見出し画像

Doll 2号  no.3

no.1(1話目)はこちら
https://note.com/mmm12o2/n/n106685e6726a

—— 金色の夕昏 ——


駅と直結したシティーホテルにリナちゃんママこと常田さんのママがエコバックからネギを出してエレベータがくるのを待っていた。
ネギとホテルとエレベータ。
世の中、似ても似つかない親子がいるように整合性の合わない風景もそこら中にある。
キッチンもないシティホテルの部屋にネギ。
意味はないがありえない話ではない。

常田さんママこと常田友里恵が30階でエレベーターを降り、3012号室をノックすると、出てきたシャツの腕にいざなわれていった。
一瞬だったからブランドは分からないが、腕にあった男物の時計はかなり高いものだろう。
そしてリカちゃんママの左手の薬指にはしっかり指輪。
何もない事を祈ろう。


「レナなにゆびはめてんねん」

「指輪だよ」

「ぶっどい指輪やな」

「うそ。給食で残したドーナッツ」

を、掲げレナは公園のジャングルジムに移動するための器官で駆け寄った。
いつもは、あの遠くに見えるブランコから、あそこのてっぺんからあえて顔から突っ込んで、事実上顔を白紙に戻そうかと思って眺めていたジャングルジムだ。特に、今の顔に恨みはないけど未練もないし、ママが毎日そういうなら目頭でもなんでも切って好きなようにしていいと思っていた。
どうせ、変えれる顔。
レナがしたい顔が見つかったまた変えればいいし、戻したければ戻せばいい。と気楽に考えていたが、問題は痛みだった。
白紙に戻すにはかなりの衝撃がいる。
器が壊れて中身が正気を保てるのか不安で近づくことさせできなかった。
今日はそのジャングルジムのてっぺんになぜのぼってみようと思った。

「なんでそんなもんわざわざはめて登んねん」

「なんでやろ。お姫様みたいでしょ」

「ブスなお姫様やなぁ」

「誰がブスやねん」

「お前じゃ」

「我か。でも誰がお姫様は綺麗ってきめた。ブスな姫もおるやろう」

レナはドーナッツを崩さぬようジャングルジムを登り切ろうとしたその瞬間、掴む器官に集中し過ぎて、突っ張る器官を滑らせた。

とたん、空が回り、世界が逆転した——


シティホテルは日が暮れるのを見下ろしていた。

「リカちゃんまま」
「わざと呼んだでしょ。いじわる」
「なに?お互い指輪も外さない関係だろ」
「外してって言ったら外してくれるの?レナちゃんパパ……」


——かと思ったが、そんなはずはない。
記憶も未来へも何も飛ぶことなくレナは地上に着地していた。
時空飛び、一瞬どこか別の違った世界、例えば同時刻のどこかのホテルの一室の、声が聞こえた気がしたがそんなことも無かろう。
痛いけど器は軽い掠り傷程度。ドーナッツの食い意地によって砂一つつかず無事だった。

“ドーナッツの穴が食べたい……”
というのは何の話だろう。
いつ聞いたのかも覚えはないが、レナの中身がいつか聞いたのだろう。
と、さっきから中身中身などといってるが、正直中の身のこともよく分からない。
だから、鏡に映るレナはいつも真っ黒な穴が開いているだけなのかもしれない。
居る、居ると感じている自分はいなくって、結局器のレナがかろうじてレナを構築しているのかもしれない……。

レナはドーナッツの穴を覗いてみた。
今、レナの見る器官の穴とドーナッツが重なっている。
この穴の中には何かあるのか。
何もないのか。
まぁ、あるわけないんだけど、こう、先が見通せるのは素敵だ思った。
ドーナッツの穴には黄金の夕暮れがつまっていた。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?