのに、彼も私も誰も、何もできなかった。
彼の人生はとても輝かしく、尊敬に値し、私の生きる希望だった。
その希望が急になくなってしまったので、どうしたもんかと、この1年考えてる。
彼が開いた事務所で事務とか営業しながら一緒に働くっていう、私のパート専業主婦の夢はぱたりと途絶えてしまった。
と、いうのも、ハッキリ言って私には軸がない。
彼が手に職を持っていることをいいことに「お手伝いして生きてけばいっか!」という安直な考えに至っていたからだ。
そもそもで見ても、感情的すぎて理性のカケラもない私にとって、人と折り合いをつけて働いていく能力はほぼない。
だからフリーランスで生きようと決めたのに。
だから、私のためにも彼と一緒が一番幸せで楽な未来があると、いい未来を築けると、思ったのは私だけだったね。

毎日は過ぎていくし、私はまだ生きてる。
恋愛もしたいし、仕事もしたいし、何より私は「私」を生きたい。

改めて。
シコシコ模索したり悩んだりしていくと思うので、その内容をちょっとずつここに記していこうと思う。
人生二巡目転生したつもりで、やっていきたい。

見てろよ〜!

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